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出会い6

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新しい烏龍茶のグラスに口をつけた兵藤が、ぶっ倒れたのだ。たった一口で。
 原因はなんとも単純なものだった。烏龍茶と烏龍ハイの取り間違えという、いまどき漫画でもそうなさそうなベタなものだ。
 飲む前に匂いで分からなかったのかと言いたいが、たった一口で昏倒してしまったのだ。匂いを感じる余裕もなかったかもしれない。
 介抱はもちろん、それまで談笑していた慶に任された。慶もそれを断ることはなかったが、兵藤の介抱は想像以上に骨の折れるものだった。
 水を飲ませようにも完全に泥酔状態でうまくいかず、意識が戻ったかと思えばすぐに寝入ってしまう。元々寝つきがいいのか、酔っているせいなのか分からないが、いくら起こしても起きる気配がまるでなく、慶は完全にお手上げ状態だ。
 だがこのときまでは、体調が急変しなければそれでいいと考えていた。慶が介抱を引き受けたのを後悔しはじめたのは、合コンが終わり、店を出るときだった。
「んじゃ俺ら、女の子たちと二次会行くから。そいつのこと、よろしくな!」
 にこやかにそう言った悪友は、慶と兵藤を除いた全員を引き連れて、早々と次の店へと移動してしまう。
 これには慶も心底参った。
 誰もいなくなった居酒屋にいつまでも滞在するわけにはいかず、慶は兵藤を連れて店を出ようとするのだが、それがとてつもなく重労働なのだ。
 二人の身長は変わらないか、兵藤が少し高いくらいだったが、体格は見るからに違う。どちらかといえば細身な慶とは違い、兵藤は非常に逞しかった。体重の差は歴然だろう。そして兵藤は完全に寝入っている。その重さは三割り増しだ。
 慶は兵藤を肩に担いだ瞬間、思わず投げ捨てたくなった。一晩くらい路上で過ごしても死にはしない。路上で寝る経験も、兵藤的に言えば勉強になるはずだ。
 しばしの間、本気で悩んだ。だが結局、見捨てるような真似は出来なかった。
今はただの酔っ払いだが、いつ体調が急変するかも分からない。もしものことがあった場合、慶は一生目覚めの悪い朝を迎えることになるだろう。それに短い時間とはいえ、楽しい時を過ごした相手を見捨てるのは気が引けた。
見捨てないと決めたのはいいが、慶は兵藤の家がどこにあるのかも分からない。自分の家に連れて行くには電車を乗り継いで行かなくてはならず、泥酔状態の兵藤を運びながらではいつ辿りつくかも不明だ。タクシーを使うには懐も少々寂しい。
慶が様々な選択を吟味したうえ選んだのは、近場のラブホテルで一晩を過ごすことだった。
ラブホならばベッドで寝かせることも出来るし、最悪嘔吐されても風呂場がある。ビジネスホテルでも良かったが、兵藤の重さを考えると少しでも近くのホテルが良い。
男同士でラブホに入るところを兵藤の知り合いが見たらご愁傷様としか言えないが、こちらも緊急事態なのだ。その辺りのリスクは兵藤にも背負ってもらおう。
かくして慶はなんとか兵藤をホテルへと運び込み、ベッドに寝かせ、衣服を緩め、現在に至るわけなのだが……。
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