白薔薇の誓い

田中ライコフ

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蛇のような男

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 記憶の中にある姿よりわずかに歳をとっているものの、爬虫類を思い出させる目つきと狡猾な雰囲気は変わりなく、むしろ磨きがかけられているように感じる。
「知らせもなく訪ねて来るのだ。さぞかし重要な用件だろうな」
 アダマスは宰相の姿を視界に入れぬよう、わざと伏目がちにそう言った。その態度が気に入らなかったのか、宰相は鼻をならし、棘のある声音を出した。
「重要なものでないのなら、わざわざ寂れた屋敷に顔を出すこともありますまい。本来ならばアダマス殿下が王宮に赴き、王からじきじきに話を聞かなければいけない案件なのですが……なにぶん王もご多忙の身。アダマス殿下に時間を割くことも惜しいと」
「それはずいぶんなことだ。実の子である私との謁見より、貴族のご機嫌伺いがそれほど重要か」
 応接間の空気が凍りつき、二人の間に緊張感が生まれる。息をするのも躊躇うような雰囲気だった。
 それでもアダマスは背を伸ばし、凛とした態度で宰相に挑む。本当はこの場から逃げ出したいほどだったが、王子としてではなくアダマス個人として、この男の前で弱音を吐くことが許せなかった。
 しばしの沈黙の後、先に口火を切ったのは宰相だった。
「殿下とは昔からそりが合いませんなぁ。その身体に流れる異国の血がそうさせているのか……いえ、決して差別するつもりはないのですが」
 アダマスは目を上げるとキッと宰相を睨みつけた。宰相に怯んだ様子はなく、ニタニタと嫌な笑みを浮かべている。ときおり見える赤い舌が、宰相を更に爬虫類に思わせ、アダマスはゾッと身を震わせた。
「私とお前では、実りのある話は出来まい。用件があるのならさっさと話すがいい」
「そうしたほうが互いのためですな」
 アダマスから離れた場所に座っていた宰相がゆっくりと立ち上がる。そのままアダマスの目の前までやってくると、罪人に判決を告げる裁判官のような目で、アダマスを見下ろした。
「殿下には王家の人間として、責務を果たしてもらうことになりました」
「責務……? 一体なんの話だ」
 話の意図が見えてこず、アダマスは訝しんだ視線を宰相へと送る。宰相はそれを受け止め、にやりと口角を上げた。
「政治に疎い殿下でも、隣国と我が国の関係はご存知でしょう」
 王子としてなんの権力も持っていないアダマスだが、最低限の教育は受けている。当然、隣国との関係も知識としてはあった。
 隣国とアダマスの住む国は、友好関係にある。
自然と資源が豊富なこの国にたいし、隣国は資源に乏しい国だった。その昔、乏しい資源をめぐって内戦が何度も起き、大地も枯れてしまったと聞き及んでいる。だが、そんな厳しい環境だったからこそ、アダマスの国にはないものが栄えていた。それが圧倒的な武力と闘争心だ。
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