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第二章 ロルフとリリアの危険な冒険!?

第5話 神獣の巫女と森の守護者

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 ◇◇◇

「リリア、取り敢えず一回ギルドに戻ろう。後、コイツはどうみても子どもだからなぁ。どっかに親がいると思うんだが。このまま連れて行っていいものか……」

「そ、そっか……急に子どもが居なくなったらこの子のお母さんが心配しちゃうよね。どうしよう……」

「ワンっ!」

 フェンリルの子どもは一声鳴くとついて来いと言わんばかりに歩き出した。

「ね、ねえロルフ、なんかついて来いって言ってるみたいなんだけど……」

「だな。どうする?行ってみるか?お前に危害を加えることはないと思うが」

「うんっ!私の従獣になってくれそうだしね!いってみようよ!」

 リリアとロルフはフェンリルの子どもについて道なき道を歩き出した。どれほど歩いただろうか。森の一角に清涼な空気と果樹の生い茂る開けた場所が広がっており、大きな洞穴と小さな滝も見える。

「うわぁ、滝だ!なんか美味しそうな果物もある~!それになんだか空気が綺麗な気がするんだけど」

「本当だな。瘴気が浄化されているのか?この森にこんな場所があるなんて……」

 洞窟の入り口でフェンリルが一声鳴くと、洞窟から小さなフェンリルがコロコロと飛び出してくる。

「「「ワンワン!!!」」」

「わわっ!みてロルフ!可愛い~!!!」

 5匹の小さなフェンリルが次々とリリア目掛けて飛びついてくる。リリアは甘えてくるフェンリルを夢中でもふっていた。

「はぁ、かわいい。幸せ……」

「良かったな」

『よくぞ参ったの、我らが友よ』

 不意に洞窟から声が響いたかと思うと、広い洞窟が窮屈に思えるほど大きなフェンリルが姿を表した。

「はわわわ!この子たちのお母さんですか!?はじめまして!リリアです!そして、こっちがパートナーのロルフですっ!」

『心地よい神力を感じる。我らの友と逢うのは久し振りじゃ……』

「え、えーと、神力とかよくわからないんですけど……」

『神力は女神から直接与えられる加護ゆえな。リリアから感じる力は邪気がなく、それゆえ心地よい。リリアのように我らに直接力を与えてくれる存在を我らは神獣の巫女と呼んでおる。そしてロルフ……お主は「守護者」じゃな』

「お初にお目にかかる。誇り高き神獣フェンリル。女神の眷属、白き森の王よ。我が名はロルフ。女神の加護により森の守護を司るもの。」

 お母さんフェンリルの前で膝をつくロルフをリリアはポカンとした顔で眺めていた。

『我らは共に森を守護するもの。対等な立場じゃ。楽にしておくれ』

「感謝する」

 ロルフがすっと立ち上がると、リリアが慌てて尋ねた。

「ちょっとちょっと、どういうこと!?森の守護者って何!?」

「俺たち獣人は元々力が強いだろ?だが、たまにその中から女神の加護を持つさらに強い個体が現れることがある。そいつらを『守護者』と呼ぶんだ。俺もその内のひとりで、俺の一族の守護者は代々森の守護を司ってる。大抵自分の産まれた土地を守ってるが、俺みたいに冒険者になってあちこち回ってる奴も多いな」

「あ、ああ、ロルフ強いもんね。そっか、それで珍しい変身魔法も使えるんだ」

「まあな」

 ロルフはニヤリと笑う。

「ちなみに獅子獣人のディランは草原の守護者だな」

「え!ええーーー!!!ディランさんも!?し、しらなかった」

「まぁ、いちいち言いふらすもんじゃねーしな。守護者同士は大抵実力でわかるし」

「そっかぁ、それで二人とも仲良しなんだね」

「気持ち悪いこと言うな。仲良くねえ」

「いつもじゃれてるじゃん」

「じゃれてるんじゃない」

『仲がいいのう。神獣の巫女と森の守護者の番とはな。なんとも似合いじゃ』

「ええっ!番って結婚相手のことですよね!私たちまだ結婚してませんよっ」

『番は己にとってただひとり愛し守るべきもののことじゃ。違うのか、ロルフ』

「違いません。リリアは俺にとってただ一人の番です」

(んなっ!!!!)

 サラリと真顔で答えるロルフに真っ赤になって口をパクパクさせるリリア。

『ふふふ、いい男じゃのう。さて、我が子が世話をかけたな』

「あ、いいえ!」

 最初に逢ったフェンリルの子どもがリリアの周りをくるくると回っている。

『どうやらお主のことが気に入ったみたいじゃ。まだ力も弱く未熟者じゃが連れて行ってくれるか?』

「あの、この子、まだ小さいけどいいんでしょうか?」

『我らの生きる時間は人と比べるとずいぶん長い。巫女と過ごせる時間は我らにとってほんの一瞬。じゃがとても貴重なものじゃ。こやつは運がいい。連れて行ってくれるなら、名前を付けてやっておくれ』

「名前、名前……」

「おい、ちゃんとした名前つけてやれよ?お前俺のこと結局ずっと猫ちゃんって呼んでたしな?わんちゃんはやめてやれよ?」

「うるさいロルフ!あれはロルフのこと魔物だと思ってたから猫アピールするためにわざとそう呼んでたの!」

「そ、そうだったのか……」

「ほんとは『ブラックタイフーン』とか『ローリングサンダー』とか、もっとかっこいい名前付けたいの我慢してたんだからね!」

「いや、それかっこいいのか?猫ちゃんのほうがまだましだな」

「うーん?呼びやすい名前がいいよね。フェンリル、フェンリル、フェン?」

「ワン!」

 リリアが、フェンと呼んだ瞬間、フェンリルの体が淡く光った。

『フェンか。いい名じゃ。これで契約はなった。リリア、お主がおのが命を全うするまで、フェンはお主を守護する守護獣となろう』

「守護獣……」

『巫女は我らに力を与えてくれるが、巫女自体は力を持たぬゆえな。弱い魔物は聖なる力を避けるが、強い魔物は脅威と見なして襲ってくるじゃろう』

「ひぇっ……」

『まぁ、我が子とロルフがついておれば遅れはとるまいよ』

「よ、よかった!よろしくね、フェン!」

『よろしく!リリア!』

「フェンがしゃべったっ!!!!」

『リリアと契約したことで力を与えられたのじゃ』

「うわー、うわー、可愛いっ!」

「まぁ、猫ちゃんよりはましだな。良かったな、フェン」

『ロルフの兄貴もよろしく!』

「ぷっ、兄貴」

「兄貴か、まぁいいか」

 ロルフもフェンをわしゃわしゃともふる。

『いくがいい、我が子よ。巫女をたのんじゃぞ?』

『はい母上!いって参ります!』

 お母さんフェンリルに別れを告げたリリアとロルフは、フェンを連れギルドに向かった。
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