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第3章 おてんば姫の冒険録
16 アリシア王国の外交戦略
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♢♢♢
一方アデルは森を抜け、真っ直ぐにエスドラドの首都へと向かった。騒ぎにならないよう、門の近くでゴーレム達を消し、縛り上げた冒険者達を引き連れて歩く。
「ある程度覚悟はしてきたが、街は思ったほど荒れてないな。おいお前ら、ギルドまでさっさと案内しろ」
「へ、へい……あの、俺たちどうなるんで?」
すっかり大人しくなった冒険者達は、うなだれたままとぼとぼと歩いている。
「そうだな。国際条約で禁止されている奴隷の売買に手を染めたんだ。それなりの罪は課せられるだろう。うちの国なら冒険者ギルドからの永久追放と全財産の没収、及び懲役刑だな。この国がどうなってるかは知らん」
「そ、そんなに……」
「当たり前だろう?人の人生をなんだと思ってるんだ」
カミールが特に力を入れた奴隷解放運動により、アリシア王国と交流のある国のほとんどが、獣人を含む奴隷制度の撤廃を求められた。ここエスドラドも、数年前に奴隷制度の撤廃を決めた国のひとつだ。
国の根幹さえ左右しかねない、奴隷制度の撤廃。もちろんそれなりに反発も多かった。だが、奴隷制度を容認する国とは一切の外交を行わないことを宣言したことで、多くの国がその要望に従った。アリシア王国との外交はそれ程までに重要視されたのだ。
―――アリシア王国の産み出した万能回復魔法薬『ポーション』
このポーションの存在が、国際社会に置けるアリシア王国の地位を一気に引き上げることになった。
通常、薬草から作られる回復治療薬の効果は、実はそれ程高くない。しかも、怪我や病気、毒の種類によって、使う薬草も全て異なるため、正しく扱うにはある程度の専門知識が必要となる。
例えば怪我に効く薬草を使って作られる薬の効果は、痛み止めや血止め程度。それでもこれらの薬草で作られた薬は安価で、庶民でも手に入り安いこともあり、一般的な需要は高い。
問題となるのは、日常的に魔物と戦う冒険者や騎士達だ。魔物と戦う冒険者や騎士の場合、魔物にやられた傷は命に関わることもある。魔物でできた怪我は微量でも瘴気を纏っているため、通常の薬草ではその瘴気を浄化しきれず、後遺症を残すことが多いのだ。瘴気の影響を完全に打ち消すには、聖魔法である回復魔法に頼らざるを得ない。
だが、その恩恵に預かれる人は決して多くなかった。そもそも回復魔法を掛けられる人材が少ないのだ。小さな国の神官レベルでは、瘴気を消すのが精一杯。一命は取り留めたものの、長年怪我の後遺症に苦しむ者も数多くいた。
そこに登場したのが、『ポーション』だ。驚くのは、骨折程度なら瞬く間に治してしまうその効果の高さ。しかも、回復魔法を掛けるのと同じように、瘴気も一度に消してしまう。回復魔法の希少なこの世界において、まさに誰もが待ち望んだ夢のような薬だった。
更に、他には類を見ない効果を発揮する最高品質のポーション。エリクサーの存在もまことしやかに囁かれている。エリクサーは、あらゆる病や怪我に効果を発揮すると言われており、ほんの一滴で、1000人の傷も癒すとか。
アリシア王国ではエリクサーの存在を否定しているし、流石にそんなものの存在を本気で信じている者はいない。しかし、万が一そんなものがあるならば、国を売ってでも手に入れたいと思うものは多いだろう。
♢♢♢
「俺たちだって本当はあんなことしたくなかったんだ……」
「ああ、でもこれでアイツらとも縁が切れるってもんだ!はっ!清々すらぁ」
どこか開き直る冒険者達をアデルは思案げに見つめる。もちろん、奴隷の売買など、こいつらだけでできることではない。
買う奴がいなければ、売ることはできないのだから。明らかに違法だと分かった上で手を染めると言うことは、奴隷売買の元締めにはそれなりの立場があるはず。ギルドか、国か、あるいは教会か……見極める必要があった。
効果の高いポーションの存在は、そのまま教会の地位を脅かした。表だって抗議してくることはないが、忌々しく思っていることは間違いないだろう。
表向き奴隷解放を謳いながら、実際には待遇の変わらない兵士や傭兵として搾取され続ける獣人達もいまだ多い。その全てを真の意味で解放することが、アリシア王国の……ティアラの悲願となっている。
(さてと、鬼が出るか蛇が出るか……アリシア王国を舐めたこと。ティアラを悲しませたこと。死ぬほど後悔させてやろうじゃねぇか)
アデルは不敵に微笑んだ。
一方アデルは森を抜け、真っ直ぐにエスドラドの首都へと向かった。騒ぎにならないよう、門の近くでゴーレム達を消し、縛り上げた冒険者達を引き連れて歩く。
「ある程度覚悟はしてきたが、街は思ったほど荒れてないな。おいお前ら、ギルドまでさっさと案内しろ」
「へ、へい……あの、俺たちどうなるんで?」
すっかり大人しくなった冒険者達は、うなだれたままとぼとぼと歩いている。
「そうだな。国際条約で禁止されている奴隷の売買に手を染めたんだ。それなりの罪は課せられるだろう。うちの国なら冒険者ギルドからの永久追放と全財産の没収、及び懲役刑だな。この国がどうなってるかは知らん」
「そ、そんなに……」
「当たり前だろう?人の人生をなんだと思ってるんだ」
カミールが特に力を入れた奴隷解放運動により、アリシア王国と交流のある国のほとんどが、獣人を含む奴隷制度の撤廃を求められた。ここエスドラドも、数年前に奴隷制度の撤廃を決めた国のひとつだ。
国の根幹さえ左右しかねない、奴隷制度の撤廃。もちろんそれなりに反発も多かった。だが、奴隷制度を容認する国とは一切の外交を行わないことを宣言したことで、多くの国がその要望に従った。アリシア王国との外交はそれ程までに重要視されたのだ。
―――アリシア王国の産み出した万能回復魔法薬『ポーション』
このポーションの存在が、国際社会に置けるアリシア王国の地位を一気に引き上げることになった。
通常、薬草から作られる回復治療薬の効果は、実はそれ程高くない。しかも、怪我や病気、毒の種類によって、使う薬草も全て異なるため、正しく扱うにはある程度の専門知識が必要となる。
例えば怪我に効く薬草を使って作られる薬の効果は、痛み止めや血止め程度。それでもこれらの薬草で作られた薬は安価で、庶民でも手に入り安いこともあり、一般的な需要は高い。
問題となるのは、日常的に魔物と戦う冒険者や騎士達だ。魔物と戦う冒険者や騎士の場合、魔物にやられた傷は命に関わることもある。魔物でできた怪我は微量でも瘴気を纏っているため、通常の薬草ではその瘴気を浄化しきれず、後遺症を残すことが多いのだ。瘴気の影響を完全に打ち消すには、聖魔法である回復魔法に頼らざるを得ない。
だが、その恩恵に預かれる人は決して多くなかった。そもそも回復魔法を掛けられる人材が少ないのだ。小さな国の神官レベルでは、瘴気を消すのが精一杯。一命は取り留めたものの、長年怪我の後遺症に苦しむ者も数多くいた。
そこに登場したのが、『ポーション』だ。驚くのは、骨折程度なら瞬く間に治してしまうその効果の高さ。しかも、回復魔法を掛けるのと同じように、瘴気も一度に消してしまう。回復魔法の希少なこの世界において、まさに誰もが待ち望んだ夢のような薬だった。
更に、他には類を見ない効果を発揮する最高品質のポーション。エリクサーの存在もまことしやかに囁かれている。エリクサーは、あらゆる病や怪我に効果を発揮すると言われており、ほんの一滴で、1000人の傷も癒すとか。
アリシア王国ではエリクサーの存在を否定しているし、流石にそんなものの存在を本気で信じている者はいない。しかし、万が一そんなものがあるならば、国を売ってでも手に入れたいと思うものは多いだろう。
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「俺たちだって本当はあんなことしたくなかったんだ……」
「ああ、でもこれでアイツらとも縁が切れるってもんだ!はっ!清々すらぁ」
どこか開き直る冒険者達をアデルは思案げに見つめる。もちろん、奴隷の売買など、こいつらだけでできることではない。
買う奴がいなければ、売ることはできないのだから。明らかに違法だと分かった上で手を染めると言うことは、奴隷売買の元締めにはそれなりの立場があるはず。ギルドか、国か、あるいは教会か……見極める必要があった。
効果の高いポーションの存在は、そのまま教会の地位を脅かした。表だって抗議してくることはないが、忌々しく思っていることは間違いないだろう。
表向き奴隷解放を謳いながら、実際には待遇の変わらない兵士や傭兵として搾取され続ける獣人達もいまだ多い。その全てを真の意味で解放することが、アリシア王国の……ティアラの悲願となっている。
(さてと、鬼が出るか蛇が出るか……アリシア王国を舐めたこと。ティアラを悲しませたこと。死ぬほど後悔させてやろうじゃねぇか)
アデルは不敵に微笑んだ。
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