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1 坊ちゃまピンチです!

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 ◇◇◇

「わぁぁぁーーーーんっ!ライラ!ライラぁ!た、助けてぇぇぇ!」

 森の方から響き渡る坊ちゃまの悲鳴に、ライラはランチの後片づけの手を止め素早く振り返る。

「坊ちゃま?おや、あれは……仕方ありませんね」

 ライラは泣きながら走ってくるジョシュアの後ろから、猛ダッシュで追い掛けてくる小さな角ウサギに目を細めた。小さな体にふわふわの毛皮を持つ角うさぎは、その可愛らしい見た目に反して気性が荒く凶暴だ。

 先程まで森の中で木の枝を振り回し、凛々しい掛け声を上げて騎士ごっこに興じていたジョシュアだが、大方巣穴に気付かず踏み抜いて、怒った角ウサギに追い掛けられているのだろう。全く、護衛騎士たちは何をしているのか。護衛対象の坊ちゃまをやすやすと危険にさらすとは、役立たずにもほどがある。

 このままでは、大切な坊ちゃまが怪我をしてしまうかもしれない。

 ライラは素早く太もものガードルに仕込んだナイフを抜くと、目にも止まらぬ速さで投擲する。ナイフは角ウサギの鼻筋すれすれを掠めると、地面にそのまま深々と突き刺さった。慌てて元いた森の中に逃げていく角ウサギ。

(ふむ。もしかしてあのウサギも、今夜のシチューの具として捕まえたほうが良かったか)

 しばし思案にくれていたが、目に涙を一杯溜めて、ぽすりとメイド服のスカートにしがみついてきたジョシュアの姿に考えを改める。

(いや、ここはやはり坊ちゃまの保護が最重要案件。速やかに屋敷に帰還するとしよう)

 素早く判断を下すと、ライラはヒョイッとジョシュアを小脇に抱える。

「ら、ライラ!?ぼ、僕一人で歩けるからっ!」

 顔を赤くしながら必死で手足をバタつかせるジョシュアに、ライラはチラリと目をやるだけで、腰に回した手を離そうとはしない。

「いけません、坊ちゃま。この森は坊ちゃまには危険すぎるようです。速やかに屋敷に帰還いたします」

 そう言うと、子供一人を抱えているとは思えない速さで、スタスタと歩き出した。

 だが、今日こそお気に入りのライラに良いところを見せようと頑張っていたジョシュアは慌てた。

「い、嫌だっ!さっきはちょっと驚いただけだ!」

 せっかく母上たちの目の届かない屋敷の外に来たのだ。この機会にもっとライラと仲良くなりたい。そう思っていたのだ。
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