意地悪な大聖女の姉と美しいだけで役立たずの妹~本物の聖女は隣国で王太子殿下に溺愛されているというのは内緒~

しましまにゃんこ

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3.とまどいの毎日

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◇◇◇

 一方そのころシンシアは、なんとか無事に挨拶を済ませたことにほっと息をついていた。一人で王城に来たものの、力のない姫として冷遇されるだろうと覚悟していたが、どうやら歓迎されているらしい。宰相から渡された手紙の中身は知らないが、シンシアを売り込む文言でも書き連ねてあったのだろうか。

(とりあえず、すぐに出て行けなんて言われなくて良かったわ)

 部屋に案内された後、慣れた手つきの侍女たちにてきぱきと風呂に入れられ、着心地の良い夜着を着せられる。上質な絹で作られた肌触りの良い夜着は、シンシアの無駄のない美しい体のラインを一層引き立てた。ベテランの侍女からも思わずため息が漏れる。

「お美しいですわ。さすがナリア王国の姫君。まるで妖精のよう」

「ええ。とても同じ人間とは思えませんわ」

 侍女達の賞賛の声にツキリと胸が痛む。ナリア王国の王族は神から愛されし特別な存在。けれど、何の力もないシンシアにとっては、見た目の美しさなど何の意味も持たないものだった。

「いえ、私など。何のとりえもない名ばかりの王族ですから」

 俯くシンシアに侍女たちはふんっと鼻息を荒くする。

「何をおっしゃいますか!美しさこそ女にとって最大の武器ですわ!」

「ええ!姫様の美貌に虜にならないものはおりませんわ!」

 今までろくに褒められたことのないシンシアは目を丸くする。

「そ、そう、かしら」

「そうですとも!現に王太子殿下も……」

 若い侍女が年配の侍女にじとりと睨まれてハッと口をつぐむ。

「あの、王太子殿下が何か」

 先ほどあったばかりだが、何か言われていたのだろうか。

「いえ、ですぎた口をききました。ご本人から直接お聞きくださいませ」

 しずしずと退室していく侍女からは結局何も聞き出すことができなかった。

(政略結婚、上手くやっていけるかしら。少しでもお役に立てるようにがんばらなきゃ)

 ◇◇◇

 それからの日々は驚きの連続だった。まず、レオナルドの態度に驚いた。突然やってきたシンシアを邪険にするどころか、なにくれなくシンシアの面倒をみてくれるのだ。

「困ったことはありませんか?」

「足りないものがあったらなんでも言ってください」

 執務で忙しいだろうに、必ず毎日一回はシンシアの部屋に顔を出してくれる。最初は顔を見るだけで緊張していたシンシアだったが、今ではレオナルドの前で自然な笑みが零れるまでになっていた。

 シンシアが微笑むとレオナルドは少し困ったように頬に触れる。その瞬間が、シンシアはなぜかとても安心できるのだった。

 また、身に余るほど豪華な居室には、すぐに大量のドレスや宝石類が運び込まれた。

「こんなに沢山……必要ありません」

「何をおっしゃいますか!これでも足りないぐらいです!今はとりあえず姫様のお体に合うものをサンプルとしてお持ちしましたが、本日採寸をいたしましたので次からは姫様のイメージにぴったりのドレスを仕立てて参りますわ!これほどの逸材……仕立て屋として腕が鳴るわ」

 大量のスケッチを抱えながら鼻息も荒く帰っていく仕立て人をぽかんと見送る。ドレスを一から仕立てるなど、初めての経験だ。ナリア王国ではいつも、姉のお下がりを与えられていた。それでも十分だった。宝石などの宝飾品も、シンシア個人のものなどひとつもなかった。

 シンシアが慣れない待遇に戸惑っていると、

「あの、気に入るものがありませんでしたか?歴史あるナリア王国の装飾品は豪華なものばかりでしょうし。姫様のお眼鏡にかかるような品は私どもでは難しいかもしれませんね」

 そう言って宝石商ががっくりと肩を落とすので、慌てて髪飾りのひとつを手に取る。

「いえ、どれも素晴らしいお品ですわ。華やかなカッティングにデザイン。本当に素敵」

 シンシアがにっこり微笑むと、宝石商はぱあ~っと顔を輝かせた。

「ありがとうございます!今回お持ちしたのは当店オリジナルの商品ばかりです。まだまだ職人としては若輩者ですが、これからも姫様のお美しさを引き出すお品をご用意いたします!」

 そう言ってドレスに合う品物を勝手にぽんぽんと置いていく。

「あ、あの、こんなに見繕っていただいてもお代が……」

 国を出るとき渡された金貨ではとても支払えないだろう。

「姫様、これは商人たちの投資ですわ」

 侍女がにこにこした顔で説明する。すでに社交界では、妖精のように美しいシンシアの噂で持ち切りだそう。今後社交界の華となる姫君と今のうちに縁をつなぎたいと思う商人は後を絶たないらしい。

(でも、中身のない空っぽの王女だと知ったら、どんなに失望するかしら)

 シンシアの表情が曇ったのを侍女たちは見逃さなかった。

「姫様、大丈夫ですわ。みな、姫様のことを歓迎しております。仮に姫様に意地悪をしてくるものがいたら、レオナルド王子がとっちめてくださいますわ。もちろん、わたくしたちも黙っていませんよ!」

 どんっと胸を叩く侍女たちにシンシアはふわりと微笑んだ。

「みんな、ありがとう」

(か、か、可愛い~~~~~!!!!)

 シンシアの気を許した笑顔に思わず悶絶する侍女たち。同性とて見惚れるこの美貌の姫が何を憂慮することがあるのかと、首を傾げるばかりだった。
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