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8.シンシアのギフト
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「お姉様、どこに行かれるんですか?」
「決まっているでしょう。ドラゴンを探すのよ」
「ドラゴンを!?」
「そうよ。近くで見たいもの」
ドラゴンは最上位の強さを持つ災厄レベルの魔物だ。しかしそれゆえに、その身に宿る魔石には計り知れない価値がある。ドラゴンの魔石にライラの持つ治癒能力を込めれば、結界石に勝るとも劣らない素晴らしい国宝となるだろう。
(私も初代女王のように後世に名を遺す聖女になれるかもしれないわね)
だが、そのためにはドラゴンの弱点を探る必要がある。めったにお目にかかれないドラゴンを、特別なギフトを持たないレオナルドがどう倒すのか興味があった。
そのとき、
グギャアアアアア!!!!
凄まじい咆哮と共に周囲の木が一斉になぎ倒される。
「なっ……」
結界石を身に着けていなければ一瞬で吹き飛ばされていただろう。目の前に降り立ったドラゴンに二人は呆然と立ち尽くす。
「ドラゴンがどうしてここに?王太子は何をやってるのよっ!」
ぬらぬらと光る鱗に太くて大きな尾を持つその生き物は、近くで見ると想像以上にグロテスクで恐ろしい。感情を持たないギラリと光る金の目が、獲物を見つけたと言わんばかりにライラの姿を捕らえた。ライラがその身に宿す強大な魔力が、魔物には上質な餌として映る。
「お姉様、逃げて!」
とっさにドラゴンの前に飛び出すシンシア。役立たずの自分が死んでも悲しむものはいないけれど。大聖女の再来と呼ばれる姉に何かあれば、ナリア王国とアルムール国は戦争になる。例え結界石があったとしても、伝説級の魔物相手にどれほど持つかは分からない。絶対に姉を、傷付けさせる訳にはいかない。
「馬鹿っ!あなたが逃げなさい!」
鉤爪で掴みかかろうとするドラゴンを、結界が弾く。
「早くっ!私がドラゴンを惹きつけている間に走って逃げて下さい!大丈夫です!きっともうすぐレオナルド様が来てくれます!」
「ああ、もう!あなたって子はっ!」
ライラはシンシアをギュッと抱き締めた。二人の持つ結界石が眩い光を放ち、虹色に輝く宝石のような結界が、二人の周りに幾重にも重なり合う。
踏み潰そうとしても、爪を立ててもびくともしない結界。獲物に触れることすらできないドラゴンは、苛立ちを募らせた。遂に超至近距離から、骨をも残さず存在すら消し去る強力なブレスが幾度となくシンシア達に向かって放たれる。しかし、結界は壊れない。それどころか、攻撃を受けるたびに煌めき、強くなっている気さえする。
「結界石って、本当に凄いんですね……」
始めて目の当たりにする結界石の威力に、シンシアは呆然と呟いた。レオナルドがドラゴンのブレスすら防ぐと言っていたのは本当だったのだと胸を撫で下ろす。しかし、ライラは真っ青な顔で首を振った。
「確かに一度や二度なら防げるかもしれないけれど。こんなの、無理よ。ドラゴンのブレスなんて、何度も防げるわけ無いじゃない」
「え?じゃあ、この結界は長くは持たないってことですか?」
いつ壊れるかもしれないのなら、一刻の猶予もない。しかし、ドラゴンのブレス吹き荒れる中、どうしたらよいかも分からない。結界石を身に着けたまま動くと結界も動くのだろうか。その場合も、ドラゴンはシンシアたちを追ってくるだろう。無駄に周辺の被害が拡大する恐れがある。このままここで救助を待つしかないのか。シンシアは狂ったようにブレスを吐き続けるドラゴンをキッと睨みつけた。
「分からないわ。こんな結界みたことないもの」
だが、ポツリと呟いたライラの言葉にシンシアは首を傾げる。
「え?お姉様も結界石を使ったことがないんですか?」
「あるわよ。こんなでたらめな結界じゃなかったけど」
「どういうことなんでしょう……」
「こっちが知りたいわよ。とにかく、この結界は異常よ。通常の結界ではありえない強度だわ。考えられるのは、シンシア、あなたのギフトが関係しているのかもしれない」
「私のギフト……」
思ってもいなかった言葉に混乱するシンシア。
「私には、なんのギフトも……」
「ええ。私もそう思ってた。けれど、そのギフトが分かりにくいものだったとしたら?多分、あなたのギフトは───」
「えっ……」
「いたぞ!ドラゴンだ!姫様を助けろ!」
そのとき、大勢の騎士たちの声が聞こえた。
「シンシア!無事かっ!」
「レオナルド様!」
光を纏った矢が、一斉にドラゴンに突き刺さる。
(あれは、光魔法!?アルムールの王太子は光魔法の使い手だったのね……)
アルムール国の王太子が光魔法を使えるとは思わなかった。光魔法を使えるのは、選ばれし勇者の証。彼もまた、神に選ばれた特別な人間だということだ。
(ほんっと、面白くないわ)
断末魔の声を上げるドラゴンを見つめつつ、ライラは抱き合う二人を冷めた目で見つめていた。
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