【本編完結】自分が作った世界で自分が理想の勇者を育てたら、予想以上にかっこよくて好きになっちゃいました

黒滝ヒロ

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第2章

39話 実験体2号を回復する俺

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ゴースト討伐にきた俺たちの前に現れたのは、誘拐事件の時にも戦った実験体の進化版だった。
俺は3人を回復させながら、防御魔法以外に身体強化の魔法もかけていく。
そうしながら少し離れたところで、3人と実験体との戦いを観察する。

クリスが正面から剣を畳み込み、フラついたところをキーレンが急所と思われる部分にダメージを与える。
そこへベレッタが聖魔法による攻撃を当てて、さらにダメージを与える。
聖属性が弱点の実験体2号には聖剣と切り結ぶだけでダメージが入るし、聖魔法には体の動きを止めることもできる。この実験体にとって俺たちはもっとも相性の悪い相手のはずだ。

この前の実験体戦であればこれで終わったはずだが…。様子がおかしい。実験体の受けた傷はみるみるふさがり、さらには以前よりも少し硬く大きくさせているように見える。
実験体は今の攻撃で傷ついた部位を瞬時に回復するだけでなく、少し強化しているようだ。

「聖属性はこの前のように効くようだな!」
「ああ、だがこのままではキリがないな!」
「かと言って攻撃を続ける以外にはないよ!」

3人がそれぞれ叫んでいる。確かにその通りだ。

ただ回復させるだけではなく強化もあるということは、持久戦になるとこちらが不利になるということだ。
戦うたびに対策のために身体強化されるのではキリがない。

先ほどの部位とは別の箇所を先ほどと同様に3人が攻撃して、ダメージを与える。しかしまた回復とともに少し強化して…の繰り返し。しかもよく見るとだんだんと実験体の動きは3人の攻撃についていっているようにも見える。学習能力まであるらしい。さらに厄介だ。
なんとか短期決戦で決着をつける方法はないだろうか。俺は戦いを少し離れて見守りながら思案した。

一つの記憶を思い出す。回復と強化をしていくのであれば、そしてそれが新陳代謝なのであれば方法はある。俺は過去にやったゲームで似たようなボスと戦ったのを思い出した。あいつがあのボスと同じならもしかしたら!
俺はそう考えて3人に声をかける。

「このまま攻撃を続けてください!僕はあいつを回復しますが、構わず攻撃を続けて!」

俺の呼びかけに3人は頷く。

普通ならモンスターに回復魔法なんてかけない。
でも今回は回復魔法が相手の首を絞めることになる。俺は奴の回復と強化を補助するために回復魔法をかけ続けた。新陳代謝によって回復と強化をするのなら、さらにそれを回復魔法で促進させればどうなるか?


もう5回ほど3人の攻撃と実験体の回復&強化が続いている。
実験体は最初の人型からだんだんとかけ離れて、どこが手でどこが足なのかわからない。
そもそも強化といっても強化された部分を厚くしているだけなのだから、それを繰り返せば変な形になるのは当然のことだ。体のバランスが変なことになってしまい、動くのも難しいようだ。
そして俺がそれを回復魔法でさらに促進する。

さらに5回ほど攻撃、回復、強化を繰り返した。すると実験体はだんだんと大きなスライムのように肥大化し、形の維持をすることが難しくなってくる。後もう少し。

「いい調子です。あともう少しこれを繰り返します。3人ともよろしくお願いします!」
「「「了解!」」」


さらに3回繰り返したところで、実験体はついに体を維持するのが難しくなり、まるで水風船が破裂するかのようにその体を破裂させ消滅していった。
おそらくだが、回復と強化を繰り返したせいで新陳代謝の限界を迎えたか、肥大化しすぎて元の実験体の組織が希薄になり体を維持できなかったかのどちらかだと思う。俺にも細かいところまでわかるわけではない。

敵がいなくなった周辺には実験体の腐臭が漂う。

「うわ、流石にちょっと臭いね。こりゃたまんないわ」

ベレッタが鼻をつまみながら、鼻の前をつまんでいる。
確かに臭いので俺は嗅覚器官の感度をオフにしている。

「本当に臭いですね…僕が洗浄魔法で綺麗にしちゃいましょうか?」
「確かに臭いが、後で騎士団と監査部に調査させたいのですまないがこのままで頼む。」

なるほど現場維持ってやつね。
もう一度実験体と戦った場所をよく観察する。もしかしたら人が倒れているかもしれないからだ。
しかし、あたりには人のような姿を見つけることはできなかった。
以前実験体と戦った時は元の人間に戻ったけど、今回は無理だったようだ。

実験に使われた人も元は普通の人間だったかもしれないのに、魔族にいいように実験体にされて挙句形も残らないなんて、本当にひどい。
でも、まだ怒りに震えている場合ではない。

「それじゃ地下に入ってみようか。タケルとベレッタはここで待っていてくれても構わないが、どうする?」
「いえいえ、当然僕も行きます!」
「あたしだって当然いくよ。ヘレンがいるかもしれないんだ。」

その返答に頷いたキーレンは地下への階段に向けて歩く。俺を気遣ってくれるクリスと一緒に、俺も地下に向かって歩いた。


地下に入った俺たちは思わず絶句する。
地下は丸ごと実験室のようになっていて、実験用の台や大小さまざまなガラスの容器、刃物などが置かれていた。それらのいずれにも人の体の一部と思われるものが付着していて、その場は凄惨の一言に尽きた。
あまりのひどさにえずいてきてしまう俺。クリスが背中をさすってくれたおかげでその場を凌いだ。勢いで地下について来てしまったことを後悔する。

「こんなのひどすぎます。クリスさん。なんでこんなことができるのでしょうか?」
「本当だな。こんなことは絶対に辞めさせなければならない。タケル、辛いだろう上に行って休もう。」
「はい。すみませんキーレンさん。」
「ああ、構わない。ここはきついだろう。私もすぐに戻るから先に上がっててくれ。」

ベレッタもだいぶキツそうだが、それでも自分の恋人の痕跡がないか確認しようとまだあたりを見回している。
キーレンは何かを探しているようだ。
でもそろそろ限界なので、クリスに腰を支えてもらいながら俺は先に地上に戻り屋敷の外に出た。


「それにしてもあいつに回復魔法が有効だなんてよく思いついたな。さすがタケルだ。」
「いやたまたま思いついたんですよ。あいつが少しずつ強化で膨らんでいくならもしかしたらって。」
「今回もタケルに救われたな、ありがとう。」

クリスが俺をそっと抱きしめてくれる。俺もおずおずと抱き返す。
あの現場を見てしまってだいぶ気持ちが沈んでいたけれど、今はクリスの温もりがただただ俺の心を浄化してくれる気がする。

それからしばらくしてキーレンとベレッタが連れ立って戻ってきた。

「少し前に重要な書類は持ち出されていたようだが、魔族が関与する書類は見つけることができた。どうもあそこもクルドが関わっていたようだな。」
「ベレッタは?どうだった?」
「確認しようもないところも結構あったけど、ヘレンはここにはいなかった…と思う。そう思いたい。」
「そうか。まだ希望はあるな。」
「そうだね…。でも心配だよ。早く顔が見たいよ。」

ここにも魔族の関わりがわかる証拠が見つかったが、ヘレンにつながる確証は得られなかった。
だがあの暗い場所での捜索だったから、もしかしたらもう少し捜査したら何かわかるかもしれない。
キーレンもその可能性を考えていたようだ。

「この場所はただいまをもって封鎖し、さらに捜査させることにしよう。何よりここで多くの人が亡くなっている可能性がかなり高いからな。できる限り身元も確認しなければいけないだろう。ジェレミア。」

キーレンがそう言うとどこからともなく忍者のような格好の黒髪の少年が現れた。顔を隠してないからとても整った顔がよく見える…え!?この人執事のカールさんじゃなかったっけ?

「御意。監査部でこの場を封鎖し、明日より騎士団と合同で捜査を行うよう指示します。」
「頼んだ。」

キーレンが頷くとジェレミア?カール?はまた瞬時に何処かへと姿を消した。忍者みたい!かっこいい!

「あの人ってカールさんっていいませんでした?ジェレミアって監査部の部長さんでしたよね?ええ?」
「ああ、この前伝えようと思っていたんだが忘れていたな。ジェレミアは普段は執事のカールとして俺の身の回りの世話をしてくれている。だがあいつの本来の業務は監査部だ。ややこしいな。すまない。」

そんなの一人でできるのかとか、留守を守っているんじゃなかったのかとか王子に突っ込みたくなったが、神経が疲れていたのでやめておいた。
ただ彼がとんでもなく優秀な部下だということだけはよくわかったので、それでよしとする。
とりあえず一回宿に戻って休みたい。

ぐったりした俺を見て、クリスたちは現場の保全を監査部の人たちに任せて一旦宿で休むことになった。
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