【本編完結】自分が作った世界で自分が理想の勇者を育てたら、予想以上にかっこよくて好きになっちゃいました

黒滝ヒロ

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第2章

47話 フランクを見守る俺

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審査会が始まってからまだ30分くらいしか経っていないにも関わらず、フリスト伯爵の話したキール第2王子への疑いの根拠がすでに2つ意味を為さなくなった。
でもこれだけじゃ足りない。この審査会の勝利条件は、ここに集まった議員たちがキール殿下への疑いを完全に払拭することだ。そのためにはインパクトのある、完全に空気をひっくり返す反証が必要だろう。

流れが少しずつ変わりつつある議場の空気を感じ取ったのか、フリスト伯爵はイライラを募らせていた。足は先ほどよりも素早く小刻みに震えており、顔には汗の粒が流れ落ちている。

「議長!発言を求めます!」
「ではフリスト議員、どうぞ。」

被告人であるキーレンが発言席から元の席に戻ると、フリスト伯爵は甲高い足音をたてながら発言席に立った。

「議員の皆様方!どうかキール殿下の狡猾な諫言に騙されないでいただきたい!確かに2つの根拠は否定されました!だが、最も重要な根拠があることをお忘れですか!?彼は殿下に唆され、時には脅されて、今回の事件の実行犯となってしまった。そう今回の最大の被害者ともいえるフランク元騎士団長です!彼の話をどうか聞いていただきたい!議長!フランク元騎士団長の入場と発言を求めます!」
「認めましょう。フランク元騎士団長をこちらへ。」

来た!と俺は思った。思わず拳に力が入る。俺の肩を掴む手に力が入るところを見ると、クリスも同じ気持ちなんだろうな。

フリスト伯爵も今この時が最大の山場だという自覚があるのだろう。彼は自身の渾身の力で発した演説の後、息の切れた様子で後方へと下がった。程なくして議長の許可が出され、証人専用の出入り口が開く。
両側を騎士に挟まれながら、両手を縄で結ばれたフランク元騎士団長が議場へと入ってきた。彼は発言席に立つと、しばらく俯いたまましばらく動かなかった。その様子を訝しんだフリスト伯爵が我慢できずに声をかける。

「フリスト殿!あなたの本当の心の内を思いっきり話してご覧なさい。あの事件の真実をこの場に晒してやるのです!」

それからもややあってから、ようやくフランクは顔をあげ、宣誓の後発言した。

「私は今も後悔しています。今となってみればなんという恐ろしいことをしてしまったのでしょう。自分の利益のためになんの罪もない子供達を犠牲にしようとした…。」
「そんなことはない!あなたが悪いのではないのですよ!」
「いや…いや…それだけではない。あの時子供を助けようとしたキール第2王子殿下を陥れ、国を混乱に陥れようとする企みに手を貸そうとしてしまった。なんと恐ろしい考えだったのか、今ではわかる。」

全く予想もしていなかったフランクの変質にフリストは混乱しているようだった。

「はい!?あ、あなたは何を行っているのです!!やめなさい!」
「フリスト議員、静粛に。今はフランク元騎士団長の発言の時間です。」
「は、はい…」

フランクはなおも続ける。

「そもそもは私が魔族の者から賄賂をもらっていたことが始まりです。魔族から多額の報酬を得ていた私はそれに気を良くして善悪の判断ができなくなっていました。自分が何をしているのかわからなくなっていたのだと思います。半年ほど前に魔族から更なる多額の報酬を打診され、魔力の高い子供たちを密かに誘拐し帝国へ送ろうとしました。完全に舞い上がっていたのです。バレるはずがないと。バレたとしてもどうとでもなると。その際特に私の指示に従う少数の部下にも計画を伝え、反対した者は適当に理由をつけて騎士をやめさせたりもしました。」

議場は騒がしくなる。これまで新聞を通して流れていた世間一般の事実と全く異なることをこのフランク元騎士団長が話し始めたからである。さらには「魔族」という言葉が三度も出てきたことに、動揺が隠せない議員も多い。

議員の中には帝国に強いパイプを持つ議員も少なくない。逆にいえば帝国の肩を持つことで大きな利益を得ていた議員たちからしてみれば、この発言は大変危険なものだった。議場では帝国に親しい議員と愛国的な議員との間で大きな論争となりつつあった。

フリスト伯爵は発言席の後方にある椅子に座り込み、頭を抱え込んでしまった。発言自体が証拠能力を持つこの審査会ではすでに発せられた言葉がなかったことになることはない。取り消すためには発言した者自身が発言の虚偽を認め、罰を受けなければならない。

「始まりましたね。クリスさん。」
「ああ、ここから一気に流れが変わるだろう。だが、もはやキール殿下の件だけの話では治らないようだな。」
「それでいいんです。まだ国民にはなかなか広がらないかもしれませんが、この国の中枢である貴族議員たちが真実を知ることになっただけでも大きな進歩です。」
「ふふ、タケルは策士だな。」
「いえいえ!僕も流れに任せているだけですよ!そもそもキーレンさんを捕らえなければ、ここまで白日の元に晒す機会もなかったはずなんですからね。」

新聞では魔族の関与やキール第2王子含めクリスたちの活躍などを完全に隠蔽して報道していたことで、多くの国民たちが疑いの目を王族に向けるようになってしまった。この事件が起きるまではこの状況をひっくり返すだけの方法が思いつかなかったのだが、フリスト伯爵含め親帝国派閥の議員たちがあれこれ画策してくれたおかげでこのチャンスがやってきたのだ。キーレンには悪いが、もはや感謝するしかない。

フランク元騎士団長はなおも発言を続ける。

「完全に利益に目がくらんだ私は私が守るべきこの国の子供たちを、魔族から預かった魔道具で昏睡状態にし、港から船で帝国に輸送しようとしていたことは事実です。そして私の愚行をすんでのところで食い止めてくださったのが、キール第2王子殿下とその仲間の冒険者たちなのです。」

気がついたらフランク元騎士団長の目は以前と変わって、真剣にこの国のことを考える騎士のものへと変わっていた。もし…魔族の誘いがなかったら、本来は誠実で国のことをまっすぐに考えることのできる力のある騎士のままでいられたのかもしれない。全く同情する気も許す気もないが、失くすには惜しい人物だったんだなと思う。

「そして私はこれまでの全ての罪を自白し、然るべき罰を粛々と受けたいと思います。議員の皆様!どうか帝国魔族の甘言に騙されませんよう!一時は利益を得るかもしれませんが、必ずその身は私のように破滅させることでしょう!魔族はこの国を乗っ取り、世界を侵略して、魔族上位の新しい世界秩序を築こうとしています!」

そこまで言うとフランクは発言席から泣き崩れてしまった。もうこれ以上の発言は難しいと判断した議長は、議場からの退出を許可した。すぐに傍で控えていた2人の騎士たちがフランクの両脇を抱えて、退室していく。
思いの外、「神様の祟り」の効果は高かったようだ。どのお仕置きが一番フランクを変貌させる役にたったのかは俺にはわからなかったが、最後に改心させることができてよかった。フランクにも善良な心がまだ残っていたということなのだろう。


議場は先ほどまでとは打って変わってシーンと水を打ったように静まり返った。
理由は2つ考えられる。
まず今回の誘拐事件がただの国内事件に収まらず、背後に帝国と魔族がいるという国際問題に発展するだろうということ。そしてフランクの言うことが事実ならば、彼だけでなく帝国から報酬を受け取っている議員がいるかもしれないということ。

議員たちはこの数分の出来事に頭で処理しきれてない者もいた。だが、頭の動くほとんどの議員はこれからどうすれば良いか、どう行動することが最も最善の行動となるのか思考し始めていたようだった。

もうすでにキール第2王子を主犯とするような採決は絶対にあり得ないだろう。だが、まだ明かしていない事実もある。その証人がさらに勝利を確実なものにする。
俺は内心ワクワクしながら、最後の証人の入場を待った。

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