【本編完結】自分が作った世界で自分が理想の勇者を育てたら、予想以上にかっこよくて好きになっちゃいました

黒滝ヒロ

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第3章

79話 帰還

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「え~と。急に体の拘束が解けたんで慌てて転移で逃げてきたんですよ~。あはは」

とにかくクリスに会いたくて、何も考えずにログインしてきてしまった。
よくよく考えてみれば、いきなり俺がここに現れたのはかなり不自然だ。
俺はオルガに捕らえられていたはずなのにいきなりタイミングよく、しかも一度行ったことのある場所じゃないと転移できないことになっているのになぜ転移できたのか、言い訳を全く考えていなかった。

こ、ここは笑って誤魔化すしかないな…。

「な、何かあったんですか?なんだか騒々しいですね…。でも、クリスさんが無事で良かったです!」

ちょっと白々しかったか?
クリスはずっと涙を目に浮かべながら、ニコニコとしている。
う~ん。やっぱり誤魔化せてない気がする。
あれこれ言い訳のBプランを考えている俺の手を引っ張って、クリスが目の前のテントに俺を連れて行こうとする。
なんか怖い。

「え、え~と!じ、実は近くで見てまして…」
「しー。タケル。わかっている。こっちで話そう。」

クリスの優しい眼差しに俺を押し黙るしかなかった。
困惑した俺の手を握ったまま、クリスはこの平原内で一際大きいテントの中に入った。
テントの中にはキーレンとジェレミアしかいない。確かここで各国の代表たちがいたんだったっけ。
さっき逃げ出したはずだから、それで2人しかいないんだと理解した。

「タケル殿、無事だったか。良かった!ではこちらに。」
そう言いながらキーレンは俺をテントの奥にいくよう勧められる。
奥に立たされると、クリスとキーレン、その後ろにいるジェレミアが俺の方に体を向けて、その場で俺に跪いた。
突然のことに動揺している俺を尻目にキーレンが口を開く。

「我らが神よ。我らを危機からお救いくださりありがとうございます。」
「えっ!おっ!はっ!?な、ななな、なんですか急に?」

我ながら素っ頓狂な変な声が出てしまうことが恥ずかしい。
想定外のことが起きると何も考えられなくなるんだな。

「貴方様のことは教会で妖精様とお会いして、神であると伺っておりました。もっとも教皇猊下はもっと前よりご存知のようでしたが…」

そうだった。あの動画、ナビーが撮ったんだ。その時に3人にあって俺のことを話していたとしてもなんらおかしくない。に、しても教皇はもっと前から知っていたとは?

「神の絵姿が歴代の教皇にだけは伝わっていたそうです。」

あ~やっぱり特例を作るべきではなかった…。
初めてこの世界に姿を出した時、あれはあくま創造者モードでのものだったけど…やたらと持ち上げられすぎて恥ずかしくなり、いつの間にか作られていた絵とか彫像は無くすようにお願いしたんだ。
ただその時の代表者にだけはどうか残させてほしいと縋りつかれて、渋々了承した。まさかそれが残っていたとは。

「じゃ、じゃあもう知ってるんだ?」
「私とクリス、ジェレミアと教皇猊下のみ、ですが。」
「そ、そう…ですか。」
「私どもは国をあげてタケル様のご意志に従います。どうか我らをこれからもお導きください。」
「ちょ、ちょっと待って!僕は確かにこの世界を作ったり、色々やってきたけど、そうやって注目されたり傅かれるの慣れていないんです!僕は元の世界では一般人です。どうか…やめてください。それと普通に立ってください。」

そういうとやっと3人とも立ってくれた。
もうほんと心臓に悪いからやめてくれ。

「ぼ、僕の望みは平和になった世界で普通に過ごすことです。だからどうか、このことは誰にも言わないでください。」

なんとか突っかからずに全部言えた。俺の望みは平和な世界でクリスさんと一般人として冒険に行くこと。
大勢の人に傅かれて…常に注目されて自由に行動できないのは俺の望むところじゃない。

「タケル。大丈夫だ。これからは俺がお前を守るから。」

そう言ってクリスが俺を背後から抱きしめる。
ああ、本当に守れて良かった。

「タケル殿がそう仰るなら、このことを広めるのはやめましょう。教皇猊下にもこのことは伝えておきますが、一度は顔をお見せになってあげてください。とにかく貴方のことを心配しておられました。ジェレミアもいいな?」
「殿下の仰せの通りに。」

これでとりあえずこの話は終わりだな。早く王都に戻ってクリスとゆっくり話したいところだし、早めに撤収してもらいたいので、俺の知っていることも話しておこう。情報の出どころをいちいち聞かれる心配も無くなったことだし。

立ち話もなんなので、俺たちはテーブルについて話をすることにした。

「じゃ、僕の正体もバレてしまったので色々知っていることを話しておきますね。まず宰相は身動きの取れない状態になっています。あの紫の物体…僕たちの世界ではバグと呼んでいますが、あのバグに深く関わっている人物は全て別の空間に隔離されています。なので、これ以上帝国が襲ってくることはないと思います。」
「帝国には宰相以外にも強硬派がいると聞いていますが…宰相の路線を継続する動きはないのでしょうか?」
「今帝国は魔王陛下が直接治めています。強硬派も魔王陛下が責任持って抑えると約束してくれました。」
「魔王ともお話されたのですか?噂では冷酷無比な武闘派と聞いていますが…」
「いやいや、魔王陛下はとても理性的で穏やかな方ですよ。何より魔族が平穏に過ごせることを願っているから、彼としても戦争が起きることは望んでいないのです。」
「そうなのですか…それなら会談することも可能なのかも…そういうことでしたら、軍は必要ありませんね。」
「はい。すぐにでも解散して国に帰っても大丈夫です。それにあのバグは完全に消えましたので、何かあっても僕がみんなを守ります!」

にこやかに俺はそう話した。
そしたらキーレンとジェレミアが俺の足元まで寄ってきてまた跪いてしまった。今度は手まで組んで祈りを捧げてくる。

「ちょ、本当にやめてください!僕は僕に出来ることをやっているだけですから!そんな崇高な存在じゃありませんから!」
「それでも感謝を伝えずにはおられないのです。神よ…ありがとうございます。」
「もう…これ以上僕の目の前でそういうことしたら、もう二度と姿を見せませんからね。」
「わかりました。タケル殿のいないところで祈ることにします。」

なんだか伝わっているんだか、いないんだか。でもまあ見えないところでやる分にはもう何もいうまい。
自分の席に2人が戻ったのを見て、俺はクリスの腕をとり立ち上がった。

「というわけで、平原に集まった人たちはすぐに解散して、お国に戻るよう指示しても大丈夫です!その後あらためて国の代表の方々で話し合ってください!それとクリスさんと僕は一足お先に王都に戻ります!」

もうこれで必要なことは伝えたし、早くクリスと2人になりたい。
キーレンとジェレミアは頭を下げて了承の意を示した。一方クリスは「え?俺?」という顔をしている。
俺はクリスの腕を取りながら、キーレンにまた明日会いにくることを伝えてそのまま、王都の自分の部屋に転移した。

「ここは…俺たちの家…か?」
「クリスさん!良かった!本当に間に合って良かった!」

クリスをぎゅっと抱きしめる。もっとも体格が違いすぎて側から見たら俺がクリスにしがみついているようにしか見えないかもしれない。

「タケル…俺も心配した。もし、タケルに何かあったらと思うと不安で仕方なかった。」

クリスも俺を抱きしめ、少し長めのキスをした。
ついさっきまで不安で不安で仕方なかったけれど、こうして会ってその愛しい存在に触れてようやく安心できる。
もうクリスには俺がこの世界の住人ではないことを知られてしまったけれど…それでも変わらずに俺を愛してくれる。もうきっとこんな人、元の世界にも現れることはないだろう。
俺たちはお互いが十分満足するまで、しばらく互いを抱き合った。

この時、まだライブ配信が続いていたことに俺は翌日になって気がついたのだった。
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