魔女ネコのマタ旅

藤沢なお

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鳥の村と港町

第一話

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メラミはお城を出た後、
ほうきの柄を南の方向に向けて、
空を飛んでいた。
トラばあちゃんが
「南には『海』がある」と話していたのを
思い出したからだ。

『海』。
メラミは絵本でしか見たことがない。
とんでもなく広くて大きいらしい。

トラばあちゃんちの
近くの湖(今は凍ってしまっているが)
とは比べものにならないほど
水が大量にあって、だけどその水は
塩辛くて飲めないのだそうだ。

早く海を見てみたいにゃあ、
とわくわくしていると、
青い羽の小鳥が声をかけてきた。

「こんにちは、魔女ネコさん」

小鳥はメラミの左横に並ぶと、
小さくパタパタ羽ばたいた。

「ねぇ、
  あなたはどこに向かっているの?」

興味津々といった顔でメラミに尋ねる。

「南にゃ。これから海を見に行くのにゃ」

そうメラミが答えると、

「あら、私たちもよ。
  海の見える港町へ行くの」

小鳥が後ろを振り返ったので
視線を向けると、すぐ後ろに
同じ青い羽をした小鳥が二羽、
進行方向に対して前後の位置を
保ちながら飛んでいるのが見えた。

その下方には太くて長い一本の丸太。
丸太の両端をロープで結び、
そのロープの先を、二羽の小鳥が
それぞれくちばしにくわえている。

「私たち三姉妹はね、
  この丸太を港町まで
  運ぶお仕事をしているの」

小鳥は、ふふんと胸を張って言い、
メラミもそれはすごいのにゃあ、と
あいづちを打った。

「二羽で丸太を運んで、
  一羽は方角を間違えないよう先導するの。
  順番で役割を交替しているのだけれど、
  ほら、丸太を運んでいるときは
  口を閉じていないといけないでしょ? 
  私たちみんな、
  おしゃべりが好きだから大変なのよ」

どうやら、話好きな小鳥らしい。

「くちばしが自由になっても
  話し相手がいなくて、
  みんな困っていたのよねぇ。
  あらやだ!
  もう交替の時間だわ、じゃあね」

そう言うと、
丸太の後方を任されていた小鳥と、
交替してロープをくわえた。

代わりにくちばしが自由になった小鳥が、
メラミの左横まで飛んできて挨拶をする。

「初めまして。
  さきほどは姉がお世話になりました」

どうやらさっきの小鳥の妹のようだ。

「いえいえ、こちらこそ。
  初めましてにゃあ」

(さっきの小鳥さんと似ていて
  違いがわからないにゃ)
と思いつつメラミも挨拶を返した。

「ほんと、あなたに会えて良かったわ。
  私たち、もうずっと退屈だったの。
  このまま港町まで
  誰にも会えないようなら、
  途中でいったん休憩をとって、
  みんなでおしゃべりしなくちゃって、
  ずっと考えていたところなのよ」

どうやら、この小鳥も相当な話好きらしい。

「ところで、どうして丸太を
  港町まで運んでいるのにゃ?」

すると小鳥は、その話をしたくて
うずうずしていたようで、
神妙な面持ちで話しだした。

「港町では、大きな船を何隻も造って、
  海の向こう側の国と貿易を
  始めることにしたんですって。
  それで、船を造るのに必要な木材を
  大量に買い集めているのだけれど、
  私たちの住んでいる村の木材は、
  それにうってつけなの」

小鳥は少し、
もったいぶるような言い方をした。

「私たちの村にある木は、
  丈夫で加工もしやすいの。
  港町ではとてもいい値段で
  買い取ってもらえるのよ。
  だから村の森から伐りだした木を
  丸太にして、こうやって
  私たちで港町まで運んでいるの」

初めて聞く世間話に、
メラミもいつのまにか引き込まれていた。

何せお城にいた頃は、
剣や魔法の勉強ばかり。
パパとママとも
ろくに会話というものをしておらず、
トラばあちゃん以外で誰かと話をする
機会がまるでなかったのだ。

さらにこの小さな小鳥たちが、
こんなに大きな丸太を運ぶことを
仕事にしていることに、
心底感心したのだった。

メラミが興味をもって
話を聴いていることに
気を良くした小鳥は、
ロープをくわえる交替の時間が
きたことをすっかり忘れて、
おしゃべりを続けた。

「私たち、
  このお仕事に誇りを持っているのよ。
  だから、どんなに大変でも
  毎日頑張って運び続けているの。
  
  ただね、できれば猫の手も
  借りたいというか、
  丸太運びを手伝ってくれる、
  私たち以外の鳥を
  もっと増やしてほしいなあとか、
  いろいろ思うところはあるわけで…」

と、まだまだ話が続きそうなところを、
突然の大声が遮った。

「いい加減にして!」

メラミと小鳥は、
びっくりして後ろを振り返る。

大声の主は、丸太の前方を
任されていた小鳥だった。
交替の時間を忘れて、
話し続けていることを
不満に思ったようだ。

「お姉ちゃんたちばかり、
  おしゃべりしてずるいわよ!」

どうやら一番下の妹らしい。
顔を真っ赤にして怒っている。

「交替の時間が過ぎたのに!
 私だっておしゃべりしたいのに!」

ああ、どうやらこの小鳥も
相当な話好きらしい。

いやいや、それどころじゃない!

「あんた、なんでしゃべってんのよ?
  ロープをどうしたのよ!」

みんなはそこで大慌て!

一番下の妹は、大声を上げた拍子に、
くわえていたロープを
放してしまったようだ。

後方の小鳥が、丸太を落とさないよう
必死にロープをくわえて耐えている。

それでも丸太の重みに耐えきれず、
ロープのほうがプツリと切れてしまった。

丸太はどんどん落下して、
すぐに小さくだんだんと
見えなくなっていく。

小鳥たちがなすすべもなく
あわあわとパニックに陥るなか、
メラミはほうきの柄を
地面に向けて急降下した。

落ちていく丸太を
物凄いスピードで追いかけ、
丸太が視界に入ると
(止まるにゃ!)と強く念じる。

すると、メラミの魔法の力が働き、
丸太の落下が止まった。

丸太は、まるで重力などないように、
ふわふわと宙に浮いている。

もうあと、五メートルほど遅ければ、
地面に落ちていたはずだ。
寸でのところで間に合った。

あの高さから
地面にたたきつけられたら、
丸太は折れてしまっていたかもしれない。

ほんと、良かったにゃあ。

後から追いかけてきた小鳥たちも
丸太が無事なことを確認すると、
次々とメラミに感謝の言葉を伝えた。

「ありがとう、本当にありがとう!」

「魔女ネコさんがいてくれて、
 本当に良かったわ」

「私がロープを放しちゃったせいで
  ごめんなさい、どうもありがとう!」

ふーっ、とみんなで息を吐き、
落ち着きを取り戻すと、
交替する時間を忘れてしまった
小鳥の次女が、長女と三女に
謝ってすぐに仲直り。

気を取り直して、
再び丸太を運ぶことにした
小鳥の三姉妹に、
メラミも話し相手として
飛び付き添うことにした。

相変わらず話が止まらない
姉妹たちではあったが、
同じ間違いはしないように、
と交替の時間をしっかり守り、
小一時間ほどすると
目的地の港町が見えてきた。

そしてその先には、
太陽の光にきらきら輝く青い海。

「広くて大きくてまぶしいにゃあ~」

メラミは、初めて見る海に大興奮!

「なんで向こう岸が見えないのにゃ?」

「なんで海の向こう側も、
  ずっと空が続いているのにゃ?」

これまで、
ずっと聞き役だったメラミが、
おしゃべりな小鳥たちを次々に質問攻め。

「あれは何にゃ?
  青い水になんで白い泡が見えるのにゃ?」

メラミの言う白い泡は『波』。

寄せては返し、寄せては返し、
風がない『なぎ』の状態でも、
海の波はなくなることはないのよ、
など色々と小鳥たちが教えてくれた。

「すごいにゃ。
  世界は広いにゃ、面白いにゃあ!
  
  メラミの知らないものばかりで
  あふれていて、退屈なんてするヒマ、
  ぜんぜんないのにゃ!」

メラミのはしゃぎように、
小鳥たちも疲れを忘れて笑顔になった。
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