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しおりを挟む「先ぱ~~い!♡」
転入生の名前は織笛 恋。一年生。
あの一件をきっかけに何故か俺に懐いたようで、ことあるごとに絡まれている。
ある時は朝の昇降口、またある時は休み時間の教室、食堂、委員会活動中の隠密スポット、トイレにまで付いてこられたのには驚きだった。
正直、俺の方じゃなくて攻め達のところへ行ってくれ、という強い思いがあったが、初日に副会長からの嫉妬の視線と嫌味節全開の小言をいただいてから考えが変わった。
今の俺のこの立ち位置、まごうことなき当て馬だ。美少年総受け転入生の隣におさまっていることで、生徒会メンバーかつその他多数の攻めから「あいつ邪魔だな平凡のくせに」とかなんとか嫉妬の的にされるモブ生徒の一人だ。つまりそれは、良質純愛BLを最も近い場所どころか体験型で摂取できるミシュラン五つ星級のおかずの立ち位置だということ。
そう思い直してからというもの、白米がいつもの10割増しで美味しい。ギリギリ会話が聞こえそうな位置から刺さる生徒会メンバーの視線は格別のスパイスだ。
「いける…まだいける…3合いける…いや5合だ…ッ!」
「林堂先輩、全然おかず減ってませんよ?僕が食べさせてあげますね♡」
当然のように俺の隣で飯を食っていた転入生、織笛は、一心不乱に白米をかきこむ危ない目をした俺を気遣い、盆のど真ん中で放置されていたチキン南蛮へとその箸を伸ばした。
がしかし、それは向かいに座っていた人物に手を差し込まれたことであっけなく阻まれる。
「転入生。違反と捉えられかねない接触は慎むべきだ。BL取締規定を隅から隅まで読まなかったのか?それとも読んでも理解出来なかったか?まったくこれだから最近の若者は。無言の帰宅の意味も理解出来ないような読解力でどうこの世を生きていくつもりなのか」
「X見てるんですか茨さん」
「ご遠慮くださいを遠慮しながらであればしてもいいと思って。まったく」
「X見てるんですね茨さん」
そう、俺の正面で同じく飯を食っていたのは茨さんだった。
保護対象の監視は俺が任命されたはずなのに、何故か最近、委員会活動外の時間にもこうやって顔を合わせることが増えている。以前は一緒に昼食をとることなんてなかったのに。この人も一応ちゃんと人間の食べ物を食うんだな、と変なところで感心してしまったくらいには、茨さんの食事風景を見たことがなかったのに。
これはあれだ。多分俺が違反を見逃すんじゃないかと疑われ、見張られているのだろう。
くっそーー!全部任せてくれるんじゃなかったのかよ!そりゃ違反誤魔化す気満々ではあったけどさあ!
早急に茨さんから離れ、安心できる場所で織笛と攻め達のあれこれウキウキウォッチングを仕切りなおすとしよう。今更ながらそう決意を固めた俺は、いち早く昼食を終えるため、今度は少し冷めてしまっているチキン南蛮を一心不乱に頬張りだした。
おかずも食べだした俺に気遣いは無用だと判断したのか、織笛は茨さんへ向き直ると、にこやかに口を開く。
「規定は全て拝見しましたし、理解も出来ましたよ。あくまであれは、男同士の恋愛を制限する目的で作られたものですよね?恋愛感情のない、……または、片方が想いを秘めているだけの『友人同士』の触れ合いであれば問題ないと思ったのですが。それに、その程度の接触でいちいち処分を下していたら取り締まる側も大変でしょうし」
「ぐ…っ」
あ、論破されてる。
俺は口いっぱいに詰め込んだ食べ物の咀嚼を続けながら、静かに二人のやり取りを見守った。
「というか、僕が指摘される以前に、委員長さんの方が林堂先輩と距離近くないですか?え?もしかして好きなんですか?BLを取り締まる側の委員会内で惚れた腫れたが横行しているとなると大問題では?」
「は?別に違うが?好きとかないが?まあこいつは俺のこと好きだけど俺は全然そんなのないが?むしろ転入生お前こそ俺のこと好きなんだろ。そうだろ絶対。そうなんだろ。はあ…、碌に話してもないのに勝手に好意を寄せられるのは迷惑以外の何者でもないんだが。俺ぶりっ子嫌いだし」
「何自意識過剰なこと言ってるんですか?頭大丈夫ですか?林堂先輩、変な人に付き纏われて可哀想…。僕が癒してあげたぁい」
ごきゅん、と特大の嚥下音が俺の喉から鳴る。チキン南蛮の一切れが歯による粉砕を待たず食道を通った音である。
「え?具体的にどんなふうに?(創作と妄想の)参考にしたいから詳しく教えてもらえる?」
「えぇ?……先輩のえっち♡」
「えっちなことなの??へー…。ふーん…。それはちょっと、より詳細に教えてもらえる??」
「やめんか!」
無意識に前のめりになってしまっていた俺の顔を押し戻すかのように、茨さんの平手が飛んできた。一番被害の大きかった鼻を抑えて悶絶していると、立ち上がった彼はそんな俺の腕を引き、強引に席を立たせてくる。
「BL粛正委員同士の話があるからこいつは連れて行く。忠告はしたぞ、転入生。二度はないからな」
「嫌だ!連れていこうとするな!まだ聞いてない!えっちなマッサージのこと聞いてない!」
「黙れ!誰もマッサージの話はしてなかっただろ!お前を捏ねてハンバーグにするぞ!」
*
食堂から連れ出された俺は、茨さんに手を引かれるがままその背中について歩いていた。
教室棟から離れる方向へ進んでいるせいか、段々と周囲の人影がまばらになり、少しずつ空気がひんやりとしてくるのがわかる。
いったいどこまで行くつもりなんだ。苛立っているのはその雰囲気で察するけど。
「どうしたんですか茨さん。前はあのくらいの戯れ見逃してきてたじゃないですか。俺達だってほら、今手首とか掴んでるし」
口にした瞬間、茨さんは掴んでいた俺の手首を、バッ!とまるで何かを振り払うように離した。同時に足を止めた彼がこちらを睨みつける。
おっとこれは本格的に険しい顔。
説教をされるんだろうなということはなんとなく察していたが、別に俺だって進んで自分の状況を悪化させたいわけじゃない。
これ以上刺激しないように口を噤むと、茨さんもまた自分の感情を抑え込むように目を閉じ、深く息を吐いた。
「お前は……一応BL粛正委員会の副委員長だろう。ならば生徒の見本であるべきで、その自覚を持って行動すべきだ。お前の一挙一動が委員会の品格にも関わるんだぞ」
まだ怒りの余韻をまとったままの声が、静かに俺を責める。
俺はひとまず従順に頷きつつ、しかし他方で「じゃあ最初から腐男子を委員会に入れるなよ」とも思った。
不満は茨さんの特権じゃない。俺にだってたくさんある。ただ言えてないだけで!ひとまずは早く俺を開放して織笛のところへ戻してくれ。今まさにこの瞬間恋の進展があったらどうしてくれるんだ。
おそらく、茨さんは俺のその傲慢な思考を察したのだろう。あるいは顔に出ていたのかもしれない。
急に手首を掴みあげられたかと思うと、完全に気を抜いていた俺は碌な抵抗もできないまま、廊下の壁へ追い込まれてしまった。
あ、これ結構ヤバいやつか!?余裕ぶっこきすぎた!?
至近距離に迫る茨さんの顔に頭突きを予見した俺は、逃げられないその状況にだばっ!と冷や汗を出す。
「……どうにも最近反抗的だな。わかっているのか誠一。俺はお前を即退学に出来るぐらいの違反の証拠を持っているんだぞ。それが嫌なら俺に従え」
ひょ、ひょえ~~!!頭カチ割られる~~!!い、いつだ!いつ来る!?今か!?……まだか!?あっ今か!?
いつ来るかわからない頭突きにビクついていた俺だったが、「おい、聞いているのか」と続けた彼の、……まるで子供が拗ねたときのような表情に、思わずポカンとしてしまった。
……いつもの暴力交じりの威圧的な説教とは、何かが違う。
その後すぐに返事を急かされたので、慌てて我に返り「聞いてます、すみません!」と答えると、それだけで茨さんは気分を落ちつけたようだ。ふん、と小さく鼻を鳴らして俺への詰問をやめる。
よ、よかった。何であれ、俺の頭の危機は去ったということだ。
ほっと安堵のため息をつき、早速緊張を解く俺だったが、それと同時、自身らの現状を客観視する余裕が出る。
え、近。
俺は茨さんと壁の隙間に挟まっていた。手首は掴まれていて、顔だって目と鼻の先にあって、じっとしているだけでその体温がじわじわこちらに伝わってくる気がする。
「……これ、違反になりませんか。距離的に」
「お前は俺のことを今にもしゃぶりつくしたいほど好きだろうが、俺は違うから違反じゃない」
先ほどの織笛の解釈をそのまま引用してきた。BL粛清委員会のトップがそれでいいのか?
……まあ違反じゃないならいいか。
俺が秒で思考を放棄していると、不意に茨さんの指がその顎をとらえた。そのままぐ、と弱い力で持ち上げられ、顔を仰がされる。
透き通るような瞳と視線が重なった。
「なんだ、それとも──違反を重ねたいのか?」
首の裏に響くような声と共に、その芸術品のような顔が迫り、焦点が合わなくなる。
互いの呼吸が、肌を撫でた。
「──委員長!」
「!!」
遠くから声が聞こえた瞬間、茨さんはバッッ!!と素早い動きで距離を取る。
向かいからこちらへ駆け寄ってきていたのは、マスク姿の小さい後輩、プリッツだった。
いつの間にか俺とは反対側の壁に張り付いていた茨さんは、何度も無意味に髪を触りながら口を開く。
「なっ、ななな、なんっなんのようだどどどどうしたなんの用だプリッツ」
「委員長こそどうしたんですか?汗すごいですけど…。あと何で呼び方副委員長に犯されてるんですか!」
「犯されてないしどちらかというと俺が犯す方というかゴニョゴニョ」
「え?何ですか!?小さくて聞こえません!!」
小動物サイズながら、廊下に響き渡る声は誰よりも大きかった。
どこか様子のおかしい茨さんでは意思疎通に難があると感じたのか、プリッツは珍しく「……副委員長でもいいか」とまるでこちらの存在を肯定するような発言をしてくれる。
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「二点あります。まず一点は、以前にも報告していた漫画研究会の禁書密造疑惑についてです。数点、証拠となる禁書を押収することが出来ました。内容次第では、研究会室を強制的に調査する事ができると思います」
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「そんなに?」
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