BL禁止学園

椿

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「林堂先輩、相談したいことがあるんですけど……」

 その日、俺の元へ来た織笛の様子は、普段の明るいそれとは異なっていた。
 彼はしばらく口ごもった後、「恥ずかしいから誰にも言わないでほしいんですけど…」と前置きを添えて、一通の茶封筒を差し出してくる。
 それは織笛の私物ではなく、知らぬ間に机に入れられていた物のようだった。中には、簡素なA4のコピー用紙にボールペンで『放課後、体育館倉庫で待つ』とだけ記されたものが入っている。
 ……いやまだ希望を捨てるな。ここは男子校。便箋なんてこ洒落たものでラブレターを書くやつがいてたまるか。時代はコスパ重視のA4コピー用紙だよ。
ボールペンで書いた字がちょっと乱雑だっていいじゃないか誠一。字のうまい下手なんて人それぞれ。そもそもお前が評価していい立場でもないだろ誠一。
 これは果たし状でもいじめっ子からの呼び出しでもない。ラブレターだ。あ、ほら実はボールペンの字はカモフラージュで、本当の告白は隠して書いてるんじゃないか?火で炙ったら愛の言葉が浮き上がってくるやつじゃないか?

「林堂先輩?何故燃やそうとしてるんですか?」
「俺は諦めない男だからだ……!」

 下からマッチ棒の火で炙ろうとしていたら、ラブレターを没収されてしまった。

 それからしばらくして、織笛は俺がもうあんな暴挙に出ないと確信したタイミングで、再びあの手紙について話し出す。

「あの、林堂先輩。一緒についてきてもらえませんか?指定の場所に行ったら何をされるかわからなくて怖いですけど、行かなかった時に逆上されたりするのも怖いなと思って……」
「そうだね。体育館倉庫といえば違反者の温床。マットもあるし縄もあるしどんなものにも対応できる万能な場所ランキング二位だ。ちなみに一位は保健室。俺は個人的に放送室とかもどうかなと思ってるけどね。いつもいがみ合ってばかりの幼馴染みの片割れが誤って本音を校内に垂れ流してしまってそこから二人のすれ違いは解けてお互いに意識するようになっちゃって、『あれ、あいつ、あんなにまつ毛長かったっけ……』みたいな。しかしこれは一部共感性羞恥を誘発する可能性もあるためご利用の際は用法容量を守って計画的に」
「ごめんなさい、後半何を言ってるのかよくわかりませんでした」
「それでいい。それでいいんだブルーベリー」
「ブルーベリーじゃないです」

 そんな流れで、放課後、実際に織笛の付き添いをすることになった俺。
 どの道織笛は保護対象であるため、物陰で隠れて見るか堂々と見るかの差だ。
 ただ、あわよくば目の前で男子高校生同士のカップル誕生の瞬間が見られるかもしれないと思うと、興奮が止まらなかった。
 10割ウキウキで織笛に着いて行った俺だが、指定の体育館倉庫にはまだ誰もいない。

「早かったみたいですね」

 周囲を見渡しながら織笛が言う。俺はそれに相槌を打ちながら、暗い室内の電気をつけた。
 なんかちょっとアルコール臭くないかここ……?

 その時、背中に弱い衝撃と、誰かの体温を感じる。
 織笛だ。織笛が後ろから俺に抱きついていた。
 何故彼がそんな事をしたのか、振り返ってすぐに理解する。
 体育館倉庫の出入り口。唯一のそこを塞ぐようにして、何とも柄の悪そうな生徒が一人立っていた。

「はぁ~~?普通1人で来るだろこんな時はよぉ……。そいつ恋の彼氏じゃねぇよな?BL粛清委員連れてくるとか警戒心ありまくりじゃねぇか。あーマジでクソムカつくわー」

 苛立った風に頭を掻くそいつに、織笛が怯えた仕草で俺の制服を掴む力を強めた。
 ここから始まる恋もあるにはあると思うが、初手で受けを怯えさせるような攻めは相思相愛に辿り着くのにそれなりの時間を要する。
 …………待てない。この攻めは切り捨てよう。
 現代社会のコスパタイパ論に従って決断を下した俺。そうするともう一気にこの状況がどうでも良くなり、目からは露骨に生気が失せた。

「俺は付き添いで来ただけです。早く要件を済ませてください」
「あぁ?指図してんじゃねぇぞ。俺は恋と2人で話したかっただけだ。お前が邪魔なんだよ。帰れ」
「じゃ行こう織笛」
「恋は置いてけェ!」

 ダメだったか。流れで2人一緒に帰れるかなと思ったんだけど。
 背中に織笛をくっつけたまま、心からの長ーーいため息を吐いていると、その間に男は何かを決意したようだった。

「まあいいか。こいつ弱そうだし」

 次の瞬間、出入り口に更に二人男が増える。そしてまるで追い込み漁でもするかのように、三人で逃げ場を塞いで迫ってきた。
 皆それなりに体格が良く、圧が強い。背中に縋り付いたままの織笛が、「ひ…っ」と喉を引き攣らせて震えていた。
 手を伸ばせば届く距離にまで来た男と、俺は目を合わせる。

「過度な違反行為は退学処分の対象ですよ」
「んなの、お前ら二人が何も言わなければなかったことと同じだろ?」

 次の瞬間、男は後ろにいた織笛の腕をいきなり掴み、俺の背中から力ずくで引っ張り出した。
 咄嗟に止めようとした俺を、残りの男達が二人がかりで拘束し、抵抗できないよう壁へと強く押さえつける。
 その間に体操用マットへと放り投げられた織笛は、男によって押し倒されてしまっていた。
 青ざめる織笛に覆い被さり、下品な動きで腰を擦り付けるそいつが、息を荒げながら言う。

「もう我慢出来ねぇんだよ!性欲盛んな男子高校生が女との接触もなしに閉じ込められて暮らしたら何も起こらねぇわけがねぇだろうがっ!はぁっ、はぁっ、そんなに怯えんなよ、れぇんっ、漫研のやつに横流ししてもらった本で男同士のやり方は知ってっからよぉ…っ、んっ、んっ」
「いやあ!!」
「やめろモブ!」
「誰がモブだ!ハ…ッ、お前はそこで自分の指でもしゃぶりながら俺達がぬるぐちゃ濃厚セックスするとこ見てなァ!」

 必死に身を捩るが、その程度の抵抗では男2人の拘束を振り払うことができず、そうこうしている間にも織笛の制服は男によって乱暴に剥がされていっていた。

「くそっ、やめろ…っ!」
「はぁっ、はぁっ、俺が今こうしてるのはお前らのせいでもあるんだぜ。過剰な規制と抑圧が、俺の妄想力と実行力を育んだんだ!つまり俺はお前らBL粛正委員会が産んだ子供なんだよ!バブゥーーッッ!息子がこんな可愛い桃尻にバチュバチュ種付けプレスするとこ責任持って見届けろやぁ!はぁはぁ恋かわいい、かわいいぜ、れぇんっ!」
「いやあーーっっ!!」
「……めろっつってんだろ…っ」
「あ?」
「やめろっつってんだろーーーッッ!!俺はレ〇プが大ッッッッッ地雷なんだよッッ!!攻めは受けを世界一幸せにするのが存在意義だろうが!犯罪者なんて言語道断!そんな攻めはなぁ!牢屋の中でシコシコ受けへの手紙を書いて、しかし新しい受けの恋人(スパダリ)が受けに心労をかけさせないようそれを密かに破り捨てていて一生受けの目に入らないのがお似合いだーーッッ!!俺はレ〇プ魔に村を焼かれたんだーーーッッ!!」
「このっ、暴れるな…っ!」
「離せ!俺は正気だッッ!」

 身体を揺らし大声で喚き散らす俺を見て、織笛の服を剥く手を止めていたレ〇プ魔が気色の悪い笑みを浮かべる。

「そうかぁ、そんなにレ〇プが嫌いかぁ……。だそうだぜ!おい、そいつやっちまえ!お前自身も取り返しのつかねぇことにしてやるよぉ!!」

 その号令で、俺を拘束していた男達は競うように俺の服を脱がし始めた。
 四方八方、乱暴に引っ張られ、時には破られ、そうやって瞬く間に剥ぎ取られていく制服。

 俺はそんな辱めを、──一切の抵抗もなく受け入れていた。

「──浅いな。俺は合意のない行為を許せないからこそ、俺自身にもそれを許してないんだよ」
「今からマワされるのに何悠長なこと言ってんだテメェ!」

 先程の興奮状態から一転、まるで人が変わったような落ち着きを見せる俺に、レ〇プ信者は動揺を隠せないようだ。その証拠に、先程からずっとヤツの視線は俺に固定されており、全く手が動いていない。
 この場にいる全員が俺に注目する異様な空間で、ついにに手がかかる。
 下着だ。
 それを掴んだ男は、まるで勝ちを確信したように笑った。
 ズルッ…!
 情緒などなく、勢いのままに下ろされる薄い布。
 しかし、そこに見えたのは人間の柔い肌、まして性器などではない。

「──な、何ーーっ!?貞操帯、だと…っ!?し、尻は……、尻もだ!尻も完全に防御されてる!」

 そう。この場にいる全員の視線の先──俺の股間にあったその黒光りする金属製の小道具は、ブーメランパンツ型の貞操帯であった。

「うっ、狼狽えるんじゃねぇ!鍵はこいつが持ってるはずだ!ポケットを探れ!」

 こんな馬鹿げた状況なのに正確な指示が飛ぶのも滑稽だ。
 言われた通り、先程せっせと脱がし捨てた俺の制服を漁るため、必死に床へと這いつくばる男達。
 俺を犯すための鍵をワイワイ楽しそうに探す彼らを見下ろして、貞操帯一つで堂々と立つ俺は、そろそろ遊びの終わりを叩きつけてやる。

「鍵は無い。自分で持ってたら意味ないだろ。俺の下半身の命運を握っているのは、BL粛正委員会 会長の茨 玲央だけだ。でもトイレ行く時ヤバくて、ほらご飯食べた30分後とかに腸の活動活発になって急にゴロッと来るやつあるじゃん、大体そういう時もう授業中だから三年生の教室行って鍵貰うこともできなくて、そうなるともう我慢しかないんだけどあの極限状態でしか得られない凄まじい快感があるんだよ。もうあれがあれば俺はセックスなんていらないね。便我慢の快感と比べたら目薬とプールぐらいの差があるね些末だねあんなの。アンタ達も至れよ。その境地にまで」
「とんでもないプレイだ…!常人には到底思いつかねぇ新しい尊厳破壊の形っ!BL粛正委員会……、なんつー恐ろしいところなんだ…っ」

 男達が一様に顔を引き攣らせる様を見て、俺は心の底から勝利を確信した。
 どうだ恐れおののいたか。これがBL粛清委員会を相手にするということだ。
 わーーっはっは!と貞操帯一丁の姿で高笑いでもしてやろうかと考えたその瞬間、倉庫の奥側にあった跳び箱が中段でバコン!と開き、中から人が立ち上がる。

「~~~っせえいちぃいいーーッッ!!お前…っ、さっきから聞いていればふざけた風評被害で委員会の名を汚すな!貞操帯それつけてんのは今日だけだろうが!」
「なっ!?い、茨 玲央!?」

 湯が沸き立つように狼狽える男達。
 それを前にして茨さんは「くそ…、示しがつかない!」と疲れた顔で頭を抱えながらも、最終的には腹を括ったように顔を上げ、毅然とした様子でいつもの口上を述べた。

「BL粛清委員会だ!お前達を違反者として粛清する!」

 清廉なその声圧が倉庫の空気を一瞬で凍らせ、場は緊張の色をまとう。
 しかし、織笛への執着を断ち切れない男が一人、その重苦しい空気を振り払おうとするかのように、虚勢じみた嘲笑を漏らした。

「姫みてぇなツラしてる坊ちゃんが増えたところで無駄だァ!一緒にマワしてやるよ!」
「やはり、俺の顔を見るとお前達男はすぐそうやってパンツから性器を露出させて近づいてくる。はあ…、嘆かわしい。俺が一体何をしたというんだ。俺が一体どれほど花とか蝶とか宝石のように美しく高貴な見た目だというんだ」
「あっ、こいつも結構しっかりめに頭おかしいぞ!」

 男が真理に辿り着いたと同時、茨さんは手近な壁にその拳を叩き込む。

 バゴンッ!!

 倉庫全体が震えるほどの衝撃が走った。分厚いコンクリートの壁はわずかに陥没し、蜘蛛の巣状にひびが広がっている。彼がゆっくり拳を離すと、砕けた欠片がぱらぱらと床へ舞い散っていくのが見えた。
 静寂を取り戻した空間に、茨さんの低い声だけがいっそう濃く響く。

「こんななりだが、殴り合いの喧嘩もやった事がない一生徒を躾けるくらいの力はあるぞ。怪我をしたくないなら速やかに降参しろ」
「「「ひえーーっ!!」」」
「あっ、逃げましたよ!」
「待機組、標的が校舎へ移動中だ。連絡通路で捕獲しろ」

 バタバタと逃げていく違反者を横目に、茨さんはまるでそうなることが最初から分かっていたかのようにスマホで連絡を入れた。
 網は事前に張ってある。捕まるのも時間の問題だろう。それを示すように、遠くの方から怒号交じりに複数人が揉み合う声が響いていた。

 実のところ、プリッツによる二点目の報告で『禁書を手に入れた連中が、転入生を襲う動きをしている』という情報を得ていた俺達は、秘密裏に違反者の捕獲計画を練っていた。
 証拠と現場を押さえ、現行犯で確保する算段だったわけだ。純粋な告白の線も俺は本気で信じてたけどね。
 乱闘になる覚悟もしていたが、そこまでの気概がある生徒たちではなかったようで安心した。

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