幽霊当主にご用心!

椿

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「ん…、っ、」

 ちゅ、ちゅ、と何度か感触を確かめるように離れてはくっついてを繰り返して、次に、舌が差し込まれた。
 ぬるっとした熱く濡れた感触に驚いて、身を引こうとするが、いつの間にか首の後ろに添えられていた手によって阻止される。
 咎めるように引き寄せられて、互い違いに重なった唇が一層繋がりを深くした。
 奥で縮こまっていた舌が絡め取られ、唾液をまとってじっくり、ぬるぬると擦り合わされる。
 体温の違う粘膜同士が同じ熱さになるのはすぐだった。
 上手く息ができなくて、俺は酸欠でぼうっと脳を痺れさせながら、ただ粘膜が触れ合う初めての感触と、口内を満たされ、探られる快楽を享受する。
 互いの鼻から抜ける息の音と、くちゅ、くちゅっ、と空気を含むたびに鳴るいやらしい水音しかない空間。それがしばらく続いた後、ようやく口の中が解放された。
 咄嗟に口を閉じることができず、半開きのまま痺れた舌を覗かせる俺。
 飲み込みきれなかった涎を垂らし、赤ら顔ではあっ、はあっ、と犬みたいに浅く呼吸をするその姿はひどくみっともないものだったろう。
 御蔭さんはそんな俺をじっ、と眺めていたかと思うと、「あ」と今気付いたように言った。

「これもしかして初夜ってやつ?興奮してきた」
「……え」

 反応が遅れてしまう。
 腰の帯に手がかけられて、解かれるのは一瞬だった。
 締め付けのなくなった衣服は簡単に解け、御蔭さんの手によって性急に暴かれていく。
 俺は慌ててそれを制止しようと彼の手を掴むが、はち合ったその目に宿る確かな欲情の熱に、思わず息を呑んだ。
 その一瞬の隙に押し倒される。
 まるで小さな虫の羽でももぐかのように、御蔭さんは碌な抵抗もできないままの俺の服を剥いた。

 敷かれた白い布団の上で横たわる、全裸の男。
 無防備な身体を上からまじまじと見下ろされ、俺は何にも守られていない心細さと、自分一人だけが何も纏っていないみっともなさで、ふるり、と小さく身体を震わせた。
 せめて前は隠そうと足を曲げて身を捩るが、それは別の場所を御蔭さんに晒してしまう。

「男同士はここ使うんだよね?」
「っ!?」

 突然尻を鷲掴まれた。
 ビクッと驚き、慌ててそれを振り払おうとするが、もう遅い。
 片手で尻たぶの一方を持ち、横に割り開くようにされて、より見えやすくなった中心の窪みに指先が触れた。
 くにくに、と確認するように触れられて、ひゅ、と中途半端に息が止まる音がする。

「穴、一個しかないもんね」
「ひ…っ」

 嘘だ。うそだうそだうそだ。
 思考を埋め尽くすのはそんな現実逃避だった。
 流石に、今から何が行われようとしてるか分からないほど俺もウブじゃない。
 しかしそれが男同士……それも、自分と御蔭さんが、というのが全くもって繋がらず、俺は身体を固くしたままはっ、はっ、と吸いきれも吐ききれもしない浅い呼吸を繰り返していた。
 鼓動の音がどくどく耳まで疼くみたいに響いて、布団に触れる肌が気持ち悪い汗をかく。
 想定外のことに頭が上手く働かない。だがそんな時でも、俺一人の動揺など待たず、状況は刻一刻と変わっていっていた。
 きゅ、と閉まった蕾を撫でていた指が、明らかに意志を持って強く、穴へと食い込もうとする。
「あ…っ!」とたまらず大きな声を上げると、御蔭さんが手を止めて俺の顔を覗き込んだ。

「痛い?痛いの嫌?」
「い、いやです……!あ、の、俺こういうの、やったことないんで、……その、で、出来ないと思います」

 質問を受け、ここぞとばかりに制止を促すが、それを聞いた御蔭さんは手を引くどころか、にま、と機嫌良くにやついた。
 あ、今それは良くない。

「何かあったっけなぁ。滑り良くなるやつ」
「!? あ、あのっ」
「はいはい。ち◯こ擦っといて」
「っ!?」

 骨ばった男の手が、縮こまっていた性器を包み込み、ふにふにと雑に揉み込み出す。
 他人に触られたことなどないそこへの刺激に混乱し、俺は頭が真っ白になった。
 しかもそれをやっているのは俺の主人で、色恋になんてまるで興味がなさそうなあの御蔭さんだ。
 だからこそ余計困惑する。

「ゃ、やめ……っ、…っ!」

 しかし悲しいかな、この屋敷に来てから自分で慰める暇もなかったそこは、刺激されると簡単に質量を増し、数十秒も経たない内に、にち、にちゅ…っ、と粘液の音が混じるようになってしまっていた。
 全体を揉み込むような柔い動きから、勃起した竿を掴んで擦る動きに変わる大きな手。
 擦る範囲も力加減も自分のそれとは違って、予測出来ない直接的な刺激に、確かな快楽がゾクゾクと腰を起点に広がっていた。
 御蔭さんはこちらを見もせず、もう一方の手で近くの棚を漁っている。
 そんな片手間の雑な愛撫で感じてしまっている事が、恥ずかしくて、悔しかった。
 はあ、はあっ
 息が荒くなる。
 腰がかくっ、と卑猥に浮いて、足が布団を引っ掻くように悩ましく引き攣れていた。
 気持ちよさに、流される。
 うあ…っ、だめ、これ…でる……っ、いくっ、いく…!

「あったあった、軟膏。これでいい?……って、あれ」
「はあっ、は…っ、はぁ……っ」

 探し物が見つかったらしい御蔭さんが、こちらに目を向けた時にはもう、俺は堪え性なくイッていた。
 一歩も動いていないというのに、呼吸は荒く乱れて、くたりと力が抜けた仰向けの腹にはみっともなく白濁が散っている。
 どうしようもなく情けない有様だった。
 勢いよく放たれた精液は御蔭さんの手にもかかっていたようで、彼はその粘液を指先で弄ぶようにしてから、再度俺を見下ろす。

「そんなに気持ち良かった?」
「ぁ……っ」

 うっそりと笑うそれは、初めて見る表情だった。
 興奮と熱が燻る目で全身を上から下までなぞられて、俺はゾク…ッ、と恐怖に近い感情で背筋を震わせる。
 獲物を狙うような捕食者の目。
 逃げなければ。明確にそう思った。
 俺は瞬間的に半身を起こし、出口へと向かう。
 しかし、敷布団の範囲を出ないうちに首の後ろを掴まれて、身体ごと布団に押し戻されてしまった。
 手足をばたつかせる前に、うつぶせの背中に体重がかかり、肺が潰される。
 息苦しさにたまらず顔を歪めると同時、背後から御蔭さんが囁いた。

「精液でも良かったな」
「!?」

 くちゅ……
 穴に、湿った指が触れる。
 瞬間、ゾワ…ッ!と全身に鳥肌が立った。
 やばいやばい…っ、これやばいって!
 手を床についてなんとか身体を起こそうとするが、無理だ。御蔭さんが俺の背中に乗っている。
 同じく、足をバタつかせてみても駄目。抵抗は完全に無効化させられていた。
 どうしようもないこの状況に、うっすら涙が滲む。

「あ、ま、まって……!」
「何?大丈夫だって。切れないように解してあげるから。こんな優しくするの優吾くんにだけだよ?」

 ずぶぶ……、とついに指が尻の中へと押し込まれた。
 軟膏のおかげか、それは存外滑り良く中に入っていく。しかし、それでは説明がつかない壮絶な異物感と、内側から押されるような圧迫感に、はくはくと開閉を繰り返す俺の口からは震えた息が漏れていた。
 は、あ、ゆ、ゆび、挿れられちゃった……!

「おー、柔くてあったかい……。内臓触ってるって感じ。尻の穴って正直どうなの?俺だったら誰かに弄られるとか絶対無理だけどさ、どっか気持ちいいとこあったりする?」
「な、ない…っ!抜いて、ください」
「何言ってんの。解してんだから抜けるわけないじゃん。あー……気持ちよくなるまで前も触ってあげるから」
「は…っ、!?」

 ふいに首と身体にかかっていた体重がなくなって、喜ぶのも束の間。依然尻に指は突き刺さったまま、俺は腰を持ち上げられ、再び前方の急所を掴まれる。
 一回射精して精液まみれになっているそれは、ぐずぐずで滑りもいい。竿に沿ってちゅこちゅこと雑に擦られただけでも、またすぐに昂った。
 逃げようとしていたのに、ぞくぞく微弱な電気が流れるような快感で足が震えて、力が入らなくなる。
 俺は誘うように尻だけを上げて、はあはあ快楽に息を乱すだけの情けない生き物に成り下がっていた。
 そして、そんな快楽が、指で探られていた穴の中にも少しづつ変調をきたす。

「あっ……、ひっ、ま、まって!やめ……っ」
「狭いなー。本当にここに入んのかな」
「ぅあっ!?」

 中を広げようとあちこちに曲げられた指が、ある一点を掠めた時、じんっ、と腰を重く痺れさせるような、他とは明らかに違う刺激があって、思わず声が出た。
 御蔭さんもそんな俺の反応に、流石に何かあると気付いたようだ。

「ん?ここ?」
「ひ…っ、~~ッッ!」

 グッ、と確認するように強く押されたそこは、やはりじん…っと腹の奥に重く響くような悩ましい刺激を与えてきて、反射的に腰がビクつく。
 それはぐっ、ぐぅーっ、と揉み込まれるうちに、前を触られる直接的な快楽刺激と混じって、段々鋭敏に育っていった。
 数分もすれば、腰から背筋を伝ってゾクゾク脳と足先に届くこの歯を食いしばるほどの快感が、どちらの刺激を起点にしているものなのか、わけがわからなくなってくる。
 布団に額を擦り付けて、滲んだ汗が平たい布に拭われていった。
 ぎゅーっと力が入った身体が、その場でぶるぶると小刻みに痙攣する。
 絶頂がすぐそこまで来ていた。
 頭がぼーっとなって、耳の奥はぼんやり水に浸かった時のように周りの音が遠のく。
 もう、イくことしか考えられない。

「~~~ッッ!!」

 ガクガク…ッ!
 自分の意思とは関係なく淫らに腰を振り乱して、布団の上に精液をびゅっびゅと撒き散らす。
 しかし、普通ならそれで終わりのはずの絶頂。
 今回は様子が違った。
 白濁を出し切った後も、熱が体内から引いていかない。下半身がまだイッているみたいに引き攣って、腹の奥がジンジンと絶え間なく疼いて、背筋を降りては上がる快感に悩ましく顔を歪めずにはいられなかった。
 はぁー!はぁー!と大袈裟なくらいに息を乱しながら、カクッカクッと腰が細かく上下に振られるのをやめられない。
 なんだこれ。俺今どうなってるんだ。
 何が起こったのか分からない。しかし、今までとは明らかに違う種類の長引く絶頂に、俺の身体は最大限翻弄されていた。

「わ、指絞めてる」
「はぅ、はあ…っ、ン……」
「何か気持ちよさそうだし、挿れてもいい?」
「!? だっ、だめ……っ」

 咄嗟に首を振るが、直後ずるるっ、と引き抜かれた指の感触に、たまらず「はぁあ…っ」と震える官能的なため息が出る。
 今更快感が隠せる筈もない。
 供給過多の刺激を浴びせられて、とろけきった顔。赤く火照り、しっとり汗を滲ませて断続的に痙攣する身体。
 見せびらかすように卑猥に上がった尻の中心で、ヒクヒク開閉を繰り返しているのがわかる穴は、今にもそこに何が入れてくれと誘っているようだった。
 想像して、またヘコッと腰がかくつく。

「指、何本入ればいい?」
「ぁ、……さ、さんぼん…?」
「お、じゃああと一本ね」
「どわっ!?やっ、やっぱり四本!」

 横からこちらを覗き込んだ御蔭さんに問われ、咄嗟に答えてしまったが、失敗した気がする。
 こんな問答などせず、早く逃げるべきなのに。
 わかっているのに、腰が抜けて動けなかった。
 そうやってもだもだしているうちに、すぶぶ……とまた指がゆっくり中へと埋められていく。
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