天界への生贄の持ち込みは禁止されています

椿

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「千晴、最近署名のこと言わないね…?」
「もうとっくに締め切り過ぎたので」
「そ、そっか」

 後ろめたさを何とかしようと、えっと、えーっと…、と焦って言葉を探しているふうな晴君。
 千晴はそれを横目に眺めながら、まあ、そんなこと言いつつ試験受けるんですけどね!と心の中で鼻息荒く主張した。

 試験の方式は天人としての基礎知識を問う筆記試験。
 そして今日がその試験日だ。

 千晴は澄ました顔で晴君に外出する旨を伝えると、自宅を出る。
 この日のために知識はしっかり詰め込んだ。あとは試験でちゃんと結果を出して、先生に俺の実力を認めてもらうだけだ。
 少し驚いた後、すごいね千晴!と満面の笑みで褒めてくれる晴君を想像しながら、千晴は足取り軽く会場へと向かった。


 *

 試験会場は天候区内にあり、普段から集会や講習など、多目的に利用されている大きめの館だ。
 桜鈴が言っていた通り、試験監督は雷君なのだろう。受付や案内などの雑務は、主に雷の天徒達が取り仕切っているようだった。あそこの弟子は、まるで女性と見紛う程の綺麗どころが揃っているからすぐに分かる。

 部屋に案内され席に着いた千晴は、一度周囲を見回した。
 まだ人は揃っていないようだが、全体の人数としては50人程だろうか。千晴や桜鈴と同じくらいの見た目年齢の者も居れば、晴君と近いくらいの青年姿の者も居たりと統一感はない。
 何百年かに一度という頻度であればもっと沢山人が集まるものと思っていたが、そうでもないらしい。もしかすると、千晴が思うより天子の数は少ないのかもしれない。


 *

 前に立つ雷の天徒の掛け声を合図に、全ての試験が終了した。
 試験者が各々散らばっていく中、くたびれた顔をした桜鈴が千晴の元へと駆け寄ってくる。

「難しかったぁ~。ぼく全然分かんなかったよ。千晴くんは?」
「一応答案は全部埋められた」
「すごい!一位間違いなしだね!」
「いや、答えが間違ってるかもしれないだろ」

 ……と言いつつも、正直手応えはあった。
 合否は明日出るんだって、と教えてくれた桜鈴に礼を言って別れ、千晴はまた何食わぬ顔で帰路につく。
 自宅に到着すると、居間では晴君がくつろいでいるようだった。
 ふ、明日盛大に驚かされる事も知らないで……。
 じっと見てしまっていたからか、晴君は不思議そうな顔をして、

「? どしたの?」
「いえ、なんでも」

 浮かれた姿は見せられない。「ああ試験?何か適当に受けてみたら満点でしたけどそれが何か?」ぐらいの余裕さで晴君へと報告するのが理想だ。
 決意を固めた千晴は、気を抜くと緩みそうになる口元を一生懸命引き締めた。


 *

 翌日。件の試験会場前には、早速昨日の試験の合否が張り出されていた。
 その中で一際目立つのは、今試験中たった一名のみの不合格者。
 ──千晴の名前である。

 愕然と試験結果を眺める千晴の横で、共に結果を見に来ていた桜鈴(合格者)が悲鳴を上げた。

「な、何かの間違いだよこんなの!千晴くんが馬鹿なんてそんなわけ…!試験後、隠しきれてないやってやったぜ感が満載だったのに!自信満々だったのに!実は馬鹿だったなんてそんなわけ!」
「やめてくれ……」

 死体蹴りがすごい。
 しかし桜鈴の言うとおり、千晴には確かな自信があった。試験後も自己採点までして、回答を書き間違えてさえいなければ全問正解だろう、というのも確認済みである。
 この試験の合否が単純な点数順で決まるのであれば、万が一にも落ちることはないと高をくくっていた。
 しかし蓋を開けてみればこのザマだ。

 署名を偽装してまで勝手に試験を受けて、一人だけ不合格で……。俺は一体何を……。

「雷君に直接聞きに行こう!ねっ!」
「桜鈴……」

 呆然と目から光を失っていた千晴に、桜鈴は「大丈夫だから!」とまたも救いの道を示してくれた。
 本当に、桜鈴にはどれだけ感謝しても足りない。
 千晴は感情のまま彼の手を取り、両手で優しく握りしめると、祈るような想いで告げた。

「ありがとう」
「ひゃあっ、わっ、ちょっ、待遇が手厚いよぉ~~!!」

 待遇?

 *

 桜鈴から案内されたのは、雷君とその弟子達が日常生活を営む大きな屋敷──雷電らいでん宮。
 因みに他の君の住居にも一応呼び名はあって、雨君のところは雨水うすい宮、そして千晴も暮らしているあの晴君の一軒家は、晴陽せいよう宮などという荘厳な呼ばれ方をされていた。晴君がその名を使わないので、たまに千晴も忘れそうになるが。

「そういえば、千晴くんが雷電宮に来るのって初めてだよね?ぼくはよくそっちにお邪魔させてもらってたけど」
「ああ、うん…。……それよりも何だこの格好」

 千晴は視線を下げ、今自身が纏っている、やけに色鮮やかでヒラヒラした衣服を見て言った。
 桜鈴の外見に対する感性を信頼しているとは言ったものの、流石にこれはおかしいと分かる。明らかに女物だ……。
 天人に男女の概念はないのだろうが、人生の半分の期間人間界で暮らしてきた千晴からするとやや忌避感のある衣服だった。
 まあ、着られるだけ良いのはそうだし、今の千晴が贅沢を言っていい立場でないのは承知の上だが。

「えっとね、雷君は可愛いものとか綺麗なものが好きで、あっ、勿論千晴くんはそのままでも綺麗なんだけど!念には念を入れてというか、ぼくがただ着飾りたかっただけというか……。うぅう~~その服も最高に似合うよ可愛いよ千晴くん~~!♡」


 いつも桜鈴には世話になってるいつも桜鈴には世話になってるいつも桜鈴には世話になってる。
 千晴は頭の中で繰り返しそう唱えながら、周囲を興奮したように動き回る桜鈴が落ち着くのを待った。
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