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第一部 力の覚醒
第13話 困惑 イクスside
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その後、ミリエラをとりあえず自室に返した二人は、イクスの部屋にてまたもや難しい顔をしていた。
「……眠そうだった」
「そうですね。痩せていましたし、久々に満腹まで食べた反動かもしれません」
「……」
「気になりますか? ミリエラの事」
イクスが頷く。
「セラとミリスには先程共有しました。すぐに情報が入るとは考えにくいですが、なるべく迅速に調査を進めます」
「助かる」
「それにしても、驚きましたね」
「……ああ」
ついさっき、ミリエラが起こしたことを脳裏で再生する。
イクスもリーファも、幼い頃から魔術などの教練を積んできた身だ。
国籍を問わず、多くの手練を見てきた。
そんな二人からしても、ミリエラは異質だった。
「……酷い目に、遭ってきてはいないだろうか」
「身体検査の結果からすれば、その可能性はゼロに等しいです」
「だが……」
イクスが納得しないのも、最もだった。
自分で検査した身でありながら、リーファでさえ腑に落ちていないからだ。
「初めての魔術であの性能は、あり得ません。魔術は才能ではなく技能ですから。初めて振るった斧で大木を切り倒してしまったようなものです。おかしすぎます」
「……天才、という線は?」
聞いておきながら、期待薄、という口ぶりだ。
「開花した天才ならまだしも、未経験の天才などいないことはイクス様が百も承知でしょうに。デューイ殿下のような王家伝承の戦略級魔術なら別ですが……」
「彼女が使ったのは、普通の魔術だった。……最後のを除けば」
「はい。だからこそ、あのような実力者が野放しと言うことは考えられません。通常、軍事機密扱いで隔離でしょう」
「やはり、実験でもされてきたのでは……」
「ですから、その痕跡は一切無いんですよ」
不承不承と言う感じ。長年の付き合いでリーファの実力を嫌というほど理解しているイクスとは言え、今回は事態が事態だ。
「ですが、あの痩せた体は……恐らく良い暮らしはしてきていないはずです」
「そうだな」
実験を受けた身でもないのに、痩せた体。
食事にも感動こそしていたが、食べ方は弁えていたし、他の振る舞いを見ても普通の平民には見えない。
「どこかの商家の娘か、令嬢。私はこのどちらかではないかと思っています」
「……誘拐」
「はい。幼い頃に誘拐された可能性はあります。ただ……それにしては手足に傷はありませんし……不可解な点は多いです」
「もしや、閉じ込められていた?」
「恐れられていたとすれば、その可能性もあるでしょう。ミリエラの目は、この王国では忌むべき色とされていますから」
「……」
イクスが目を細める。
今、ミリエラがナイトヴェイル家に居るのは、ほとんど奇跡に等しいのではないだろうか。
仮にあのまま人攫いに売られていたとしたら、その先は耐え難い不幸しかなかったはずだ。
しかし――
「……連れてきて、良かったのか」
「何を仰いますか。イクス様がお助けにならなければ、ミリエラは今頃どうなっていたか」
「だが俺たちも、事態を持て余している」
「それは、そうですけれど……」
「……もっと、適任がいるんじゃないか」
そう弱々しく呟く。それを見たリーファは大きく息をつき、
「しゃんとなさい。貴方がミリエラを家族にすると決めたのでしょう? であれば、その責任は果たすべきです」
「……そうだな」
「全く。らしくないですよ」
ばつが悪そうに頭をかくイクス。しかしそれも束の間。
意を決したように顔を上げ、
「……よし。買い物に、連れていこう」
と言った。
「……眠そうだった」
「そうですね。痩せていましたし、久々に満腹まで食べた反動かもしれません」
「……」
「気になりますか? ミリエラの事」
イクスが頷く。
「セラとミリスには先程共有しました。すぐに情報が入るとは考えにくいですが、なるべく迅速に調査を進めます」
「助かる」
「それにしても、驚きましたね」
「……ああ」
ついさっき、ミリエラが起こしたことを脳裏で再生する。
イクスもリーファも、幼い頃から魔術などの教練を積んできた身だ。
国籍を問わず、多くの手練を見てきた。
そんな二人からしても、ミリエラは異質だった。
「……酷い目に、遭ってきてはいないだろうか」
「身体検査の結果からすれば、その可能性はゼロに等しいです」
「だが……」
イクスが納得しないのも、最もだった。
自分で検査した身でありながら、リーファでさえ腑に落ちていないからだ。
「初めての魔術であの性能は、あり得ません。魔術は才能ではなく技能ですから。初めて振るった斧で大木を切り倒してしまったようなものです。おかしすぎます」
「……天才、という線は?」
聞いておきながら、期待薄、という口ぶりだ。
「開花した天才ならまだしも、未経験の天才などいないことはイクス様が百も承知でしょうに。デューイ殿下のような王家伝承の戦略級魔術なら別ですが……」
「彼女が使ったのは、普通の魔術だった。……最後のを除けば」
「はい。だからこそ、あのような実力者が野放しと言うことは考えられません。通常、軍事機密扱いで隔離でしょう」
「やはり、実験でもされてきたのでは……」
「ですから、その痕跡は一切無いんですよ」
不承不承と言う感じ。長年の付き合いでリーファの実力を嫌というほど理解しているイクスとは言え、今回は事態が事態だ。
「ですが、あの痩せた体は……恐らく良い暮らしはしてきていないはずです」
「そうだな」
実験を受けた身でもないのに、痩せた体。
食事にも感動こそしていたが、食べ方は弁えていたし、他の振る舞いを見ても普通の平民には見えない。
「どこかの商家の娘か、令嬢。私はこのどちらかではないかと思っています」
「……誘拐」
「はい。幼い頃に誘拐された可能性はあります。ただ……それにしては手足に傷はありませんし……不可解な点は多いです」
「もしや、閉じ込められていた?」
「恐れられていたとすれば、その可能性もあるでしょう。ミリエラの目は、この王国では忌むべき色とされていますから」
「……」
イクスが目を細める。
今、ミリエラがナイトヴェイル家に居るのは、ほとんど奇跡に等しいのではないだろうか。
仮にあのまま人攫いに売られていたとしたら、その先は耐え難い不幸しかなかったはずだ。
しかし――
「……連れてきて、良かったのか」
「何を仰いますか。イクス様がお助けにならなければ、ミリエラは今頃どうなっていたか」
「だが俺たちも、事態を持て余している」
「それは、そうですけれど……」
「……もっと、適任がいるんじゃないか」
そう弱々しく呟く。それを見たリーファは大きく息をつき、
「しゃんとなさい。貴方がミリエラを家族にすると決めたのでしょう? であれば、その責任は果たすべきです」
「……そうだな」
「全く。らしくないですよ」
ばつが悪そうに頭をかくイクス。しかしそれも束の間。
意を決したように顔を上げ、
「……よし。買い物に、連れていこう」
と言った。
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