12 / 48
第一部 力の覚醒
第12話 ちぐはぐ
しおりを挟む
とは言え、これは二人にとっても初めての現象だ。
デューイ王太子の右腕として様々な任につくイクスとそれを補佐するリーファを持ってしても、答えは見つからない。
「魔術は初めて使ったのよね?」
「はい……」
「見たことは?」
「ちゃんと見たのは初めてかもです……」
むう、と閉口するリーファ。
魔術とは、己の精神力を付与して現象を強化する術だ。
イメージが掴めなくて失敗するということはあれど、暴走するということはない。
なぜなら、イメージの範囲内でしか魔術は発生しないからだ。
「もしかして、すっっごく速く動く、みたいなイメージをした?」
「そんなことないです! 小走りくらいの感じかな、って思ってました!」
再び閉口する。
「その目のおかげじゃないか?」
「え」
イクスの呟きに、ミリエラは硬直した。
反射的に涙がつうと伝う。
「精霊? に好かれても、おかしくないだろう。だって――ってどどどどどどうした」
「この馬鹿! ミリエラは目のことを気にしてるんですから! 野暮なこと言わないでください!」
「すまない、そんなつもりじゃなかった」
しょぼくれた犬のように小さくなるイクス。
「い、いえ! これは反射的なもので、イクス様のせいではありません! その、あの」
まごまごするミリエラを見てイクスが微笑む。
「……いや、俺が悪かった。やはりミリエラは、優しい」
「そんなことは」
「こんな優しい雰囲気を纏っているんだ。精霊にだって、好かれるだろう」
真っ直ぐな瞳で言うイクスに、恥ずかしさを覚えて目を逸らす。
「ん? あ~。つまり? 目のおかげと言うのは? 優しい雰囲気が目にも出ているから、みたいなことですか?」
リーファがピリピリとした口調で問う。イクスが肯定すると、彼女はため息をついて、
「相変わらず言葉足らずなんですから……」
なるほど。そういうことだったのか。
ミリエラは少しあたたかい気持ちになる。
「ミリエラは何か思い当たる節はないの?」
「う~ん……精霊さん自体は、魔法の本によく出てきたんですけど……」
「魔法の本?」
それを聞いたイクスが呟くように言う。
「……魔法関連は、全て禁書だが」
「あ゛っ」
しまった、そうだった。
変な声が出てしまったが、今更訂正してもより怪しまれてしまうだろう。
仕方がない。
分が悪そうな声で続ける。
「その……すみません、訳あって、長い間禁書庫で暮らしてきたので……。それで、読んでました」
「そうだったのか」
「読んでいた、だけ? 何か実践したりは?」
「いえ何も……読むくらいしか、気力がなくて……」
ミリエラの瞳の奥が暗くなっていく。
これ以上踏み込むべきではないと判断したリーファは明るく切り替える。
「はい! じゃあこの話はここでおしまい! とりあえず向こうのワゴンを持ってくるわね!」
そう言って戻ってきたリーファの台車の中を覗くと、そこにはバラバラになったワゴンと、粉々の食器たちが。
「あわわわ……すみません、すみません」
「そんなに混乱しないで。替えがあるから大丈夫よ」
「こわこわこわ、壊してしまいました……」
「ミリエラ? 安心していいのよ?」
すっかり動揺してしまっているミリエラに、声は届かない。
「直さなきゃ直さなきゃ直さなきゃ……えっと、えぇっとぉ……こ、こう!!」
バッと手をかざす。
するとミリエラの翡翠色の目が、輝きを持った。
その翡翠色の輝きが見つめる先を、二人が見ると――
淡い翡翠色の輝きに包まれ、ワゴンと食器が逆再生するように元の姿に戻った。
台車の上へ、不格好にワゴンが載った形で。
「……何だ今の」
「これは……どの魔術にも、該当しません……」
唖然とする二人。
一方、
「やったぁ~~! 直りました!!」
ミリエラは嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねていた。
デューイ王太子の右腕として様々な任につくイクスとそれを補佐するリーファを持ってしても、答えは見つからない。
「魔術は初めて使ったのよね?」
「はい……」
「見たことは?」
「ちゃんと見たのは初めてかもです……」
むう、と閉口するリーファ。
魔術とは、己の精神力を付与して現象を強化する術だ。
イメージが掴めなくて失敗するということはあれど、暴走するということはない。
なぜなら、イメージの範囲内でしか魔術は発生しないからだ。
「もしかして、すっっごく速く動く、みたいなイメージをした?」
「そんなことないです! 小走りくらいの感じかな、って思ってました!」
再び閉口する。
「その目のおかげじゃないか?」
「え」
イクスの呟きに、ミリエラは硬直した。
反射的に涙がつうと伝う。
「精霊? に好かれても、おかしくないだろう。だって――ってどどどどどどうした」
「この馬鹿! ミリエラは目のことを気にしてるんですから! 野暮なこと言わないでください!」
「すまない、そんなつもりじゃなかった」
しょぼくれた犬のように小さくなるイクス。
「い、いえ! これは反射的なもので、イクス様のせいではありません! その、あの」
まごまごするミリエラを見てイクスが微笑む。
「……いや、俺が悪かった。やはりミリエラは、優しい」
「そんなことは」
「こんな優しい雰囲気を纏っているんだ。精霊にだって、好かれるだろう」
真っ直ぐな瞳で言うイクスに、恥ずかしさを覚えて目を逸らす。
「ん? あ~。つまり? 目のおかげと言うのは? 優しい雰囲気が目にも出ているから、みたいなことですか?」
リーファがピリピリとした口調で問う。イクスが肯定すると、彼女はため息をついて、
「相変わらず言葉足らずなんですから……」
なるほど。そういうことだったのか。
ミリエラは少しあたたかい気持ちになる。
「ミリエラは何か思い当たる節はないの?」
「う~ん……精霊さん自体は、魔法の本によく出てきたんですけど……」
「魔法の本?」
それを聞いたイクスが呟くように言う。
「……魔法関連は、全て禁書だが」
「あ゛っ」
しまった、そうだった。
変な声が出てしまったが、今更訂正してもより怪しまれてしまうだろう。
仕方がない。
分が悪そうな声で続ける。
「その……すみません、訳あって、長い間禁書庫で暮らしてきたので……。それで、読んでました」
「そうだったのか」
「読んでいた、だけ? 何か実践したりは?」
「いえ何も……読むくらいしか、気力がなくて……」
ミリエラの瞳の奥が暗くなっていく。
これ以上踏み込むべきではないと判断したリーファは明るく切り替える。
「はい! じゃあこの話はここでおしまい! とりあえず向こうのワゴンを持ってくるわね!」
そう言って戻ってきたリーファの台車の中を覗くと、そこにはバラバラになったワゴンと、粉々の食器たちが。
「あわわわ……すみません、すみません」
「そんなに混乱しないで。替えがあるから大丈夫よ」
「こわこわこわ、壊してしまいました……」
「ミリエラ? 安心していいのよ?」
すっかり動揺してしまっているミリエラに、声は届かない。
「直さなきゃ直さなきゃ直さなきゃ……えっと、えぇっとぉ……こ、こう!!」
バッと手をかざす。
するとミリエラの翡翠色の目が、輝きを持った。
その翡翠色の輝きが見つめる先を、二人が見ると――
淡い翡翠色の輝きに包まれ、ワゴンと食器が逆再生するように元の姿に戻った。
台車の上へ、不格好にワゴンが載った形で。
「……何だ今の」
「これは……どの魔術にも、該当しません……」
唖然とする二人。
一方、
「やったぁ~~! 直りました!!」
ミリエラは嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
37
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる