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第一部 力の覚醒
第28話 ドレスとスーツ
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――
パーティの日は、思ったより早く訪れた。
先日話を聞いてから改めて採寸をさせられた上になぜか貴族の社交マナーなども新しく叩き込まれ、それを覚えたりしていたせいで時間が経つのが早く感じたのだ。
その時は、色々な知識や技能が必要なのだなと漠然と思っていた……
が、その理由が当日、ようやくわかった。
「すみません、このドレスは一体……」
通された一室でミリエラが前にしたのは一着のドレスだった。
他の三人のメイドは、事情をわかっているようでにやにやとしている。
「これはねっ、ミリエラちゃんのドレスだよっ!」
「きれい~」
セラとミリスがパチパチと手を叩く。
「えっと、そうではなく……メイド服では、ダメなのでしょうか?」
「ふふふふ、そう。ダメなのよ」
「り、リーファさん……?」
「メイドとして出向けば、全体の給仕をすることになるでしょう? それだと今回の任務を果たすのは難しいわ」
「えっと、任務と言うのは、絞り込んだ三人にお話を聞くことですよね?」
「そうよ」
「確かに全体のお給仕をしながらだと、あまり時間が取れなさそうだなとは思いましたけど……」
「そこで! ミリエラにはイクス様の遠縁の親戚、ミリィ・ナイトヴェイルとして出向いてもらうわ」
「なるほど。……えぇっ!?」
ま、まさか新しく学ばされてきた意味は……。
つまり、貴族の一員として参加しろ言うわけだ。
「うぅ、どうして言ってくれなかったんですかぁ」
「ミリエラ、ちょっと張り切りすぎていたし、あれ以上気負わせたくなくって」
「そんなに張り切ってましたか……?」
苦笑するリーファ。
恐る恐るセラとミリスの方を見ると、
「すっごく☆」「すっごく~」
と息を合わせて答えられてしまった。
「い、いたたまれないです~~っ」
「だってミリエラちゃん、魔術の実践の時すごかったもん!」
「うん。気合が入って魔術が暴走するなんて見たことないよ~」
耳が痛い。確かに進走や加速の魔術で屋敷中を爆走してしまうことは多かった気がする。
しかも、掃除で使われる魔術の拭浄に至っては、磨きすぎてカップが塵と化した。
それがセラのツボに入ってしまい、小一時間ほどひーひー言われていた。
「あ、あれは……そのぅ……」
しどろもどろに言い訳を探す。
……見つからない。
「張り切っちゃってたかも、です……」
認めざるを得なかった。
縮こまるミリエラを慰めるように優しくリーファが言う。
「だけど、そのお陰でミリエラのスキルはかなり向上したと思うわ。あとは自分を信じて、パーティでは美味しい料理もたくさん出るし、楽しんでいらっしゃい」
「た、楽しむなんてそんな」
「良いのよ、おどおどしていたら逆に怪しまれるわ」
「それは……そうかも、しれないです」
堂々と振る舞うこと。
これはマナー以前の立ち居振る舞いの問題だ。
リーファにもよく注意された。
まだ、上手くはできない。
「でも、がんばってみますっ」
「えぇ。肩の力を抜いて、頑張らないように頑張るのよ」
「がが、がんばら、がんばる……」
「ほらもう固くなってる。あ、まずはドレスを着てみましょうか。気分が変わるかもしれないわ」
そう言って着せられたドレスをまじまじと見る。
赤と白を織り交ぜた、豪勢なドレス。
生地の柔らかな質感は一度着ただけで服に馴染むし、随所に見られる美しく繊細な装飾は、纏う己を美術品に昇華してしまうかのようだ。
「綺麗……!」
見惚れて、思わずくるりとターンしてしまう。
ふわりと舞う裾も、隅々まで丁寧な施しが為されている。
「このドレス、最初にミリエラの服を選んだお店の特注品なのよ」
「えっ! そんな、わざわざ……」
「日用の服も特注で作ってくれているそうよ。よっぽど気に入ってくれたのね」
「楽しみです……! 今度お礼を言いに行きます!」
「私も一緒に行くわ。でも、ドレスを着てもそういうところはやっぱりミリエラね」
そう言って微笑むリーファ。
……今の自分はドレスに着られているようなものだ。
それでもドレス姿の自分は、見違えるよう。
夢でも想像できなかった自分が、そこにいる。
少しずつ、緊張が解けてきた。
「よし、いい表情になってきたわね」
リーファが安心したところで、扉が開きイクスが入ってきた。
いつもの騎士服ではなく、パーティ用のスーツだ。
若干眠そうな目つきはいつもどおりだが、黒のジャケットが彼の美しい銀髪を映えさせていた。
そしてビシリと決まったその姿は、鍛え上げられた肉体の輪郭を鮮明にする。
(か、かっこいい……)
違う意味で、緊張してしまった。
パーティの日は、思ったより早く訪れた。
先日話を聞いてから改めて採寸をさせられた上になぜか貴族の社交マナーなども新しく叩き込まれ、それを覚えたりしていたせいで時間が経つのが早く感じたのだ。
その時は、色々な知識や技能が必要なのだなと漠然と思っていた……
が、その理由が当日、ようやくわかった。
「すみません、このドレスは一体……」
通された一室でミリエラが前にしたのは一着のドレスだった。
他の三人のメイドは、事情をわかっているようでにやにやとしている。
「これはねっ、ミリエラちゃんのドレスだよっ!」
「きれい~」
セラとミリスがパチパチと手を叩く。
「えっと、そうではなく……メイド服では、ダメなのでしょうか?」
「ふふふふ、そう。ダメなのよ」
「り、リーファさん……?」
「メイドとして出向けば、全体の給仕をすることになるでしょう? それだと今回の任務を果たすのは難しいわ」
「えっと、任務と言うのは、絞り込んだ三人にお話を聞くことですよね?」
「そうよ」
「確かに全体のお給仕をしながらだと、あまり時間が取れなさそうだなとは思いましたけど……」
「そこで! ミリエラにはイクス様の遠縁の親戚、ミリィ・ナイトヴェイルとして出向いてもらうわ」
「なるほど。……えぇっ!?」
ま、まさか新しく学ばされてきた意味は……。
つまり、貴族の一員として参加しろ言うわけだ。
「うぅ、どうして言ってくれなかったんですかぁ」
「ミリエラ、ちょっと張り切りすぎていたし、あれ以上気負わせたくなくって」
「そんなに張り切ってましたか……?」
苦笑するリーファ。
恐る恐るセラとミリスの方を見ると、
「すっごく☆」「すっごく~」
と息を合わせて答えられてしまった。
「い、いたたまれないです~~っ」
「だってミリエラちゃん、魔術の実践の時すごかったもん!」
「うん。気合が入って魔術が暴走するなんて見たことないよ~」
耳が痛い。確かに進走や加速の魔術で屋敷中を爆走してしまうことは多かった気がする。
しかも、掃除で使われる魔術の拭浄に至っては、磨きすぎてカップが塵と化した。
それがセラのツボに入ってしまい、小一時間ほどひーひー言われていた。
「あ、あれは……そのぅ……」
しどろもどろに言い訳を探す。
……見つからない。
「張り切っちゃってたかも、です……」
認めざるを得なかった。
縮こまるミリエラを慰めるように優しくリーファが言う。
「だけど、そのお陰でミリエラのスキルはかなり向上したと思うわ。あとは自分を信じて、パーティでは美味しい料理もたくさん出るし、楽しんでいらっしゃい」
「た、楽しむなんてそんな」
「良いのよ、おどおどしていたら逆に怪しまれるわ」
「それは……そうかも、しれないです」
堂々と振る舞うこと。
これはマナー以前の立ち居振る舞いの問題だ。
リーファにもよく注意された。
まだ、上手くはできない。
「でも、がんばってみますっ」
「えぇ。肩の力を抜いて、頑張らないように頑張るのよ」
「がが、がんばら、がんばる……」
「ほらもう固くなってる。あ、まずはドレスを着てみましょうか。気分が変わるかもしれないわ」
そう言って着せられたドレスをまじまじと見る。
赤と白を織り交ぜた、豪勢なドレス。
生地の柔らかな質感は一度着ただけで服に馴染むし、随所に見られる美しく繊細な装飾は、纏う己を美術品に昇華してしまうかのようだ。
「綺麗……!」
見惚れて、思わずくるりとターンしてしまう。
ふわりと舞う裾も、隅々まで丁寧な施しが為されている。
「このドレス、最初にミリエラの服を選んだお店の特注品なのよ」
「えっ! そんな、わざわざ……」
「日用の服も特注で作ってくれているそうよ。よっぽど気に入ってくれたのね」
「楽しみです……! 今度お礼を言いに行きます!」
「私も一緒に行くわ。でも、ドレスを着てもそういうところはやっぱりミリエラね」
そう言って微笑むリーファ。
……今の自分はドレスに着られているようなものだ。
それでもドレス姿の自分は、見違えるよう。
夢でも想像できなかった自分が、そこにいる。
少しずつ、緊張が解けてきた。
「よし、いい表情になってきたわね」
リーファが安心したところで、扉が開きイクスが入ってきた。
いつもの騎士服ではなく、パーティ用のスーツだ。
若干眠そうな目つきはいつもどおりだが、黒のジャケットが彼の美しい銀髪を映えさせていた。
そしてビシリと決まったその姿は、鍛え上げられた肉体の輪郭を鮮明にする。
(か、かっこいい……)
違う意味で、緊張してしまった。
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