婚約破棄され天涯孤独になった令嬢ですが、無口な冷血騎士さまに溺愛されてしまいました…

マツダ

文字の大きさ
28 / 48
第一部 力の覚醒

第28話 ドレスとスーツ

しおりを挟む
――

 パーティの日は、思ったより早く訪れた。
 先日話を聞いてから改めて採寸をさせられた上になぜか貴族の社交マナーなども新しく叩き込まれ、それを覚えたりしていたせいで時間が経つのが早く感じたのだ。
 その時は、色々な知識や技能が必要なのだなと漠然と思っていた……

 が、その理由が当日、ようやくわかった。

「すみません、このドレスは一体……」

 通された一室でミリエラが前にしたのは一着のドレスだった。
 他の三人のメイドは、事情をわかっているようでにやにやとしている。

「これはねっ、ミリエラちゃんのドレスだよっ!」
「きれい~」

 セラとミリスがパチパチと手を叩く。

「えっと、そうではなく……メイド服では、ダメなのでしょうか?」
「ふふふふ、そう。ダメなのよ」
「り、リーファさん……?」
「メイドとして出向けば、全体の給仕をすることになるでしょう? それだと今回の任務を果たすのは難しいわ」
「えっと、任務と言うのは、絞り込んだ三人にお話を聞くことですよね?」
「そうよ」
「確かに全体のお給仕をしながらだと、あまり時間が取れなさそうだなとは思いましたけど……」
「そこで! ミリエラにはイクス様の遠縁の親戚、ミリィ・ナイトヴェイルとして出向いてもらうわ」
「なるほど。……えぇっ!?」

 ま、まさか新しく学ばされてきた意味は……。
 つまり、貴族の一員として参加しろ言うわけだ。

「うぅ、どうして言ってくれなかったんですかぁ」
「ミリエラ、ちょっと張り切りすぎていたし、あれ以上気負わせたくなくって」
「そんなに張り切ってましたか……?」

 苦笑するリーファ。
 恐る恐るセラとミリスの方を見ると、

「すっごく☆」「すっごく~」

 と息を合わせて答えられてしまった。

「い、いたたまれないです~~っ」
「だってミリエラちゃん、魔術の実践の時すごかったもん!」
「うん。気合が入って魔術が暴走するなんて見たことないよ~」

 耳が痛い。確かに進走プローグ加速アクセルの魔術で屋敷中を爆走してしまうことは多かった気がする。
 しかも、掃除で使われる魔術の拭浄レディートに至っては、磨きすぎてカップが塵と化した。
 それがセラのツボに入ってしまい、小一時間ほどひーひー言われていた。

「あ、あれは……そのぅ……」

 しどろもどろに言い訳を探す。
 ……見つからない。

「張り切っちゃってたかも、です……」

 認めざるを得なかった。
 縮こまるミリエラを慰めるように優しくリーファが言う。

「だけど、そのお陰でミリエラのスキルはかなり向上したと思うわ。あとは自分を信じて、パーティでは美味しい料理もたくさん出るし、楽しんでいらっしゃい」
「た、楽しむなんてそんな」
「良いのよ、おどおどしていたら逆に怪しまれるわ」
「それは……そうかも、しれないです」

 堂々と振る舞うこと。
 これはマナー以前の立ち居振る舞いの問題だ。
 リーファにもよく注意された。
 まだ、上手くはできない。

「でも、がんばってみますっ」
「えぇ。肩の力を抜いて、頑張らないように頑張るのよ」
「がが、がんばら、がんばる……」
「ほらもう固くなってる。あ、まずはドレスを着てみましょうか。気分が変わるかもしれないわ」

 そう言って着せられたドレスをまじまじと見る。
 赤と白を織り交ぜた、豪勢なドレス。
 生地の柔らかな質感は一度着ただけで服に馴染むし、随所に見られる美しく繊細な装飾は、纏う己を美術品に昇華してしまうかのようだ。

「綺麗……!」

 見惚れて、思わずくるりとターンしてしまう。
 ふわりと舞う裾も、隅々まで丁寧な施しが為されている。

「このドレス、最初にミリエラの服を選んだお店の特注品なのよ」
「えっ! そんな、わざわざ……」
「日用の服も特注で作ってくれているそうよ。よっぽど気に入ってくれたのね」
「楽しみです……! 今度お礼を言いに行きます!」
「私も一緒に行くわ。でも、ドレスを着てもそういうところはやっぱりミリエラね」

 そう言って微笑むリーファ。

 ……今の自分はドレスに着られているようなものだ。
 それでもドレス姿の自分は、見違えるよう。
 夢でも想像できなかった自分が、そこにいる。

 少しずつ、緊張が解けてきた。

「よし、いい表情になってきたわね」

 リーファが安心したところで、扉が開きイクスが入ってきた。

 いつもの騎士服ではなく、パーティ用のスーツだ。
 若干眠そうな目つきはいつもどおりだが、黒のジャケットが彼の美しい銀髪を映えさせていた。
 そしてビシリと決まったその姿は、鍛え上げられた肉体の輪郭を鮮明にする。

(か、かっこいい……)

 違う意味で、緊張してしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さくら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。 その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。

辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...