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第一部 力の覚醒
第29話 デューイ王太子
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それからも、パーティ会場に着くまでは変な緊張が収まらなかった。
楽しんでこいと言われたものの、任務を背負う身だ。
そうでなかったとしても、貴族の出席するパーティなんて初めてだ。
ナイトヴェイル家に傷をつけない振る舞いをしなければならない重みこそあるが、それと同様にキラキラしたパーティへの楽しみもあった。
(そ、それに……)
馬車の中で対面に座るイクスを一瞬だけちらりと見る。
その顔つきは相変わらずの無表情なのに、整ったスーツ姿は本当に様になっている。
いつもと違う服装だと思うと改めてまじまじと見てしまうが、その静かな佇まい、艷やかで軽くウェーブの掛かった銀髪、鋭さと柔らかさを内包させた灼眼……
そのどれもが際立って見える。
任務、パーティ、イクス……。
ぐるぐる廻る思考に酔いそうになったところで、馬車がようやく止まった。
いよいよだ!
降りる前に手鏡で自分の顔を確認する。
リーファに化粧してもらった顔は一瞬誰だか忘れてしまうほど綺麗にしてもらったし、セラに整えてもらった髪も驚くほど艶がある。
そして、ミリスからは直接目に付けることで色を変える魔術具をもらった。
『これならセキュリティの魔術解除にも引っかからないよ~』
と、自慢げに言っていた。
髪に関しても、茶髪になるトリートメントのような魔術具を使ってもらった。効果は最大二日とのことだが。
セキュリティを潜り抜けるようなことをしてもいいのかな、とは思いつつ、綺麗な碧色に見える自分の目を見ると、やはり安心できた。
(これなら初対面の方からも怖がられないですよね)
一人、そう頷いて手鏡をしまう。
「緊張、しているか?」
「今は大丈夫です!」
「そうか? 先程、俺の顔を見ていた気がしたんだが」
「えっ!? あ、そそそそそそれは……別件です! 気にしないでくださいっ」
「? ……わかった」
危ない危ない。
とりあえず飲み込んでくれたようで良かった。
会場に入ろうとすると、誰かの演説が終わったようで中が一気にわぁっと盛り上がった。
それを聞き、イクスが思案顔になる。
これはもしかして。
「あの、イクス様。私たち遅れてしまったのでしょうか……」
「指定時間通りだから、そんなはずはないんだが」
そうは言いつつも、早足で会場に入る。
開始の宣言は今さっき為されたようで、会場の喧騒は徐々に大きくなっていった。
「デューイ」
「おっ、イクスじゃないか。ちゃんと時間通りだね」
「……本当か?」
イクスが眉をひそめる。
後ろをついていったミリエラが相手の顔を見ると、見たことのある顔が目に入った。
(こ、この方がデューイ王太子殿下……!)
そのデューイは、どこに目のやり場を持っていけばいいかわからなくなるほどの美しさを備えていた。
つんとした金髪はイクスの銀髪と対で見ると高貴な獣のようだし、大きく透き通るような碧眼は宝石を思わせる。
背格好はイクスより少し高いが、二人並んでみると乗算された格好良さに気圧されてしまう。
「本当さ。開始直後には多くの貴族が我先にと挨拶に来るだろう? でも私はね、飲むなら真っ先に君と飲みたいのさ」
「いや、仕事をしろ」
ワイングラスを掲げてきらきらと語るデューイを一蹴するイクス。
イクスがツッコミになるとは珍しい、とミリエラは目を丸くした。
落ち着き払ったイクスとは対照的に、デューイからは社交性と明るさが溢れている。
「まぁまぁ、私と君の中だろう? そう言わずにほら、乾杯だ」
「……」
渋い目つきをしながらもワイングラスは受け取る。
その後ろに控えているミリエラに気づいたのか、デューイが声を掛けてきた。
「おや、今日は違う子なんだね。あぁっ、いよいよ我が親友もそういう遊びを覚える時期か……!」
「違うぞ」
大仰な芝居をするデューイをまたも一蹴。
一方ミリエラは練習した通りの挨拶をせねばと、わたわたしながら口を開いた。
「わ、私はミリィ・ナイトヴェイルです!」
「遠縁の親戚だ」
「へ~。そういうことね。オッケイ、ミリィちゃん。私はロクスター王国王太子、デューイ・エレズィアード・ロクスターだ。イクスとは赤ちゃんの頃からの親友さ。よろしくね」
「は、はいっ、よろしくお願い致します!」
しかし……と、デューイがミリエラの顔をまじまじと見つめてきて、言う。
「可愛い子だね。ほら、周りを見てみな? いよいよイクスに婚約者ができたのかとザワついてる」
「え!? そんなまさか」
そう言われ周りを見てみると、視線が自分に集まっていることに気づく。
混乱しているミリエラを見てイクスがフォローを入れる。
「……全く、同じ家紋のブローチをつけているんだから縁者だとわかるだろうに」
「そーいうことじゃないんだよなぁ」
「それに、彼女にだって結婚する相手を選ぶ権利がある」
だが、二人の会話はミリエラの耳には入らない。
(拾われた私が婚約者とか、そんなの……)
恥ずかしいだとか照れくさいだとか言うよりも、分不相応だと言う意識が頭をもたげる。
そんな二人を見て、デューイがニヤリとする。
「と言ってもさぁ、私から見たらお似合いだけど?」
「それはイクス様に失礼ですっ」「それはミリィに失礼だろう」
二人同時に否定してしまった。
その様子を見て、ふむ。と頷くデューイ。
そして、
「少なくとも、息は合うようだ」
からかうように笑う。
(うぅっ……)
……最初から注目を集めてしまった上に、まさか殿下にからかわれてしまうとは……。
前途多難なパーティの幕開けだった。
楽しんでこいと言われたものの、任務を背負う身だ。
そうでなかったとしても、貴族の出席するパーティなんて初めてだ。
ナイトヴェイル家に傷をつけない振る舞いをしなければならない重みこそあるが、それと同様にキラキラしたパーティへの楽しみもあった。
(そ、それに……)
馬車の中で対面に座るイクスを一瞬だけちらりと見る。
その顔つきは相変わらずの無表情なのに、整ったスーツ姿は本当に様になっている。
いつもと違う服装だと思うと改めてまじまじと見てしまうが、その静かな佇まい、艷やかで軽くウェーブの掛かった銀髪、鋭さと柔らかさを内包させた灼眼……
そのどれもが際立って見える。
任務、パーティ、イクス……。
ぐるぐる廻る思考に酔いそうになったところで、馬車がようやく止まった。
いよいよだ!
降りる前に手鏡で自分の顔を確認する。
リーファに化粧してもらった顔は一瞬誰だか忘れてしまうほど綺麗にしてもらったし、セラに整えてもらった髪も驚くほど艶がある。
そして、ミリスからは直接目に付けることで色を変える魔術具をもらった。
『これならセキュリティの魔術解除にも引っかからないよ~』
と、自慢げに言っていた。
髪に関しても、茶髪になるトリートメントのような魔術具を使ってもらった。効果は最大二日とのことだが。
セキュリティを潜り抜けるようなことをしてもいいのかな、とは思いつつ、綺麗な碧色に見える自分の目を見ると、やはり安心できた。
(これなら初対面の方からも怖がられないですよね)
一人、そう頷いて手鏡をしまう。
「緊張、しているか?」
「今は大丈夫です!」
「そうか? 先程、俺の顔を見ていた気がしたんだが」
「えっ!? あ、そそそそそそれは……別件です! 気にしないでくださいっ」
「? ……わかった」
危ない危ない。
とりあえず飲み込んでくれたようで良かった。
会場に入ろうとすると、誰かの演説が終わったようで中が一気にわぁっと盛り上がった。
それを聞き、イクスが思案顔になる。
これはもしかして。
「あの、イクス様。私たち遅れてしまったのでしょうか……」
「指定時間通りだから、そんなはずはないんだが」
そうは言いつつも、早足で会場に入る。
開始の宣言は今さっき為されたようで、会場の喧騒は徐々に大きくなっていった。
「デューイ」
「おっ、イクスじゃないか。ちゃんと時間通りだね」
「……本当か?」
イクスが眉をひそめる。
後ろをついていったミリエラが相手の顔を見ると、見たことのある顔が目に入った。
(こ、この方がデューイ王太子殿下……!)
そのデューイは、どこに目のやり場を持っていけばいいかわからなくなるほどの美しさを備えていた。
つんとした金髪はイクスの銀髪と対で見ると高貴な獣のようだし、大きく透き通るような碧眼は宝石を思わせる。
背格好はイクスより少し高いが、二人並んでみると乗算された格好良さに気圧されてしまう。
「本当さ。開始直後には多くの貴族が我先にと挨拶に来るだろう? でも私はね、飲むなら真っ先に君と飲みたいのさ」
「いや、仕事をしろ」
ワイングラスを掲げてきらきらと語るデューイを一蹴するイクス。
イクスがツッコミになるとは珍しい、とミリエラは目を丸くした。
落ち着き払ったイクスとは対照的に、デューイからは社交性と明るさが溢れている。
「まぁまぁ、私と君の中だろう? そう言わずにほら、乾杯だ」
「……」
渋い目つきをしながらもワイングラスは受け取る。
その後ろに控えているミリエラに気づいたのか、デューイが声を掛けてきた。
「おや、今日は違う子なんだね。あぁっ、いよいよ我が親友もそういう遊びを覚える時期か……!」
「違うぞ」
大仰な芝居をするデューイをまたも一蹴。
一方ミリエラは練習した通りの挨拶をせねばと、わたわたしながら口を開いた。
「わ、私はミリィ・ナイトヴェイルです!」
「遠縁の親戚だ」
「へ~。そういうことね。オッケイ、ミリィちゃん。私はロクスター王国王太子、デューイ・エレズィアード・ロクスターだ。イクスとは赤ちゃんの頃からの親友さ。よろしくね」
「は、はいっ、よろしくお願い致します!」
しかし……と、デューイがミリエラの顔をまじまじと見つめてきて、言う。
「可愛い子だね。ほら、周りを見てみな? いよいよイクスに婚約者ができたのかとザワついてる」
「え!? そんなまさか」
そう言われ周りを見てみると、視線が自分に集まっていることに気づく。
混乱しているミリエラを見てイクスがフォローを入れる。
「……全く、同じ家紋のブローチをつけているんだから縁者だとわかるだろうに」
「そーいうことじゃないんだよなぁ」
「それに、彼女にだって結婚する相手を選ぶ権利がある」
だが、二人の会話はミリエラの耳には入らない。
(拾われた私が婚約者とか、そんなの……)
恥ずかしいだとか照れくさいだとか言うよりも、分不相応だと言う意識が頭をもたげる。
そんな二人を見て、デューイがニヤリとする。
「と言ってもさぁ、私から見たらお似合いだけど?」
「それはイクス様に失礼ですっ」「それはミリィに失礼だろう」
二人同時に否定してしまった。
その様子を見て、ふむ。と頷くデューイ。
そして、
「少なくとも、息は合うようだ」
からかうように笑う。
(うぅっ……)
……最初から注目を集めてしまった上に、まさか殿下にからかわれてしまうとは……。
前途多難なパーティの幕開けだった。
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