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1章 異世界転移
街に到着
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地平線の先まで続く草原を穏やかな風がなでる。萌黄色の海原は、束の間の間金色に染まり、今は茜色に輝いている。
ずぶ濡れだった服もすっかり乾いている。
つまり何が言いたいかというと。
「あの、アリーセさん。そろそろ……」
「もうちょっとで、出来そうなのよ、きっと今度こそは!」
あれから日が傾いてすっかり夕焼け空の今までずっと、アリーセが川の水をアイテムボックスに収納しようと頑張っているのである。
想像以上に、この世界の住人が微生物であるとか、水分子であるとか、純水とかを理解するのは難しいようである。アリーセが脳筋なだけかもしれないが……。
「これが出来るようになれば、長期の依頼や遠征の時に水の心配をしなくて済むのよ?報酬の半分もまずい携行水を買わなくてもすむのよ? 革命と言ってもいいわ!」
「よし、少し落ち着こうか」
きりがないので、終わりにしてもらう。もう日が暮れようとしているし、さすがにお腹がすいてきた。
「次は成功したと思うのに……」
「いやいや、そう言ってもう何時間もたってるから!今日中に街にたどり着けるの!?」
「あっ」
「あっ、って信用第一、ベテラン冒険者のアリーセさんは一体どこへ行かれたんですか!?」
なんか、照れてるけど褒めてないからな?
「大丈夫、冒険者は夜でも街の中に入れるから。ちゃんと責任もって街まで連れていくわ!」
なんで、目を合わせてくれないんですかね? 首回してもダメです。
とりあえず、ちょっとしたトラブルはあったが、街に向かって歩き始めた。アリーセがちょくちょく、お手本を見せろと言うので、その度に水を収納していたので、アイテムボックス数ページ分ほど水が収納されているが、まあ、アイテムボックスの容量は引くほどあるから誤差の範囲だろう。
ほどなく、あぜ道のようだった道は、舗装こそされていないが、道幅もそれなりにある道に合流した。交易路になっている主要な道だということだ。あたりはすでに真っ暗である。
「ここまで来れば、あともうちょっとで街に着くわ」
「もう真っ暗だけどな」
「うん、ごめんね! でもね、一樽分でも収納出来たら20日は水の心配がいらなくなるのよ? いけ好かない錬金術師の店で、明らかに足元見られているのがまるわかりなのに、それを買うしかないっていう、その時の私の気持ちを考えてもみてよ!」
なんか、変なスイッチ入ったようだけど、街まで行って縁が切れてしまうのもアレだし、また会えるように提案を出しとこう。アリーセは腕も確かだし、信頼も信用もできる人物だと思う。ましてや、かわいい上に獣人だ。是非ともお近づきになっておきたい。問題がないわけじゃないけど、他に知り合いもいないし。
「だったら、出来るようになるまで、その特訓に付き合おうか? その間に水が必要なら、元がタダだし、いくらでも渡すけど?」
「えっ良いの!? ぜひお願いしたいわ! あ、でも、タダってのはダメでしょ? そこはしっかり、対価を払うわ」
こういう所は信用出来るな。とはいえ、正直お金は経済破綻させられるくらいあるし、貰ってもこれ以上増えないので、貰う意味がない。
かといって、タダで良いとしてしまうと、アリーセの様子から、もしどこからかこの情報が他に漏れたら、他の冒険者に俺にも教えろと、次々に人が来て、めんどくさい事になったり、もともと携行水を売って儲けていた奴らから恨まれたり碌なことがなさそうだ。
「それじゃあ、対価の代わりに、水のことを内緒にしてもらって、アリーセの用事が無い時で良いから、いろいろと教えてくれないか?」
「そんなことで良いならお安い御用よ、町の案内や宿の手配、おすすめの甘味処までお任せあれよ。でも、情報を対価にするって言っても、誰でも分かるような情報ばっかりだから私の方がもらい過ぎだと思うわ」
まじめか。
「いや、生活に関する部分とかそういう部分が思い出せない俺にとっては何よりも価値があることだよ。信頼出来る冒険者を見つけるのだって、同じだよ? お金で買えない価値があるってやつだな」
「そ、そう? それなら、今後とも是非ご贔屓に……。って感じで良いのかしら?」
「大丈夫だ問題ない」
そうこうしているうちに、街の明かりが見えてきた。ランプやろうそく、松明といった明かりで夜は結構暗いと勝手に想像していたが、思ったよりも随分と明るいように思える。
「やっと、街が見えたか。そういや、なんて名前の街なんだ?」
「フェルスホルストよ。主要な街道が集まった交易の中継地点みたいな街ね。ロットラント王国の端っこではあるんだけど、いろんな物や人が集まる賑やかな所よ。まあそれなりにトラブルなんかは多いから、私みたいな冒険者には住みやすいともいえるかな?」
あちこちから人が来るということは、エルフやドワーフ、いろんな獣人達に会えるかもしれない。期待が高まるな。
一応国に関してもあれこれ聞いておこうかな?変な宗教国家とかだったら嫌だしな……。
「国について? んー私はロットラント王国から出たことないし、バリバリの平民だからね、普通の国って感じしか分からないわ。興味も無かったし……。あとでちょっと調べておくわ」
大した情報は無かったが、それはつまり平民であるアリーセが、特筆すべきことが無い程度には安定していて、飛びぬけてよい部分もない代わりに、酷い悪政が敷かれてるわけでもないって事だろう。
道なりに街に近づくと、5mくらいの城壁が見えてきた。城壁の手前にも、道に沿うように、ちらほらと店や酒場のようなものが見え、その窓から明かりがもれている。街に入るとなると、関税がかかるので街に入るまでもないような行商人目当て商店等だということだ。
素通り出来るとなるとなにやら密輸とかの温床になりそうだが、あえてそうしている事によって、そういったものを街の中に入ってこないようにしているということだった。たぶん、流通を活性化させる意味合いもあるんだと思う。
「このまま道なりに進んで、少し迂回すると街の裏門に着くわ。正面の立派な門はお貴族様専用だから近づかない方が無難よ」
お貴族様専用という門は、立派なレリーフのある真っ白な門で、ライトアップがされていた。随分と明るい気がしたので聞いてみると、そういう魔道具があるということだった。
街に入るのに身分が証明出来るものが必要だけど、無ければ簡単に審査を受けて通行税を支払えば大丈夫よ」
裏門には、もう夜だというのに馬車や大きな荷物を抱えた人たちで結構な行列が出来ていた。
うへ、これからあそこに並ぶのか。でもまあ、やっと文明の匂いを感じる所に来れて、少し、いやかなり安心が出来た。
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読んでいただきありがとうございます。
ずぶ濡れだった服もすっかり乾いている。
つまり何が言いたいかというと。
「あの、アリーセさん。そろそろ……」
「もうちょっとで、出来そうなのよ、きっと今度こそは!」
あれから日が傾いてすっかり夕焼け空の今までずっと、アリーセが川の水をアイテムボックスに収納しようと頑張っているのである。
想像以上に、この世界の住人が微生物であるとか、水分子であるとか、純水とかを理解するのは難しいようである。アリーセが脳筋なだけかもしれないが……。
「これが出来るようになれば、長期の依頼や遠征の時に水の心配をしなくて済むのよ?報酬の半分もまずい携行水を買わなくてもすむのよ? 革命と言ってもいいわ!」
「よし、少し落ち着こうか」
きりがないので、終わりにしてもらう。もう日が暮れようとしているし、さすがにお腹がすいてきた。
「次は成功したと思うのに……」
「いやいや、そう言ってもう何時間もたってるから!今日中に街にたどり着けるの!?」
「あっ」
「あっ、って信用第一、ベテラン冒険者のアリーセさんは一体どこへ行かれたんですか!?」
なんか、照れてるけど褒めてないからな?
「大丈夫、冒険者は夜でも街の中に入れるから。ちゃんと責任もって街まで連れていくわ!」
なんで、目を合わせてくれないんですかね? 首回してもダメです。
とりあえず、ちょっとしたトラブルはあったが、街に向かって歩き始めた。アリーセがちょくちょく、お手本を見せろと言うので、その度に水を収納していたので、アイテムボックス数ページ分ほど水が収納されているが、まあ、アイテムボックスの容量は引くほどあるから誤差の範囲だろう。
ほどなく、あぜ道のようだった道は、舗装こそされていないが、道幅もそれなりにある道に合流した。交易路になっている主要な道だということだ。あたりはすでに真っ暗である。
「ここまで来れば、あともうちょっとで街に着くわ」
「もう真っ暗だけどな」
「うん、ごめんね! でもね、一樽分でも収納出来たら20日は水の心配がいらなくなるのよ? いけ好かない錬金術師の店で、明らかに足元見られているのがまるわかりなのに、それを買うしかないっていう、その時の私の気持ちを考えてもみてよ!」
なんか、変なスイッチ入ったようだけど、街まで行って縁が切れてしまうのもアレだし、また会えるように提案を出しとこう。アリーセは腕も確かだし、信頼も信用もできる人物だと思う。ましてや、かわいい上に獣人だ。是非ともお近づきになっておきたい。問題がないわけじゃないけど、他に知り合いもいないし。
「だったら、出来るようになるまで、その特訓に付き合おうか? その間に水が必要なら、元がタダだし、いくらでも渡すけど?」
「えっ良いの!? ぜひお願いしたいわ! あ、でも、タダってのはダメでしょ? そこはしっかり、対価を払うわ」
こういう所は信用出来るな。とはいえ、正直お金は経済破綻させられるくらいあるし、貰ってもこれ以上増えないので、貰う意味がない。
かといって、タダで良いとしてしまうと、アリーセの様子から、もしどこからかこの情報が他に漏れたら、他の冒険者に俺にも教えろと、次々に人が来て、めんどくさい事になったり、もともと携行水を売って儲けていた奴らから恨まれたり碌なことがなさそうだ。
「それじゃあ、対価の代わりに、水のことを内緒にしてもらって、アリーセの用事が無い時で良いから、いろいろと教えてくれないか?」
「そんなことで良いならお安い御用よ、町の案内や宿の手配、おすすめの甘味処までお任せあれよ。でも、情報を対価にするって言っても、誰でも分かるような情報ばっかりだから私の方がもらい過ぎだと思うわ」
まじめか。
「いや、生活に関する部分とかそういう部分が思い出せない俺にとっては何よりも価値があることだよ。信頼出来る冒険者を見つけるのだって、同じだよ? お金で買えない価値があるってやつだな」
「そ、そう? それなら、今後とも是非ご贔屓に……。って感じで良いのかしら?」
「大丈夫だ問題ない」
そうこうしているうちに、街の明かりが見えてきた。ランプやろうそく、松明といった明かりで夜は結構暗いと勝手に想像していたが、思ったよりも随分と明るいように思える。
「やっと、街が見えたか。そういや、なんて名前の街なんだ?」
「フェルスホルストよ。主要な街道が集まった交易の中継地点みたいな街ね。ロットラント王国の端っこではあるんだけど、いろんな物や人が集まる賑やかな所よ。まあそれなりにトラブルなんかは多いから、私みたいな冒険者には住みやすいともいえるかな?」
あちこちから人が来るということは、エルフやドワーフ、いろんな獣人達に会えるかもしれない。期待が高まるな。
一応国に関してもあれこれ聞いておこうかな?変な宗教国家とかだったら嫌だしな……。
「国について? んー私はロットラント王国から出たことないし、バリバリの平民だからね、普通の国って感じしか分からないわ。興味も無かったし……。あとでちょっと調べておくわ」
大した情報は無かったが、それはつまり平民であるアリーセが、特筆すべきことが無い程度には安定していて、飛びぬけてよい部分もない代わりに、酷い悪政が敷かれてるわけでもないって事だろう。
道なりに街に近づくと、5mくらいの城壁が見えてきた。城壁の手前にも、道に沿うように、ちらほらと店や酒場のようなものが見え、その窓から明かりがもれている。街に入るとなると、関税がかかるので街に入るまでもないような行商人目当て商店等だということだ。
素通り出来るとなるとなにやら密輸とかの温床になりそうだが、あえてそうしている事によって、そういったものを街の中に入ってこないようにしているということだった。たぶん、流通を活性化させる意味合いもあるんだと思う。
「このまま道なりに進んで、少し迂回すると街の裏門に着くわ。正面の立派な門はお貴族様専用だから近づかない方が無難よ」
お貴族様専用という門は、立派なレリーフのある真っ白な門で、ライトアップがされていた。随分と明るい気がしたので聞いてみると、そういう魔道具があるということだった。
街に入るのに身分が証明出来るものが必要だけど、無ければ簡単に審査を受けて通行税を支払えば大丈夫よ」
裏門には、もう夜だというのに馬車や大きな荷物を抱えた人たちで結構な行列が出来ていた。
うへ、これからあそこに並ぶのか。でもまあ、やっと文明の匂いを感じる所に来れて、少し、いやかなり安心が出来た。
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読んでいただきありがとうございます。
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