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1章 異世界転移
街に入れた
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通用門を中世ヨーロッパのような街並みが広がっていた。メインストリート沿いだからか夜だというのに思ったよりも明るく賑やかだ。道は石畳になっていて、わりと整備もされているようだ。
「あ、そういえば、依頼料渡してなかったよな?」
そう言って、袋から旧王国金貨を1枚出してアリーセに放り投げる。最初に300枚渡した時に律儀に全部返してきたので、アリーセにはまだ1ナールも渡していなかったのだ。
「え、あ、おっとっとと……って、ちょっと!いきなり投げないでよ!」
「釣りはいらねーぜ?」
ニヤリと笑ってやると、アリーセは一瞬ぽかんとした顔でこちらを見て、再びキャッチした金貨に目を落とす。
「え?ダメだって、遅くなったのは私のせいだし、こんなに貰うわけにはいかないわ! ちゃんと多い分は返すわよ!」
「命の恩人に対するお礼には大分不足だと思ってるんだけどな。だったら、今後もしばらく雇われてくれないか? どうせ、あの特訓もするのは外だし、その間の護衛と、分からないことをまたいろいろ教えてくれ」
「それでも、教えてもらう内容的には、むしろ私が払わないと釣り合わないじゃない」
真面目か!
「いやいや、何が分からないのかも分からない状態だからな。まともに生活できるかすら怪しい、野垂れ死ぬ可能性だってあるから、俺の方が死活問題だぞ?」
異世界なのだからトイレの使い方すら分からない可能性がある。そうなったら死んでしまうだろう、社会的に。
「えー?そうかなぁ?」
「アリーセ、俺のことを5歳の子供だと思って考えてみてくれ、金があったとしても一人で生きていけると思うか?」
「うーん、騙されてお金だけ取られて奴隷商に売られて男色家の富豪に買われる?」
想像力たくましいな!異世界生活が怖くなってきぞ、尻穴的に。
「恐ろしい未来予想図をどうもありがとう。この金貨全部渡すのでそうならないように助けてくださいお願いします」
スライディング土下座でアリーセに救いを求める。ぶっちゃけ平和な日本で暮らしていた俺が、アリーセの想像通りになってしまう事だって十分ありえる。男色家だけは嫌だ。
「こんな場所でそういうことやめて! わかった! わかったから! ね?」
土下座で頼み込む俺を慌てて宥めてくる。夜ではあるが、結構賑やかなメインストリートには、まだ人もチラホラと居て、なんだ痴話喧嘩か?求婚か?と集まりだしたからだ。
「はい立って! さ、ギルドに行くわよ!」
顔が真っ赤なアリーセに引きずられて、この場を後にする。許してもらってよかったな~とか酔っぱらいに囃し立てられながら。
引きずられたまま、アリーセはずんずんとメインストリートを進んでいく。酒場などが並ぶ賑やかな通りを進むと開けた場所に出た。街灯などがありここも夜だというのにそこそこ明るい。
「あー恥ずかしかった……。もう止めてよねあーいうことは」
「いや、すまん。だけど俺にとっては生きるか死ぬかだったからな形振り構ってられなかったんだ」
「別に怒ってないから良いわよもう。貰った料金分だと思うわ。それより、ほら、あそこが冒険者ギルドよ」
まだ顔が赤いアリーセが指を指す方を見ると、4階建ての他の建物と比べると少し大きい建物だった。大きく取られた戸口には、剣と酒坏のマークの看板が掲げられている。窓からは明かりが漏れ、酒場等が併設されているのだろう、中からは笑い声など楽しそうに騒ぐ声が聞こえる。
おお、なにか得も言われぬ感動を覚えるな。
そのままアリーセはギルドの扉を開け中に入る。
中に入ると併設された酒場で飲み食いしていた冒険者達の喧騒がピタリと止まり中にいたそこそこの人数の冒険者が一斉にこちらを向いた。
「え? 何?」
普段こういう事は無いのだろう、アリーセは戸惑った様子だ。
アリーセはそのままギルドに入った。
つまり、俺を引きずったままギルドに入ってしまったわけである。
「アリーセが男引きずってきたぞ?」
「独り身拗らせて拐って来たんじゃねーの?」
「痴漢を捕まえたとか?」
「それだったら衛兵の方に行くだろ?」
再びザワザワとしだすと、聞こえて来た声から、なぜ自分が注目されているのか理解したアリーセは、ギギギと首を真後ろに回して俺の方に向いた。
なんかこんな風に首が回る漫画あったような気がするな、あっちはアンドロイドで180度どころかクルクル回ってたが……。
「いやーアリーセさん、そろそろ放してもらえると嬉しいかなー、うん」
「あ、ご、ごめん……」
アリーセは、またもや顔が真っ赤になってしまった。
「スミマセンご歓談中にお騒がせしました。突発依頼の手続きに来ただけですのでお構いなく」
立ち上がって、ビジネスマナー講習で習ったパーフェクトなお辞儀を披露して、アリーセのフォローをする。
こちらに注目していた冒険者達は、突発依頼の手続きと聞いて、次第に興味を失ってそれぞれの話題に戻って行く。
「なんだ、とうとうアリーセに春が来たのかと思ったぜ」
「それだったら引きずって来ないでしょ?」
「突発依頼の報酬で揉めたんじゃねーの?」
あれ?話題変わってないな。冒険者達はアリーセの話題を酒の肴に金属製らしいジョッキを呷っていた。
「さ、さあ、あっちのカウンターの方で手続きしてイオリの話をしちゃおう」
俺の手を引っ張って、さかさかと逃げるようにカウンターの方へ向かうアリーセだったが、俺と手を繋いでしまったせいで、場内のざわめきが大きくなった気がする。
まあ、アリーセはベテラン冒険者みたいだし、顔馴染みも多いんだろう。多分後で知り合いに弄られるパターンじゃないかなぁ……。
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お読みいただきありがとうございます。
「あ、そういえば、依頼料渡してなかったよな?」
そう言って、袋から旧王国金貨を1枚出してアリーセに放り投げる。最初に300枚渡した時に律儀に全部返してきたので、アリーセにはまだ1ナールも渡していなかったのだ。
「え、あ、おっとっとと……って、ちょっと!いきなり投げないでよ!」
「釣りはいらねーぜ?」
ニヤリと笑ってやると、アリーセは一瞬ぽかんとした顔でこちらを見て、再びキャッチした金貨に目を落とす。
「え?ダメだって、遅くなったのは私のせいだし、こんなに貰うわけにはいかないわ! ちゃんと多い分は返すわよ!」
「命の恩人に対するお礼には大分不足だと思ってるんだけどな。だったら、今後もしばらく雇われてくれないか? どうせ、あの特訓もするのは外だし、その間の護衛と、分からないことをまたいろいろ教えてくれ」
「それでも、教えてもらう内容的には、むしろ私が払わないと釣り合わないじゃない」
真面目か!
「いやいや、何が分からないのかも分からない状態だからな。まともに生活できるかすら怪しい、野垂れ死ぬ可能性だってあるから、俺の方が死活問題だぞ?」
異世界なのだからトイレの使い方すら分からない可能性がある。そうなったら死んでしまうだろう、社会的に。
「えー?そうかなぁ?」
「アリーセ、俺のことを5歳の子供だと思って考えてみてくれ、金があったとしても一人で生きていけると思うか?」
「うーん、騙されてお金だけ取られて奴隷商に売られて男色家の富豪に買われる?」
想像力たくましいな!異世界生活が怖くなってきぞ、尻穴的に。
「恐ろしい未来予想図をどうもありがとう。この金貨全部渡すのでそうならないように助けてくださいお願いします」
スライディング土下座でアリーセに救いを求める。ぶっちゃけ平和な日本で暮らしていた俺が、アリーセの想像通りになってしまう事だって十分ありえる。男色家だけは嫌だ。
「こんな場所でそういうことやめて! わかった! わかったから! ね?」
土下座で頼み込む俺を慌てて宥めてくる。夜ではあるが、結構賑やかなメインストリートには、まだ人もチラホラと居て、なんだ痴話喧嘩か?求婚か?と集まりだしたからだ。
「はい立って! さ、ギルドに行くわよ!」
顔が真っ赤なアリーセに引きずられて、この場を後にする。許してもらってよかったな~とか酔っぱらいに囃し立てられながら。
引きずられたまま、アリーセはずんずんとメインストリートを進んでいく。酒場などが並ぶ賑やかな通りを進むと開けた場所に出た。街灯などがありここも夜だというのにそこそこ明るい。
「あー恥ずかしかった……。もう止めてよねあーいうことは」
「いや、すまん。だけど俺にとっては生きるか死ぬかだったからな形振り構ってられなかったんだ」
「別に怒ってないから良いわよもう。貰った料金分だと思うわ。それより、ほら、あそこが冒険者ギルドよ」
まだ顔が赤いアリーセが指を指す方を見ると、4階建ての他の建物と比べると少し大きい建物だった。大きく取られた戸口には、剣と酒坏のマークの看板が掲げられている。窓からは明かりが漏れ、酒場等が併設されているのだろう、中からは笑い声など楽しそうに騒ぐ声が聞こえる。
おお、なにか得も言われぬ感動を覚えるな。
そのままアリーセはギルドの扉を開け中に入る。
中に入ると併設された酒場で飲み食いしていた冒険者達の喧騒がピタリと止まり中にいたそこそこの人数の冒険者が一斉にこちらを向いた。
「え? 何?」
普段こういう事は無いのだろう、アリーセは戸惑った様子だ。
アリーセはそのままギルドに入った。
つまり、俺を引きずったままギルドに入ってしまったわけである。
「アリーセが男引きずってきたぞ?」
「独り身拗らせて拐って来たんじゃねーの?」
「痴漢を捕まえたとか?」
「それだったら衛兵の方に行くだろ?」
再びザワザワとしだすと、聞こえて来た声から、なぜ自分が注目されているのか理解したアリーセは、ギギギと首を真後ろに回して俺の方に向いた。
なんかこんな風に首が回る漫画あったような気がするな、あっちはアンドロイドで180度どころかクルクル回ってたが……。
「いやーアリーセさん、そろそろ放してもらえると嬉しいかなー、うん」
「あ、ご、ごめん……」
アリーセは、またもや顔が真っ赤になってしまった。
「スミマセンご歓談中にお騒がせしました。突発依頼の手続きに来ただけですのでお構いなく」
立ち上がって、ビジネスマナー講習で習ったパーフェクトなお辞儀を披露して、アリーセのフォローをする。
こちらに注目していた冒険者達は、突発依頼の手続きと聞いて、次第に興味を失ってそれぞれの話題に戻って行く。
「なんだ、とうとうアリーセに春が来たのかと思ったぜ」
「それだったら引きずって来ないでしょ?」
「突発依頼の報酬で揉めたんじゃねーの?」
あれ?話題変わってないな。冒険者達はアリーセの話題を酒の肴に金属製らしいジョッキを呷っていた。
「さ、さあ、あっちのカウンターの方で手続きしてイオリの話をしちゃおう」
俺の手を引っ張って、さかさかと逃げるようにカウンターの方へ向かうアリーセだったが、俺と手を繋いでしまったせいで、場内のざわめきが大きくなった気がする。
まあ、アリーセはベテラン冒険者みたいだし、顔馴染みも多いんだろう。多分後で知り合いに弄られるパターンじゃないかなぁ……。
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