アメイジングノービス ~異世界でチートツールが使えたけど物理法則さんが邪魔をする~

逢須 かた丸

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幕間

アリーセの回顧録1

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アメイジングノービス_幕間_00

 Dランクの冒険者である私は基本的にソロで活動している。
 いつも決まったパーティで依頼をこなす冒険者も居るが、必要に応じて臨時にパーティを組むというソロで活動している冒険者は結構多い。

 今日は街から少し離れた場所にある森に来ていた。
 この森に名前は無いが王国の端っこの方にあるので、『端の森』とか呼ばれている。
 そんなに強いモンスターも生息していないし、国の端っこといっても森を抜けると険しい山がありその先は海へと出てしまうため、国境沿いの小競り合い等ということにも無縁だ。

 ここへ来たのは、凄く良い弓を見つけて衝動的に買ったせいでお金が無くなってしまったからだ。
 冒険者ギルドの方でもっと割の良い依頼があれば良かったけれど、運悪く何も無かったので常設になっているモンスターの間引きや薬草の採取をして凌ぐことにしたのだ。

 適当に薬草を採取して、手頃なモンスターを探そうとしていたら、何か叩きつけた様な音とともに森に住む鳥が一斉に飛び立った。
 なんだろうと思って慎重に音のした方へ向かうと誰かがアルマベアーに襲われているのを見つけてしまった。
 こんなところに居るのは冒険者か、街道にほど近いからと人目に着かないように移動している連中くらいだけど、放っておくのも寝覚めが悪い。
 それにアルマベアーなら、弓の試しにも素材的にもちょうどいい。
 私は、身体強化の魔法を掛け硬めにセッティングされている弓を限界まで引き絞り、アルマベアーの急所である頭の中心を狙い、奮発して買った貫通力強化のエンチャントがされた矢を放つ。


「そこの君、大丈夫だった?怪我はない?」


 それが、イオリとの出会いだった。
 そこまで強いモンスターが出ないと言っても、それは冒険者や衛兵といった戦闘に慣れた者の基準であって、気軽に来るようなところではない。
 それなのに丸腰で何をしていたのかと疑問に思っていいたら、どうやら転移事故にあったようだった。

 全財産であろう物凄い大金をぽんと渡してきたり、計算は出来るのにお金の単位もわからないとか、どこのアホなお貴族様かと思ったら、よほど運が悪かったのか転移で出た先で頭をぶつけたようで、ちょっとおかしくなっているようだった。

 突発依頼ということで、街までの護衛を引き受けた私は、流石に丸腰はまずいだろうと、予備に使っているサーベルを貸した。
 ジョブはノービスだと言うし、一応剣の構え方を見た感じでは、そこそこ使えるような印象を受けたから、特価品の安物だけど無いよりは大分マシだろう。

 森から抜けるあたりで、ゴブリンの襲撃にあった。
 ゴブリンは放っておくと、いずれ手に負えなくなるほどに増えてしまい、大きな街なども襲うようになる。
 その為、間引きとして常設依頼があるし、大規模討伐などが行われることもある。
 ちいさなナイフが1つあれば子供でも大人を殺すことが出来るように、ゴブリンは多少なりとも知恵をもっていて、武器を使うので決して油断は出来ない。
 2体ほど普通のゴブリンにしては足が早く、護衛対象であるイオリの方へ攻撃を許してしまった。
 イオリに襲いかかった2匹のゴブリンは、ただのゴブリンでは無かったからだ。
 それはゴブリンチーフと呼ばれる普通のゴブリンよりも数倍は強い個体で、別名を『新人殺し』という程に戦闘力が高く厄介なゴブリンだった。
 それを護衛対象の元まで行かせてしまったのは、はっきり言って私の失態ではあったが、イオリはこのゴブリンチーフを安物の剣で一刀両断してしまった。
 一撃で首を飛ばすとか、急所を一突きというレベルでは無かった。ギルドに所属している冒険者の内いったい何人がそんなことが出来るだろうか?
 その後、剣を取り落としてしまって逃げ回っていたが、途中で見せた蹴りは当たりこそしなかったが見事な蹴りだった。
 ノービスだというが、きっとそこそこランクの高い冒険者だったのだと思う。

「ゴブリンチーフを一撃なんて、やるじゃない」

「その後、無様に転がってたけどな……」

 うまく戦えなかったからか、すこし落ち込んでいるようにも見えた。

「戦い方も忘れちゃってるだけでしょ」

 戦闘は経験が物をいう。その辺をすっかり忘れてしまったなら、まともに戦えないことは当然だと私は思う。でも、しっかり訓練をした冒険者でもやられてしまうことがあるゴブリンチーフの攻撃を全部躱していただけでも大したものだから落ち込む必要は無いと思うけど。

 街に帰る途中の川で、イオリがゴブリンチーフの返り血を洗い流したら、イオリが水はアイテムボックスに入らないのか? と聞いてきた。
 忘れちゃってるのだからしかたがないけど残念ながらアイテムボックスに普通の水を入れる事は出来ない。
 錬金術師達が作った、味も素っ気もない怪しげな水であれば入れることは可能だけれど、結構値が張る上に、うっかり外に置いておくとアイテムボックスに入らなくなったりするから本当に扱いづらい。
 だから、それが出来たらどんなに素晴らしいだろうとは思う……。

 イオリにそのことを説明すると、なにか妙に納得したような顔でガボガボと川の水をアイテムボックスに入れてしまった。
 錬金術のスキルか何かだと思ったら、ただのアイテムボックスだという、あれには本当に驚いた。
 コツや理屈を教えてもらったけど、頭の悪い私にはさっぱりわからなかった。
 でも、出来ることが分かっているのなら練習あるのみだ。

「あの、アリーセさん。そろそろ……」

 あともうちょっとで出来そうだったところで、イオリに声を掛けられた。
 あたりはすっかり暗くなっていて、思った以上に時間が経ってしまっていた。
 すこしバツが悪かったけど、イオリは私がベテラン冒険者だから心配していないというようなことを言ってくれたので、ちょっと照れる。
 しかも秘密にするれば、また水をアイテムボックスに入れるコツを教えてくれるし、出来るようになるまでアイテムボックスに入る水をくれるという。
 これは、是非今後もご贔屓にしてもらわないと。

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明日もこの続きです
週明けより新章となります
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