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2章 冒険者としての生活

スタンピード 前編

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 領主の館を後にし、他にやれる事はないかと奔走しているうちに、3日が経った。

 まだ夜も明け切らない早朝に、多くの冒険者や領地を守る兵士が街の外に集まっていた。
 もちろん演習ではない。 
 とうとう森から溢れ出した大量のモンスターが確認されたのである。

「良いか命知らずども! 1匹たりとも街に近づけるんじゃねーぞ!」

「「「おおっ!!」」」

 各所で鼓舞の声が上がってる。
 部隊は兵士は兵士、冒険者は冒険者で大雑把に分けられているが、兵士と冒険者では根本的に戦い方が異なるので、この方がお互いに良いのであろう。

 大まかな作戦は事前に通達が来ている。
 街には城壁も結界もあるが、城壁の外にも街が広がっているため、それはあくまでも最終防衛ラインだ。 
 モンスターは森からやってくるので想定されるルートに土塁や罠を仕掛け、罠を越えてきたモンスターに対して土塁の上から魔法と矢による波状攻撃を加る。
 さらにそこを抜けて来たモンスターを、肉弾戦で殲滅するという、非常に単純な作戦だ。
 タイミングを合わせて一斉に攻撃する方が効率は良いだろうが、冒険者達は兵士とは違い集団戦闘の訓練を行っているわけでは無い。
 モンスターは作戦等もなく闇雲に突っ込んで来るということから、攻撃のタイミングは各自の判断に任されている。

 俺とアリーセは土塁の中央付近で弓や魔法での攻撃を担当する部隊に居る。
 俺の持つ銃に奇異の目が向けられているが気にしない。

 土塁の上から、トラップ地帯を見下ろしていると、立派な白馬に跨った、装飾がされた全身甲冑の騎士が、街の方から部隊の中央を抜けて俺達の方へやって来た。
 やって来た騎士は面を上げ顔を見せる。

「おお、アリーセにイオリでは無いか、ここに居たのか」

 ジークフリード様だった。
 って、この人領主なのに単騎で前線に来ちゃってるよ。
 まさか、戦いに参加する気じゃないだろうな!?

「ジークフリード様!? ここは危険です、お下がりください!」

 存在に気がついた他の冒険者達がにわかに騒ぎ始める。

「君達のような優秀な冒険者達の居るこの場所よりも安全な場所は他に無いだろう? 皆が体を張って我が街を護ろうとしている時に、私が後方でふんぞり返っていては示しがつかぬ。 なに少し様子を見に来ただけだ、邪魔にならぬようすぐに戻るから安心してくれ」

 そういうと、土塁の上で待機している冒険者や兵士達に声を掛けて周っていった。

「アリーセ、イオリ、2人には期待している。 ドラゴンを屠ったその手腕を発揮し、街を護ってくれ」

 ジークフリード様は、一通りほぼ全員に声をかけ、最後に俺とアリーセにも声をかけて戻っていった。
 普通、来るにしたって先触れみたいな人が来てから、ゾロゾロ護衛を引き連れて来るもんじゃないのか?
 領主が単騎で前線に来るとか、どうなんだろう。
 ただ、流石に街で1番偉い人がわざわざ声をかけに来たと言う事で、士気はかなり上がったようだ。

 足の早い狼のようなモンスターが散発的に襲ってきては居るが、大きな混乱もなく対処されている。
 既に街を覆う結界は展開されており、うっすらとドーム状に光を放っている。
 
「来たぞおおおおおおおお!!」

 散発的に来るモンスターが徐々に増え始めた頃、どこからか声が上がった。
 地平の向こうから黒っぽい塊が現れたのが見えた。
 まだまだ大分遠いが、そんな距離からも解るぐらいたくさんのモンスターが居るということである。
 圧倒的な物量を前に流石に緊張してきた。

 まるで1つの絨毯であるかのようにひしめき合ったモンスターの塊は、やがてトラップエリアへと到達する。
 その瞬間、次々と爆発が起こり先頭のモンスターが吹き飛んでいく。

「な、なんだありゃ!?」

「見ろ! モンスターが次々に吹き飛んでいくぞ!?」

「ああ、なんでも錬金術で作った『地雷』とかいう新しい罠らしいぞ」

 もちろん、罠を提供したのは俺である。
 『地雷』といってはいるがれっきとした魔道具だ。 魔導銃の発射機構部分だけを取り出し、引き金の代わりに小さな踏み板を付けただけの非常にシンプルな作りになっている。
 放置すると危険なので後で回収する可能性を考えてあまり沢山は撒かなかったが、その心配は必要なかったかもしれない。

 モンスターはそんな爆発に怯むこと無く突き進んでくる。
 相当数のモンスターが吹き飛んだが、物量に押され次第に突破され始めたとき、俺とアリーセはそれぞれの武器を構えた。

「おい落ち着け、いくらなんでもまだ相当遠いぞ」

 一緒に居た冒険者が俺たちに注意をしてくるが、アリーセは返事の代わりに矢を放ってそれに応えた。
 アリーセが放った矢は、モンスターの絨毯に吸い込まれ、地雷の比ではない爆発を引き起こした。

「今日はね、採算度外視なのよ!」

 アリーセは、開いた口が塞がっていない冒険者に向かって、ニヤリと笑顔でそう答えた。
 それを合図に俺も魔導銃となった『FM‐MININI‐MK3』を伏せた状態で構え、チャージングハンドルを引き初弾を装填する。
 もともと精密射撃をする銃ではなく、弾幕を張って圧倒的火力で押さえつける分隊支援火器だ。
 狙いもそこそこに引き金を引くと、豪快な音とともに凶悪な魔石弾が次々を発射され着弾と同時にモンスターが派手に吹き飛んでいく。

「な、なんだありゃ!?」

「見ろ! モンスターが次々に吹き飛んでいくぞ!?」

「ああ、なんでも錬金術で作った『魔導銃』とかいう新しい武器らしいぞ」

 俺とアリーセの攻撃を見て、周りの冒険者たちがザワザワと煩いが、今は無視させてもらう。
 ってか、さっきも同じようなこと言ってなかったか?

 弾丸は周りの被害を考慮して風の属性弾を採用していて、俺の中のイメージでは空気砲であるのだが、圧縮された空気の圧力が半端ではなかった。 マップ兵器か! というぐらい銃口を向けた先に次々と爆発が起こるので、ちょっとやってる自分自身が引いてしまう程だ。
 トロールが跡形も無くなってしまう威力の攻撃が連続で襲ってくるのだ、モンスターからすれば悪夢のような攻撃だろう。


「イオリ! 矢を!!」

「アイマム!」

アイテムボックスから、チートツールで増やした矢の束を次々と取り出しアリーセの足元に積み上げてやる。

「こんなに出したら邪魔じゃない!」

「でも、すぐ使い切るだろ?」

「まあね!」

 軽口を叩きながら、モンスターを殲滅していく。
 魔法や飛び道具を使うモンスターも居るようで、反撃してくる様子が見えるが、こちらの射程の半分も届かないようで、一方的な蹂躙が続く。
 
「弾倉交換! アリーセフォロー頼む!」

「任せて!」

 チートツールで弾を無限に供給出来ないかと画策をしていたが、弾が給弾されるタイミングにどうしてもタイムラグがあり動作不良が起こってしまったため、無限に撃ち続ける事は流石に出来なかった。
 耐久は減らないように出来たので、撃ち続けても問題が無いのに非常に残念だ。

「あんたらがすげーのはわかったから、後ろの方のまだまだモンスター共がたくさん居る所をやってくれ! 抜けてきた奴らは俺らがやる!」

「わかった、よろしく頼む!!」

「任せとけ!」

 あまり強力なモンスターが居ないとは言え数が多すぎることと、矢の補給や弾倉の交換の必用ある為、どうしても撃ち漏らしが出てきてしまうが、戦っているのは俺たち二人だけではない。
 一応、意識的に強そうなモンスターや魔法や飛び道具が飛んでくるあたりを重点的に攻撃していく。

 抜けてきたモンスターの種類が判別可能なくらいの距離まで近づいて来たあたりで、他の冒険者や兵士達の弓や魔法による攻撃も始まった。

「よーし、後ろの奴らに出番やるなよ!」

「おうよ! 俺らだけで蹴りを付けてやるぜ!」

「俺、この戦いが終わったら告白するんだ」

「この戦いの報酬で店を開くんだ……」

 誰だ!? 死亡フラグ立ててるやつは!?
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