アメイジングノービス ~異世界でチートツールが使えたけど物理法則さんが邪魔をする~

逢須 かた丸

文字の大きさ
123 / 250
3章 ダンジョンアタック

ボス戦が盛り上がらない

しおりを挟む
 人が来るまでの間、ダンジョンの再生を阻害する結界石による陣を見張るために残った俺とアリーセとワトスンの三人で、陣の内側で野営の準備をしていた。
 再生阻害と言っても、大穴すべての再生を阻害するわけではなく、陣とその周囲が少し程度の幅をカバーするだけだ。
 しかも陣とはいっているが、単純に結界石で囲んでいるだけで何か魔法的な儀式やら何やらをしているわけではない。
 そして、穴の外になる上から陣向かって結界石で作った縄の注連縄しめなわ君1号が吊るしてあるだけという作りだ。
 ヴァルターさんが配置したおかげで、定規で引いた線のように、やけにピシっと張ってある。
 ダンジョンの再生が想像よりも早く、穴があっという間に塞がってしまった場合、再生を阻害しているこの陣の周りが細い竪坑として残り、脱出に使うという想定である。
 なので、自重で千切れたり、ある程度再生が進んでモンスターが湧いて千切って壊さないように見張っておくというわけだ。
 効果が切れないように魔力の補充をするという役目もある。
 シークさん、つまり領主様的にはここに永続的に穴を残して、深層階に直接入れるようにしたいのだと思う。
 未踏のダンジョンで深層階までダイレクトに行けるとなれば、一攫千金を考える冒険者が殺到する事だろう。

「じゃあ、魔力の補充しとくな」

 燃費最悪の注連縄しめなわ魔力、要はMPだが、減らなくしている俺が補充をする。

「あれ? あんまり減って無いな」

 応急処置というか実験というか、端に瓶を取り付けただけの魔力供給システムは、思ったよりも沢山の魔力を生み出しているようだ。
 その事を話すとワトスンも興味津々に観察をしている。


 日が落ちあたりが暗くなり、まだ寝るには少し早いくらいの時間帯になって、それは起こった。

 地面が揺れたと思ったら、陣や注連縄しめなわからきしむような音がして、映像が逆再生するかのようにダンジョンが物凄い勢で再生しだし、脱出する間もなく俺達を取り囲む広いドー厶状のフロアが出来上がった。

「イオリ、周囲を警戒して! ワトスン、陣の周囲や上の方がどうなってるか調べて!」

「アイマム!」

「おまかせあれー」

 程なくしてドームの内装でなんとなく偉そうなレリーフとかまで完成すると、俺でもわかるくらいのモンスターの気配がするようになった。
 完全油断していたが、ダンジョンマスターなんてモノが居るなら、これら放置しておく理由は無いというものだ。
 邪魔な俺達や注連縄しめなわを排除すべく動き出したのであろう。

「縄の周りだけ天井に穴が空いてるから、そこから脱出出来そうだよー!」

 ワトスンが叫ぶようにそう言った。
 普通の結界石ならともかく、最高品質に魔改造して、なおかつ隙間なく敷き詰めているという強力過ぎる結界を阻む事は出来なかったようだ。
 わざわざ、ダンジョンマスターの思惑通りに、ここで死闘を演じてやる理由は無いので、急いでジェットパックを背負い天井の穴へとさっさと向かう。
 ドームの天井までは結構な高さがあり下から見上げた時は小さな穴に見えたが、注連縄しめなわを中心に直径20mくらいの思ったよりも大きな穴が空いていた。
 穴の境界あたりから大きな力が加えられているのか、重量物が軋むような嫌な音が聞こえている。
 普通の結界石だったら押しつぶされて穴が塞がっていたかもしれないな。
 俺らがドームから脱出すると同時に、ドームの中心あたりから、滲み出すように巨大な生物が姿を表した。
 脱出が余裕で間にあったのは、ダンジョンマスターからしたら想定外だろうな。
 穴からドームの中を覗き込んで、出現した巨大なモンスターを観察する。

「よしツイてる、スタンピードの時に見たベヒーモスだ!」

「なにがツイてるのよ!?」

 思わず口に出てしまって、変態を見るかのような目で見られてしまったが、同系統のモンスターであれば、チートコードの大半が共通なため、コード打ち込みを大幅に短縮する事が可能なのだ。
 すかさずチートツールと解析ツールを起動し、スタンピードの時に取っておいたベヒーモスのコードを比較すると、最後の1行の末尾2桁違うだけで後は同じだということが判明して、思わずガッツポーズをとる。

「脱出しちゃってるし、このまま逃げるー?」

「いや、あれを放置しとくわけにもいかないから、倒しておこう」

「ああ、アレをやる気なのね……」

「アレってー? 爆破するってことかなー?」

 事情を知らないワトスンが首をかしげている。

「後で説明するから、これから見たことは内緒にしてくれると嬉しいかな」

「その浮いてるバッテンや四角のこと? 秘密は魔導銃とかで今更だよー信用してー」

「あー、あの危ないの作ったのあなただったのね……」

 穴は大きいがベヒーモスが通れる程ではないし、ベヒーモスも俺たちがドーム内に居ないせいか何もせずにボーっと立っているので、割りと気分的には余裕だ。
 新規のモンスターでも余裕でコードが打てただろう。
 ……って、二本足で立ってるなアレ。 スタンピードの時のベヒーモスは4つ足で走ってきてたはずだが、種類が違うのだろうか?
 イヤでもコード同じだしなんだろう?

「まあいいか、はじめましてこんにちは、そしてサヨウナラっと」

 なんの盛り上がりも、戦闘も、物音すら無くドーム内で佇むベーヒーモスのHPを0にした。
 HPの分母を0にしたので、HP自動回復があろうが復活するようなスキルがあろうが、第二形態があろうがHPが0なので生きている事は出来ない。
 ダンジョンマスターが必殺の構えで投入してきたと思われるこのベヒーモスは、出現から1分と経たず、何もすること無く静かに息を引き取った。
 ダンジョンマスターがどんな顔をしてこの状況を見ているかはわからないが、とりあえず言っておくか。

「逃さないようにドームで囲おうとしたのにあっさり脱出されて、必殺のつもりで出しただろうベヒーモスが何もせずに倒されて、ねえ今どんな気持ち!?」

 トントンとリズミカルにステップを踏みながら何もない空間に向かって決めてみた。

「いきなり何よ、そんなの知るわけないじゃない、イーリスに頭診てもらった方が良いんじゃない?」

「何が起こったのか僕にはよくわからないけど、何かの代償でイッちゃったのかなー?」

「酷い言われようだな!? どっかで見てるであろうダンジョンマスターをちょっと煽ってみただけじゃないか……」

 一度やってみたかったんだ。 今は反省している。

「じゃあ、とりあえずこのドームも邪魔だし爆破しとこうか」

 何か一瞬ダンジョンが揺れたような気がするが、多分気のせいだろう。

「結局爆破するんじゃない……」

 アリーセが心底呆れた様な顔をしている。

「じゃー、給湯器使うー?」

「良いのか?」

「良いよー、その代わり効率よく爆発させる方法を教えてよー」

「良いだろう、まず基本として外殻を硬くして内圧が高くすることで同じ炸薬の量でも爆発力を変えることが出来るんだ。 それこそテープを一巻きするだけでも違ってくる」

「ふんふん」

「それから、こういうドーム状の建物内は爆発物を扱う上では重要だ。 爆発の衝撃波が内側に跳ね返るから、俺らが脱出した穴から爆弾でも放り込んでやれば、真ん中にいたベヒーモスに非常に効率良くダメージを与えられた事だろう。 さらにドーム状と言う事は平らな地面に圧力が集中することになるから、さらに10フロアくらい下にぶち抜いかもしれないな」

 ん、またダンジョンが震えるように揺れたような?
しおりを挟む
感想 139

あなたにおすすめの小説

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...