上 下
167 / 250
4章 王都

自然派

しおりを挟む
「何か問題があるのか?」

 腕を組んで仁王立ちをしているすっぽんぽんの美人さんが、ずずいと迫ってくる。

「ありがとうございます! じゃなくて、何か着てくださいよ、裸で外をウロウロしている人なんて居ませんよ!!」

 非常に眼福ではあるが、このまま連れていけば俺が社会的に死んでしまう。

「脆弱な人の子とは違う、我々にはその様な物は不必要だ」

「いやいや、そこで裸族宣言されても困ります! それにリーラ様だって産まれたままの姿じゃなくて、ちゃんと服を着ているじゃないですか!?」

 ずびしと、この裸族宣言をしているドラゴン娘に指摘をする。

「私のこれは産まれた時からありますので身体の一部といって良いでしょう、ですから実質裸と一緒ですよ?」

「すみません、話がややこしくなるので、今の話は無かったことにしていただけませんか!!」

 神の着ている服って、体毛的な何かなのか!?
 実は脱げないとかなのか!?

「そもそも布っきれを身につけるのは、神の見姿を真似たことと、身体的に弱いからであろう? で、あれば、我は神ではなく人の真似をしているのだから、これで問題あるまい?」

「何故そこで思考停止してるんですかね!? 人の真似をするなら、それこそ服を着ていない方がおかしいでしょう!?」

「別に寒くはないし、人の姿になったからと言って弱体化したわけではない。 身を守る物など必要ないのに、なぜわざわざ窮屈な思いをしなければならないのだ? それに、この世界の大多数の生き物は服など来ておらぬだろうが。 意味がわからん」

「いや、そこはわかろう? ドラゴンの姿のままで来たら混乱を招くってところまで理解できてるなら、自然から離れて、もうあとちょっとだけ考えよう!?」

 なんだろう、ペットに服を着せようとしてるような気分になってくる。
 まぁ実家にいる犬は毛が短く寒がりだったので、冬になると自分から服を持ってきて着せろってせがんでいたが……。

「まったく、この世界とは異なる世界から来たとはいえ、創生より神と共にある我に対して不遜なやつだな」

 不遜なのはあなたの今の状態です。

「というか、リーラ様からも服を着るように言ってくださいよ!」

「?」

「なんで不思議そうな顔してるんですか!? 安定とか司ってるのに、そこで急にポンコツにならないでくださいよ!?」

 駄女神じゃなくて良かったなーって内心すごく安心していたのに、そこだけ感覚おかしいだろ!?

「いえ、嫌がっていることを無理にさせる必要は無いかと思いまして」

「俺が嫌がってるのは無視なんすかね!?」

 リーラ様がペットに服を着せるのはかわいそう派なのはわかりましたが、残念ながらそこのドラゴンは人の姿なんですよ!
 リーラ様が頼りにならないので、ドラゴン襲来ほどでは無いにしろ、女性が街中を全裸で闊歩することによる混乱を、手を変え品を変え説明していく。
 インフルエンザウイルスのごく短期間で変異してしまう例まで用いて、ドラゴン的には僅かな時間でも、こっちにとっては一生の時間なんだから、そこは今の社会の常識に合わせて欲しいと話した。
 最後の方は懇願に近くなっていたが……。

「自然ではなく、今の社会に合わせて服を着てくださるのならば、魔晶石をさらにもう1つおつけします」

「なんと、それは素晴らしいですね、パールここはその案に従うべきかと」

「リーラ様がそういうのであれば仕方がない、服を着てやるとしよう。 だが、あくまでも仕方なくだということを忘れるんじゃないぞ?」

 あーもー着てくれるならなんでも良いです。

「では、着てやるから服をよこすのだ」

「え? そこは变化の魔法の応用でなんとかならないんですか?」

「人化の魔法は我が竜言語魔法より派生させて作ったものだ。 必要性を感じない物を追加することはできん」

 偉そうにムンと胸を張るドラゴン娘。 大きくも小さくもないが形の良い2つのお椀が動きに合わせて柔らかく動く。 それに思わず目が行ってしまうのは許して欲しい。
 それはともかく「やっぱり服着るのヤダと」気が変わってしまうかもしれないので、大急ぎでアバター装備の中で無難そうな物を探す。
 しかし、基本的に俺が自分で使う物や、人気があって高く売れるものしかコードが無いのですぐに出せる服は限られている。
 幸い一つだけ登録してあった女性用のアバター装備があったので、それをアイテムボックスから取り出して渡した。

「着方はわかりますか?」

「見れば、おおよその見当はつく」

 しばし、もそもそと服を着る間がつづく。 その光景をじっと見ているのも駄目な気がしたので、リーラ様に話を振って気を紛らわせる。

「えーと、パールさん?をお目付け役にということでしたけど、彼女一生俺に付いてくるんですか?」

「そうですが、四六時中行動を共にしろと言うわけではありませんし、必要な時以外はパールも自由に行動すると思いますので、干渉はそこまでされないはずです」

 全裸で外に出ていこうとしていたのが自由に行動するとか、明るい未来が全く思い描けないんですが!?

「で、出来れば、混乱を避けるために社会常識を身につけるまでは、自由行動を避けて頂きたいのですが……」

「その辺りに関しては、使徒とはいえ隷属しているわけではありませんから、私にもなんとも言えません。 それに異世界の子の常識は流石にわかりかねますので、パールと話し合ってください」

「全裸で外に出ないってのは、異世界とか関係ない気がします!」

「ほんの少し前まで、この世界の子たちは服を着ていませんでしたから仕方がありません」

「そのほんの少しって、千年とか万年って単位じゃないですかね!?」

 創生から居る神や生き物の時間感覚で語られても困る。
 この世界の成り立ちが元の世界と一緒かどうか知らないが、いきなり成熟した文明がぽんとは出てこないだろうから、たぶん原始時代があって、その時のことを言っているのだろう。
 神殿とか建ってるんだし、もう少しは理解があっても良い気がするんだがな……。

「そうは言いますが、現在でも裸で生活している子も居ますし、温かい地域に住む子達は皆裸に近い格好をしています。 神に捧げる儀式等を裸で行う場合も多くありますので、裸がおかしいという感覚が私にはないのです」

 西日本の猿と東日本の猿で生態が違うって言われても専門家じゃなきゃ差がわからないって言うのと同じで区別がつかないってことだろうか?
 まあ、リーラ様もすべての事を知っているとは言っていないし、仕方がない……のか?



「着たは良いが、やはり窮屈ではあるな」

 リーラ様と話をしていると、服をなんとか着終えたドラゴン娘がこちらにやってきた。
 その姿は、シックなパフスリーブのロングなワンピースにフリルのついた白いエプロン。 白いソックスとストラップシューズ。 そしてヘッドドレスだ。

 そう、ゲーム時代でも人気が高かったSレアアバター装備『ブリリアントメイドセット』である。
 
しおりを挟む

処理中です...