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「……へ?」
「この間、家まで送ったお礼と思ってデートしてくれればいいよ。それじゃあ今週の週末は何か予定ある?」
「えっと、予定は特には……」
「ない? それじゃあランチを一緒に食べて、買い物をしよう。デートだから、明後日の正午に中央広場の時計台の下で待ち合わせで」
「え?」
「明後日の正午に、中央広場の時計台の下で」
「は、はぃ……」
テオンは寂れた棟の外まで案内してくれると、呆けているクロエを見下ろした。
「じゃあ、クロエ嬢。二日後を楽しみにしている」
そう言って、テオンは振り返ることなく、その場を後にした。
その日のクロエは全く機能せず。午後の仕事は放心状態、上司や先輩に心配されたこともうろ覚え。
いつの間に買い物を済ませたのか、気づけばバケットを手に自宅に着いていた。
クロエはダイニングのテーブルに座ったまま呆然とする。ふと目の前を見れば、テーブルの上にはバケットとバケットとバケット。
「あ、あれ!? なんでバケットばっかり買ったの、私。しかもお昼の残りのパンも……はあ、動揺しすぎてる」
テーブルに突っ伏しながら、クロエは考えた。
(『青き夜想曲の貴公子』にデートに誘われるってどういうこと? 動揺してバケット三本買って帰ったって仕方がないよ……それにしても、テオン様は地味で垢抜けない私をなんでデートに誘ったんだろう)
ヴェルシャンテール王国で最も美しい男、テオン。デートのお相手などいくらでもいるはずだ。クロエに声を掛ける必要なんて全くない。
(そういえば、一度目は偶然、二度目は奇跡、三度目は運命なんて言っていたな。……はっ! そうか! テオン様は女性と一度しかお会いしないことも多いから、買い物へ一緒に行くような女友達がいないんだ……! 私は文官枠に入っているから、誘いやすかったってことか。でも……)
ガタッと椅子から立ち上がると、クロエはふらふらと寝室へ向かった。
シングルベッドとチェスト、ドレッサーがあるだけの小さな部屋。
一時期ハマっていたパッチワークを繋いだベッドカバーは渾身の力作でクロエのお気に入りだ。今すぐベッドにダイブしたい気分だったが、クロエはその横にあるドレッサーに向かう。
上半身が映る大きな鏡の前に座って、自分の顔を眺めてみた。
幼い印象を与える丸い輪郭に、鼻筋がまったく通っていない小さな鼻。ジョスティーヌ譲りの金色がかったアンバーの瞳は、色は美しいけど、形が全然違う。
長い睫毛に縁取られたくっきりぱっちりしたジョスティーヌの瞳とは異なり、クロエの瞳はやや小さめで、何なら少し垂れている。
世間一般的に垂れ目はかわいいイメージだというのに、これがクロエだとなぜか気弱な印象になってしまうのだから、世知辛い。
その下にある唇は、ちょこんとしていて色気もへったくれもなく。いつも困ったようにきゅっと結ばれていて、ぽってりとした色っぽい唇とは正反対だ。
つまり、美人といわれる要素が一つもない。
(……文官枠だとしても、私があのテオン様と人目がある場所でランチを食べて、街中を一緒に歩くの?)
クロエは絶望した。
「……こ、これは、新手の拷問なのかしら?」
それに、何を着ていくかだって問題だ。
はっとしたクロエはクローゼットの扉を開け、急いで手持ちの服を確認する。
出勤する時に着ている普段着のワンピースは3枚を着回しているが、黒、紺、紺。レースもリボンも付いていなければ、よく見ると形もよく似ている。なぜ、こんなに似ている服ばかり買ったのだろう。
何なら、女官の制服にもよく似ているし、とにかく楽に着られて動きやすさ重視で作られているワンピースは、実用的過ぎてデート向きではない。
あとは休日に買い物に行く用と、友達とちょっと遊びに行く時用のワンピースがあるけれど、こちらは逆にどちらも子供っぽい。大きめのリボンがついた薄ピンク色のワンピースは、自他ともにかわいいと認める女性なら許されても、地味で垢抜けないクロエが着たところで浮きまくりだ。
(なんてこと……! 気にしたことなんてなかったけど、いざこうして見ると私ってひどいセンス)
仲の良い女友達なら許されても、十代前半の少女が好むようなワンピースを着て、テオンの横に並ぶ勇気はない。彼の隣に野暮ったい姿で並んでいる自分を想像しただけで、クロエは身震いをした。
「つまり、テオン様と出掛ける日までに買い物をしなくちゃいけないってことなのか……」
テオンとの約束は二日後だ。ということは、明日の仕事の帰り道に購入するしかない。
(ど、どうしよう……先輩に買い物について来てくださいって頼む? ……ううん、ダメよ、ダメ! 『何用の服を買うの?』『はい、テオン様とのデート用です』なんて言える? 瞬く間に噂が広まって注目の的になっちゃうわ)
人目を避けたくて備品管理課に配属してもらったというのに。
(……大丈夫、買い物くらい一人でできるわ。目指すは“テオン様に恥をかかせないレベル”よ)
「この間、家まで送ったお礼と思ってデートしてくれればいいよ。それじゃあ今週の週末は何か予定ある?」
「えっと、予定は特には……」
「ない? それじゃあランチを一緒に食べて、買い物をしよう。デートだから、明後日の正午に中央広場の時計台の下で待ち合わせで」
「え?」
「明後日の正午に、中央広場の時計台の下で」
「は、はぃ……」
テオンは寂れた棟の外まで案内してくれると、呆けているクロエを見下ろした。
「じゃあ、クロエ嬢。二日後を楽しみにしている」
そう言って、テオンは振り返ることなく、その場を後にした。
その日のクロエは全く機能せず。午後の仕事は放心状態、上司や先輩に心配されたこともうろ覚え。
いつの間に買い物を済ませたのか、気づけばバケットを手に自宅に着いていた。
クロエはダイニングのテーブルに座ったまま呆然とする。ふと目の前を見れば、テーブルの上にはバケットとバケットとバケット。
「あ、あれ!? なんでバケットばっかり買ったの、私。しかもお昼の残りのパンも……はあ、動揺しすぎてる」
テーブルに突っ伏しながら、クロエは考えた。
(『青き夜想曲の貴公子』にデートに誘われるってどういうこと? 動揺してバケット三本買って帰ったって仕方がないよ……それにしても、テオン様は地味で垢抜けない私をなんでデートに誘ったんだろう)
ヴェルシャンテール王国で最も美しい男、テオン。デートのお相手などいくらでもいるはずだ。クロエに声を掛ける必要なんて全くない。
(そういえば、一度目は偶然、二度目は奇跡、三度目は運命なんて言っていたな。……はっ! そうか! テオン様は女性と一度しかお会いしないことも多いから、買い物へ一緒に行くような女友達がいないんだ……! 私は文官枠に入っているから、誘いやすかったってことか。でも……)
ガタッと椅子から立ち上がると、クロエはふらふらと寝室へ向かった。
シングルベッドとチェスト、ドレッサーがあるだけの小さな部屋。
一時期ハマっていたパッチワークを繋いだベッドカバーは渾身の力作でクロエのお気に入りだ。今すぐベッドにダイブしたい気分だったが、クロエはその横にあるドレッサーに向かう。
上半身が映る大きな鏡の前に座って、自分の顔を眺めてみた。
幼い印象を与える丸い輪郭に、鼻筋がまったく通っていない小さな鼻。ジョスティーヌ譲りの金色がかったアンバーの瞳は、色は美しいけど、形が全然違う。
長い睫毛に縁取られたくっきりぱっちりしたジョスティーヌの瞳とは異なり、クロエの瞳はやや小さめで、何なら少し垂れている。
世間一般的に垂れ目はかわいいイメージだというのに、これがクロエだとなぜか気弱な印象になってしまうのだから、世知辛い。
その下にある唇は、ちょこんとしていて色気もへったくれもなく。いつも困ったようにきゅっと結ばれていて、ぽってりとした色っぽい唇とは正反対だ。
つまり、美人といわれる要素が一つもない。
(……文官枠だとしても、私があのテオン様と人目がある場所でランチを食べて、街中を一緒に歩くの?)
クロエは絶望した。
「……こ、これは、新手の拷問なのかしら?」
それに、何を着ていくかだって問題だ。
はっとしたクロエはクローゼットの扉を開け、急いで手持ちの服を確認する。
出勤する時に着ている普段着のワンピースは3枚を着回しているが、黒、紺、紺。レースもリボンも付いていなければ、よく見ると形もよく似ている。なぜ、こんなに似ている服ばかり買ったのだろう。
何なら、女官の制服にもよく似ているし、とにかく楽に着られて動きやすさ重視で作られているワンピースは、実用的過ぎてデート向きではない。
あとは休日に買い物に行く用と、友達とちょっと遊びに行く時用のワンピースがあるけれど、こちらは逆にどちらも子供っぽい。大きめのリボンがついた薄ピンク色のワンピースは、自他ともにかわいいと認める女性なら許されても、地味で垢抜けないクロエが着たところで浮きまくりだ。
(なんてこと……! 気にしたことなんてなかったけど、いざこうして見ると私ってひどいセンス)
仲の良い女友達なら許されても、十代前半の少女が好むようなワンピースを着て、テオンの横に並ぶ勇気はない。彼の隣に野暮ったい姿で並んでいる自分を想像しただけで、クロエは身震いをした。
「つまり、テオン様と出掛ける日までに買い物をしなくちゃいけないってことなのか……」
テオンとの約束は二日後だ。ということは、明日の仕事の帰り道に購入するしかない。
(ど、どうしよう……先輩に買い物について来てくださいって頼む? ……ううん、ダメよ、ダメ! 『何用の服を買うの?』『はい、テオン様とのデート用です』なんて言える? 瞬く間に噂が広まって注目の的になっちゃうわ)
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