14 / 50
14.
──それから二日後
よく晴れた青空の下、中央広場には出店が立ち並び、親子連れやカップル、友達との街歩きで多くの人が詰めかけていた。ジュースやキャンディを売るお店からエール、串焼きを売るお店まで、ここで食べ歩きをするのも楽しそう、と思いながら、クロエは待ち合わせ場所を目指す。
約束の正午より少し前、クロエはテオンを待たせるわけにはいかないと思い、早めに到着していた。
(食事をするって言っていたから、こんな感じのワンピースなら大丈夫だよね……?)
大人っぽさをイメージして昨日購入したパープルのワンピースに、通勤で使っているのとは別の小さななめし革のバッグを斜め掛けし、少しだけかかとのあるこげ茶色の編み上げ靴を履いてきた。
おさげ髪は封印して、髪の毛は下ろしてきた。巻き髪というのをやってみたかったけど、どうやったらいいのかわからない。だから寝る前にきつく三つ編みをして癖付けをしておいた。だから今日は髪の毛がウェーブしているような、いつもと違う雰囲気になっている。
黒ぶち眼鏡はお守りだから外せないけど、これなら制服を着ている時とは違う、大人っぽさが少しは出ているんじゃないだろうか。
だけど、いつもより高い視線の分だけ、自分が背伸びしていることを指摘されているかのような、恥ずかしさもクロエは感じていた。
(緊張する……どもったり早口になったりしないようにしなくちゃ。後は、自分の話ばかりしないで、テオン様の話も聞いて……でも、テオン様って聞き上手だからついつい話しちゃうんだよなぁ)
唇をキュッと結び、目の前を行き交う人たちの足元を見つめる。ツヤツヤに磨かれた綺麗な靴を履いている人は貴族や経済的に裕福な平民だろう。くたびれた感じの靴は商売をしている人だろうか。仕事中にたくさん歩く人は、履き慣れた靴の方が動きやすいことは間違いない。
(私は元裕福な平民の子で、今は普通の平民だな。ふぅ、そろそろテオン様が来る頃かな?)
ああしてこうしてと、今日の注意点やイメージトレーニングをしていた時は気づかなかった声が、顔を上げた途端、急に耳に入ってくるようになった。
『ねえ、見た?あの子。あんな不細工、初めて見たわ』
『ぷっ! あれって何かの罰ゲームなの?』
ヒソヒソとした声や失笑があちこちから聞こえる。
(どの人を指して言っているのかしら。容姿をからかうなんて酷い人達ね。……でも、ちょっと気になるかも)
辺りをそっと見渡したクロエだったが、耳に入ってきた言葉に愕然とした。
『瞳の色は神秘的なアンバーで綺麗なのに、もったいないわね』
「え……」
もう一度注意深く辺りを見渡してみると、周囲の視線が自分に向いていることにクロエは気づいた。
(わ、私のことなの……?)
顔がかっと熱くなり、恥ずかしくて慌てて下を向く。この場から今すぐ逃げ出したくなったけど、震えて足が動かない。
『なにあの子。鏡を見たことがないのかしら。よく外に出られたわね』
『あんなダサい服着られたら恥ずかしくて一緒に歩けないわ』
(あ……そうだった。垢抜けない、地味な田舎娘っていつも言われていたのに、浮かれて忘れてた。不相応な誘いをちゃんと断らなかったから、これはきっと天罰なんだ……)
クロエの胸がどくんと跳ねた。
(そうだ! テオン様が来る前にここから立ち去らないと、恥をかかせちゃう!)
ヴェルシャンテール王国で『青き夜想曲の貴公子』と呼ばれる男が、こんなに恥ずかしい女を連れて歩くなんてあってはならない。言い訳は後づけでいい。
とにかくここから帰りたい。逃げたい。
クロエは震える足を叱咤して一歩を踏み出した。
背中にたくさんの視線が突き刺さる。
走り出したい、早くここからいなくなりたい。
「クロエ嬢」
はっとして見上げた先、困惑した表情のテオンがクロエを見つめていた。
(あ……見られたくなかった……)
「っ……! テ、テオン様、その、わ、私は、……ご、ごめんなさい」
クロエの正面に立ったテオンはふぅっとため息をつくと、シルバーの髪をかき上げた。常に貴族らしいアルカイックスマイルを浮かべているテオンが真顔になっている。
狂気的な美貌が微笑みを消すと、こんなに冷たく怖い表情になるのだとクロエはぞっとして下を向いた。
『え、あのブス、テオン様の今日のお相手?』
『美人しか相手にしないと思っていたのに、女なら誰でもイケるんだな』
耳に届く声に愕然とする。
(ああ、テオン様まで悪く言われてる……)
テオンは無言でクロエの手首を掴むと、そのまま広場を抜けて行った。
人混みを抜ける間もクロエの見た目に対する中傷は続いている。失笑される中、クロエは下を向いてなるべくテオンに迷惑を掛けないようにとしか考えられなかった。
人通りの少ない場所まで来ると、テオンは立ち止まってクロエへ向き直った。
「……クロエ嬢、今日はなんだかいつもと随分雰囲気が違うんだね」
「……ごめんなさい、……ごめんなさい」
よく晴れた青空の下、中央広場には出店が立ち並び、親子連れやカップル、友達との街歩きで多くの人が詰めかけていた。ジュースやキャンディを売るお店からエール、串焼きを売るお店まで、ここで食べ歩きをするのも楽しそう、と思いながら、クロエは待ち合わせ場所を目指す。
約束の正午より少し前、クロエはテオンを待たせるわけにはいかないと思い、早めに到着していた。
(食事をするって言っていたから、こんな感じのワンピースなら大丈夫だよね……?)
大人っぽさをイメージして昨日購入したパープルのワンピースに、通勤で使っているのとは別の小さななめし革のバッグを斜め掛けし、少しだけかかとのあるこげ茶色の編み上げ靴を履いてきた。
おさげ髪は封印して、髪の毛は下ろしてきた。巻き髪というのをやってみたかったけど、どうやったらいいのかわからない。だから寝る前にきつく三つ編みをして癖付けをしておいた。だから今日は髪の毛がウェーブしているような、いつもと違う雰囲気になっている。
黒ぶち眼鏡はお守りだから外せないけど、これなら制服を着ている時とは違う、大人っぽさが少しは出ているんじゃないだろうか。
だけど、いつもより高い視線の分だけ、自分が背伸びしていることを指摘されているかのような、恥ずかしさもクロエは感じていた。
(緊張する……どもったり早口になったりしないようにしなくちゃ。後は、自分の話ばかりしないで、テオン様の話も聞いて……でも、テオン様って聞き上手だからついつい話しちゃうんだよなぁ)
唇をキュッと結び、目の前を行き交う人たちの足元を見つめる。ツヤツヤに磨かれた綺麗な靴を履いている人は貴族や経済的に裕福な平民だろう。くたびれた感じの靴は商売をしている人だろうか。仕事中にたくさん歩く人は、履き慣れた靴の方が動きやすいことは間違いない。
(私は元裕福な平民の子で、今は普通の平民だな。ふぅ、そろそろテオン様が来る頃かな?)
ああしてこうしてと、今日の注意点やイメージトレーニングをしていた時は気づかなかった声が、顔を上げた途端、急に耳に入ってくるようになった。
『ねえ、見た?あの子。あんな不細工、初めて見たわ』
『ぷっ! あれって何かの罰ゲームなの?』
ヒソヒソとした声や失笑があちこちから聞こえる。
(どの人を指して言っているのかしら。容姿をからかうなんて酷い人達ね。……でも、ちょっと気になるかも)
辺りをそっと見渡したクロエだったが、耳に入ってきた言葉に愕然とした。
『瞳の色は神秘的なアンバーで綺麗なのに、もったいないわね』
「え……」
もう一度注意深く辺りを見渡してみると、周囲の視線が自分に向いていることにクロエは気づいた。
(わ、私のことなの……?)
顔がかっと熱くなり、恥ずかしくて慌てて下を向く。この場から今すぐ逃げ出したくなったけど、震えて足が動かない。
『なにあの子。鏡を見たことがないのかしら。よく外に出られたわね』
『あんなダサい服着られたら恥ずかしくて一緒に歩けないわ』
(あ……そうだった。垢抜けない、地味な田舎娘っていつも言われていたのに、浮かれて忘れてた。不相応な誘いをちゃんと断らなかったから、これはきっと天罰なんだ……)
クロエの胸がどくんと跳ねた。
(そうだ! テオン様が来る前にここから立ち去らないと、恥をかかせちゃう!)
ヴェルシャンテール王国で『青き夜想曲の貴公子』と呼ばれる男が、こんなに恥ずかしい女を連れて歩くなんてあってはならない。言い訳は後づけでいい。
とにかくここから帰りたい。逃げたい。
クロエは震える足を叱咤して一歩を踏み出した。
背中にたくさんの視線が突き刺さる。
走り出したい、早くここからいなくなりたい。
「クロエ嬢」
はっとして見上げた先、困惑した表情のテオンがクロエを見つめていた。
(あ……見られたくなかった……)
「っ……! テ、テオン様、その、わ、私は、……ご、ごめんなさい」
クロエの正面に立ったテオンはふぅっとため息をつくと、シルバーの髪をかき上げた。常に貴族らしいアルカイックスマイルを浮かべているテオンが真顔になっている。
狂気的な美貌が微笑みを消すと、こんなに冷たく怖い表情になるのだとクロエはぞっとして下を向いた。
『え、あのブス、テオン様の今日のお相手?』
『美人しか相手にしないと思っていたのに、女なら誰でもイケるんだな』
耳に届く声に愕然とする。
(ああ、テオン様まで悪く言われてる……)
テオンは無言でクロエの手首を掴むと、そのまま広場を抜けて行った。
人混みを抜ける間もクロエの見た目に対する中傷は続いている。失笑される中、クロエは下を向いてなるべくテオンに迷惑を掛けないようにとしか考えられなかった。
人通りの少ない場所まで来ると、テオンは立ち止まってクロエへ向き直った。
「……クロエ嬢、今日はなんだかいつもと随分雰囲気が違うんだね」
「……ごめんなさい、……ごめんなさい」
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。