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翌朝、早朝にも関わらず豪奢な馬車がテオンを迎えにやってきた。
「テオン・フォンセカ。マダムがお呼びです」
「……」
このタイミングで接触があるということは、昨日の今日で、テオンがクロエの家にいたことを知っているということなのだろう。テオンは、マダムがクロエの周囲を監視していたことを実感した。
クロエの純潔は散らしたが、すでにマダムの後ろ盾を得てのし上がりたいという熱意は冷めている。“愛と智慧の館”に行く必要はないのだが、テオンは思ったのだ。
マダムに会ってクロエは無事に処女ではなくなった旨を伝えなくては、五日以内に誰か人を送られてしまう。きちんと報告した方がいいだろう、と。
こうして、テオンは素直に迎えの馬車に乗り、“愛と智慧の館”へ足を踏み入れることになる。これでマダムとの対面は三度目だ。
長ソファに腰掛け足を組むマダムは、早朝とは思えないほど煌めいている。
薔薇色のドレープが美しいドレスから覗くこぼれそうな胸元や白いうなじ。永遠の薔薇にふさわしい、この国一番の美貌を誇るマダムジョスティーヌは、眉間にしわを寄せて不機嫌そうな顔をしていた。
苛立ちを載せた声で、マダムがテオンに尋ねた。
「それで? 約束は果たしたのかしら」
「……はい。無事に、クロエの純潔は私が散らしました」
マダムはぐっと眉間のしわを深くしたが、すぐに小さなため息をつき、テオンを見据えた。
「嘘偽りはないわね?」
「神に誓って」
そう、と一瞬目を閉じたマダムだったが、ようやく笑顔になった。
「……よくやってくれたわ。あなたに感謝します。テオン・フォンセカ。あなたの望みを叶えてあげるわ。どの役職に就きたいの? 口添えに根回し、資金援助。必要な支援は惜しみなく行うわ」
「マダム、私は……」
テオンはぐっと拳を握った。
「ここに来た当初はそう思っていました。つまらない忖度のせいで出世できないこの国で成り上がるために、あなたの権威を後ろ盾に、権力を握りたいと思っていたのです。ですが……」
あの時のテオンならそれもさもありなん。美貌のせいで苦労してきたのだから、美貌を使ってマダムの依頼を達成し、のし上がってやろう。閑職に追いやられていた鬱憤を晴らしたいくらいの気概があった。
だけど、クロエを傷つけたことの引き換えに出世できても一生後悔するだろう。
「……マダム。今はあなたの後ろ盾が欲しいという気持ちはありません。考えがコロコロ変わる人間を嫌うのは知っていますが、……どうか、クロエを大切にしてあげてください。クロエは言ってました。仲良し母娘だったと。きっと、マダムのことが今でも大好きで」
その時だった。
扉の外がにわかに騒がしくなり、護衛の一人が駆け込んできた。
「マダム! 大変です!」
ちらっとテオンを見たマダムだったが、すぐに護衛に目を向けると眉をひそめた。
「来客中だと知った上での報告よね? つまらない内容なら……いいわ、その場で言って構わない」
焦る様子の護衛にマダムが先を促した。
「見張り役の護衛が倒され、お嬢様が連れ去られました!」
(お嬢様って、まさかクロエか?)
バッとテオンは振り返り、護衛を見つめる。
ジョスティーヌは青ざめた顔で立ち上がるとすぐに指示を出し始めた。
「マルティンっ! 王都警備隊の隊長にすぐ連絡を! アイザックは宰相補佐官と第一騎士団の副団長に連絡を入れてっ! ガストンは館にいる護衛を総動員して捜索に当たりなさい!」
ふらっと倒れそうなジョスティーヌを側近らしき護衛が支える。
「マダムの護衛が手薄すぎます……っ!」
「ロベールだけ残って。後は行きなさい。早くっ! クロエに何かあったら許さないからっ!!」
護衛たちは敬礼すると一目散に掛けていく。
クロエが連れ去られたことに焦りながらも、テオンはその様子を不思議な心地で見ながらマダムへ提案した。
「マダム、私も捜索に加わらせてください。一人でも多い方が少しでも早く見つかる可能性が高くなるはずです」
真っ青な顔のジョスティーヌは小さく頷くと、あなたも行って、と口にした。
「テオン・フォンセカ。マダムがお呼びです」
「……」
このタイミングで接触があるということは、昨日の今日で、テオンがクロエの家にいたことを知っているということなのだろう。テオンは、マダムがクロエの周囲を監視していたことを実感した。
クロエの純潔は散らしたが、すでにマダムの後ろ盾を得てのし上がりたいという熱意は冷めている。“愛と智慧の館”に行く必要はないのだが、テオンは思ったのだ。
マダムに会ってクロエは無事に処女ではなくなった旨を伝えなくては、五日以内に誰か人を送られてしまう。きちんと報告した方がいいだろう、と。
こうして、テオンは素直に迎えの馬車に乗り、“愛と智慧の館”へ足を踏み入れることになる。これでマダムとの対面は三度目だ。
長ソファに腰掛け足を組むマダムは、早朝とは思えないほど煌めいている。
薔薇色のドレープが美しいドレスから覗くこぼれそうな胸元や白いうなじ。永遠の薔薇にふさわしい、この国一番の美貌を誇るマダムジョスティーヌは、眉間にしわを寄せて不機嫌そうな顔をしていた。
苛立ちを載せた声で、マダムがテオンに尋ねた。
「それで? 約束は果たしたのかしら」
「……はい。無事に、クロエの純潔は私が散らしました」
マダムはぐっと眉間のしわを深くしたが、すぐに小さなため息をつき、テオンを見据えた。
「嘘偽りはないわね?」
「神に誓って」
そう、と一瞬目を閉じたマダムだったが、ようやく笑顔になった。
「……よくやってくれたわ。あなたに感謝します。テオン・フォンセカ。あなたの望みを叶えてあげるわ。どの役職に就きたいの? 口添えに根回し、資金援助。必要な支援は惜しみなく行うわ」
「マダム、私は……」
テオンはぐっと拳を握った。
「ここに来た当初はそう思っていました。つまらない忖度のせいで出世できないこの国で成り上がるために、あなたの権威を後ろ盾に、権力を握りたいと思っていたのです。ですが……」
あの時のテオンならそれもさもありなん。美貌のせいで苦労してきたのだから、美貌を使ってマダムの依頼を達成し、のし上がってやろう。閑職に追いやられていた鬱憤を晴らしたいくらいの気概があった。
だけど、クロエを傷つけたことの引き換えに出世できても一生後悔するだろう。
「……マダム。今はあなたの後ろ盾が欲しいという気持ちはありません。考えがコロコロ変わる人間を嫌うのは知っていますが、……どうか、クロエを大切にしてあげてください。クロエは言ってました。仲良し母娘だったと。きっと、マダムのことが今でも大好きで」
その時だった。
扉の外がにわかに騒がしくなり、護衛の一人が駆け込んできた。
「マダム! 大変です!」
ちらっとテオンを見たマダムだったが、すぐに護衛に目を向けると眉をひそめた。
「来客中だと知った上での報告よね? つまらない内容なら……いいわ、その場で言って構わない」
焦る様子の護衛にマダムが先を促した。
「見張り役の護衛が倒され、お嬢様が連れ去られました!」
(お嬢様って、まさかクロエか?)
バッとテオンは振り返り、護衛を見つめる。
ジョスティーヌは青ざめた顔で立ち上がるとすぐに指示を出し始めた。
「マルティンっ! 王都警備隊の隊長にすぐ連絡を! アイザックは宰相補佐官と第一騎士団の副団長に連絡を入れてっ! ガストンは館にいる護衛を総動員して捜索に当たりなさい!」
ふらっと倒れそうなジョスティーヌを側近らしき護衛が支える。
「マダムの護衛が手薄すぎます……っ!」
「ロベールだけ残って。後は行きなさい。早くっ! クロエに何かあったら許さないからっ!!」
護衛たちは敬礼すると一目散に掛けていく。
クロエが連れ去られたことに焦りながらも、テオンはその様子を不思議な心地で見ながらマダムへ提案した。
「マダム、私も捜索に加わらせてください。一人でも多い方が少しでも早く見つかる可能性が高くなるはずです」
真っ青な顔のジョスティーヌは小さく頷くと、あなたも行って、と口にした。
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