【完結】【R18】この国で一番美しい母が、地味で平凡な私の処女をこの国で最も美しい男に奪わせようとしているらしい

魯恒凛

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 テオンは何度もクロエの名を呼び続ける。横からガストンがクロエの脈を取ったが、気を失っているだけだと判断した。捜索に当たった者たちはほっとし、胸をなでおろす。

「テオン・フォンセカ。お嬢様は無事です。薬を嗅がされたか睡眠薬を飲まされ、眠っているだけのようです。……テオン・フォンセカ?」

 ひどく取り乱しているテオンに、クロエは無事であることを伝えようとガストンが手を伸ばしたが、マルティンが遮り、首を左右に振る。

 阿鼻叫喚の礼拝堂のなか、聖職者たちが抵抗しながら拘束され、騎士団に制圧されていく。マダムの護衛たちに囲まれながら、テオンは周囲を気にすることなくクロエをぎゅっと抱きしめた。

 愛おしそうにその体を包み、溢れる想いを口にする。

「クロエ……、悪かった。最初は確かにマダムに依頼されたから近づいたんだ。だけど、素直で優しいクロエのことをいつの間にか好きになってた。ごめん、クロエ。たくさん傷つけてごめん」

 苦悩で美しい顔を歪めるテオンは壮絶な色気を放ち、切なげな声色とその表情に捜索に参加した騎士団や宰相の部下たちも思わず足を止める。

「初心なクロエがかわいくて、いつもやり過ぎてごめん。クロエがどんどん垢抜けてかわいくなってるのは知ってたけど、アレクサンドラの元へ通っていたなんて……。クロエのそういう真っすぐで頑張り屋なところが俺は眩しくて好きなんだ」

 目を瞑ったままのクロエの眉間にしわが寄り、顔が徐々に赤くなっていく。

 そぉっと片目を開けたクロエの目の前には懐かしい護衛の面々。マダムの護衛であるマルティン、アイザック、ガストンはテオンの背中側に立ち、クロエの顔をじっと見つめていた。

(なにこれ、どういう状況なの……)

 少し前から気が付いていたし、自分をぎゅっと抱き締めるこの男性は声と香りでテオンだということもわかっていた。清涼感のあるグリーンとテオンの体臭が混ざり、至近距離で嗅ぐと壮絶なフェロモンとなってクロエに襲い掛かる。

 だけど、今はテオンのフェロモンよりもテオンの甘い言葉がクロエを追い詰めていた。

(テ、テオン様が、私のことを好きって言ったの?)

 クロエが起きていることに気づかないテオンは、その体を抱きしめたままクロエ語りを続ける。

「俺はこんな顔立ちだから、はっきり言って女たちが蟻のように群がってくる。だけど、それは外見だけを見て寄ってくる女たちだ。みんな俺のことを宝石か何かの類と勘違いしてる。でも、クロエは俺の内面を見てくれた」

(テオン様……)

 クロエがチラッと見上げると、マルティンが会釈し、アイザックがウィンク、ガストンが頷いた。

 母の側にいた護衛たちはもちろん顔見知り。クロエの世話もしてくれた、親戚のお兄さん的存在で身内のようなもの。

(……いたたまれない)

 クロエは真っ赤な顔のまま、固く目を瞑ることにした。


 その時、入り口のあたりで抵抗を続ける聖職者たちが、大声で叫び始めた。

 どうやら、クロエを抱きしめるテオンの姿が目に入った様子。

「そこの無駄に顔がいい男っ! 聖女様に触るなっ!」
「そうだ! 聖女様が汚れる! 汚らわしい欲望の塊どもめ! われらの聖女様は崇高なのだっ!」
「そうだそうだ! こんな誰でも股を開くような国にいらっしゃるとは不覚……! ようやく探し当てた聖女様は穢れなき処女のまま我らの国へお連れするんだ!」

 テオンはその言葉に眉を顰める。

「……どういうことだ? 聖女様? クロエのことか?」

「聖女様を離せっ! 俗世にまみれたおまえのような男は半径十メートル以内に近づくでない!」
「離れろっ! 聖女様に触るなっ! 聖女様は清いお体でなくては神聖力が開かなくなるっ!」

(聖女は純潔じゃなくてはならないってこと? もしかして、そのせいでお母さんは……)

 ぎゃあぎゃあと大騒ぎのなか、聖者とは思えない口の悪さでテオンを詰る男たち。

(……もう聞いてられないわ)

 ごくりと固唾を飲み、クロエはすっと瞼を開けると聖職者へ顔を向けた。

「……わ、私、処女じゃありませんよ?」

 しんと静まり返る礼拝堂。神聖国の聖者のひとりが震えながら声を上げた。

「嘘だ、嘘だ……聖女様は純潔を守られているとつい最近も報告があった!」
「ああ、間違いない……仲間が聖女様と街ですれ違った時、聖力を感じたと。それは純潔を守られ続けている証。ようやく今日この儀式で秘められた力を解放す」

「……昨日純潔ではなくなったんです。だから! だから、テオン様のこと、悪く言わないでください……」

 クロエは尻つぼみになりながら小声で呟いた。

「なっ……」
「……」

 聖者たちは顔面蒼白になり、それ以降はひと言も発することなく第一騎士団に連行されていった。

 周囲が騒がしい中、テオンは腕の中にいるクロエを見つめる。

「クロエ、痛いところはないか? どこか怪我は?」
「だ、大丈夫、です……」

 安堵した様子のテオンははぁっと大きく息をつくと、心底安堵したような表情でクロエに優しく微笑んだ。

(ま、眩しい……! 国一番の美男子にこんな至近距離で微笑まれたら気絶しそうなんだけど)

「クロエ、俺は」
「お取込み中すみません」


 テオンの言葉を遮り、二人の間にマルティンが割って入った。
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