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33.ある男の後悔の物語
十数年前。我がセーデルホルム王国はとある戦争に介入し、三大魔獣騎士団の活躍によって終戦へと導いた歴史がある。もしかして、その頃の話だろうか。
「ああ。男は騎士として前線にいてな。紆余曲折あって敗戦国の貴族女性をこの国へ連れ帰り、慎ましく市井で暮らしていたんだが……、男は妻を幸せにしようと仕事に明け暮れ、妻の気持ちに気づかなかったんだ」
元貴族の二人が市井で暮らすのは大変だろう。私のように前世の記憶があって一通りの家事ができるのなら話は別だけど、令嬢は火も扱えないし洗濯すらできないはず。
ロマンチックな話に聞こえるけど、実際には苦労の連続だったことは想像に難くない。
「彼女にとって慣れない他国での暮らしは想像以上に大変だった。愚痴一つ言わず、周囲からの悪意も受け止めて。男は何一つ知らなかったんだ。騎士である自分は尊敬されているから、彼女もきっと大切にされるはずだって信じていて」
……かわいそうな女性だ。市井に馴染めず悪意を向けられたのだろうか。異国の地の強い風当たりはさぞつらかったことだろう。
悪意を向けられる恐怖とすり減っていく心身は痛いほどよくわかる。
「男は彼女にいい暮らしをさせてやりたくて、幸せにしたい一心で妻を気にする余裕がなく……。ある朝、妻は言ったんだ。話があるから聞いてほしいと。その日、男は金のために遠征に行かなくてはならず、帰ったら必ず話を聞くからと約束して家を出て……。だけど、翌朝になって帰った家に、妻はもういなかったんだ」
「え……?」
「男は後悔したそうだ。なぜもっとそばにいてやれなかったのか、なぜもっと話を聞いてあげなかったのか。妻の置かれていた状況が次々と明らかになると、男は怒りに泣き叫んだんだ。自分が命をかけて守っていた市民たちが妻にした仕打ちを許せず、武器を手に皆殺しにしようと我を忘れて……」
それって、周囲の人たちが女性をいじめていたってこと? ……小さなコミュニティの中で針の筵だったでしょうね。とうとう耐えきれずに出て行っちゃったんだろうな。愛があればなんでも乗り越えられるなんて、現実には難しいもの。やっぱり限界ってある。
それにしても、それなら二人は周囲によって引き裂かれたようなものなのね。
「男の人の怒りももっともだわ。憤りのない怒りで気が狂いそうだったでしょうね。それで、まさか、本当に皆殺しに……?」
いつの間にか聞き入ってしまった私に、アロルド団長はふっと目元を和らげた。
「武器を持つ男の前に老婆が立ちはだかったんだ。唯一、妻に優しくしてくれたその人が言うに、父親が殺人者になったら子どもがかわいそうだって」
「それって……」
「妻のお腹の中には新しい命が宿っていたそうだ。だから男は武器を持っていた手を下げた」
ああ、……じゃあ女性はお腹の子を守るために出て行ったってこと? 英断ね。
「俺が言いたいのは、ルートヴィヒには男のように後悔しないように妻に向き合えということと、クラリスはその妻のように我慢しているばかりじゃなく、夫にきちんと状況を伝えろってことだ」
「う……」
まったくもってその通りだ。
「白い結婚を理由に離縁するのはおまえの自由だ。だけど、ひとことくらいルートヴィヒに言ってもいいんじゃないか? おまえばっかりつらい思いをする必要はないだろう」
確かに。使用人たちからの嫌がらせも、ルートヴィヒ様が王女と恋仲なせいで罵られることも、私が我慢するのはおかしいよね!?
「はいっ。なんか、その通りだな、って思いました。ちゃんと言いたいこと言って離縁します」
「ははっ! 離縁は揺るがないんだな」
「へへっ。私は二人の恋のお邪魔虫ですから。それより、その男の人は奥さんとお子さんにちゃんと再会できたんですか?」
「……いや。残念ながら再会はできず、今も後悔を胸に生きているよ」
「そうなんですか……」
奥さん、どうしても男の人を許せないのかな。それとも、また悪意の中に身を置くことが怖いとか? お子さんのことも守らないといけないものね。
……終戦後なら今お子さんは十歳くらいかしら。男の人のことを嫌いで離れたわけではないし、本当は会いたいだろうな。
「奥さんとお子さんが笑顔で暮らしているといいなぁ」
「……ああ。きっと今頃笑っているさ」
「男の人も幸せにならないとですね。だって、何も悪くないですもん。ひとりだけ寂しい思いをしてたら別れた奥さんだってつらい気がします」
アロルド団長は悲しそうにはにかんだ。
「クラリス。とりあえず後悔だけはしないように行動しろよ」
「ああ。男は騎士として前線にいてな。紆余曲折あって敗戦国の貴族女性をこの国へ連れ帰り、慎ましく市井で暮らしていたんだが……、男は妻を幸せにしようと仕事に明け暮れ、妻の気持ちに気づかなかったんだ」
元貴族の二人が市井で暮らすのは大変だろう。私のように前世の記憶があって一通りの家事ができるのなら話は別だけど、令嬢は火も扱えないし洗濯すらできないはず。
ロマンチックな話に聞こえるけど、実際には苦労の連続だったことは想像に難くない。
「彼女にとって慣れない他国での暮らしは想像以上に大変だった。愚痴一つ言わず、周囲からの悪意も受け止めて。男は何一つ知らなかったんだ。騎士である自分は尊敬されているから、彼女もきっと大切にされるはずだって信じていて」
……かわいそうな女性だ。市井に馴染めず悪意を向けられたのだろうか。異国の地の強い風当たりはさぞつらかったことだろう。
悪意を向けられる恐怖とすり減っていく心身は痛いほどよくわかる。
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「それって……」
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「う……」
まったくもってその通りだ。
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