【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛

文字の大きさ
60 / 71

60.忘れていた日々

しおりを挟む
 そうよ、ルートヴィヒ様が言っていたじゃない! 赤ちゃん魔獣を欲しがる密猟者が増える季節で、巡回を強化しているんだって!

「ああ、そんな……」

 抱き上げた小さな体は今にも命の灯火が消えてしまいそうだ。ドレスをさらに破いて体の血を拭き、その体を調べてみても、怪我はない。この強いフェンリルママが指一本触らせなかったんだろう。
 
 それなら、生まれながらに体が弱かったのかもしれない。
 
 見上げたフェンリルは体力の限界なのか、体を横たえてしまった。体をゆっくり上下させながら、私と赤ちゃんを見つめている。何とかして助けてあげたい……。多分、フェンリルママは……。

 涙を拭って必死に考えてみる。何か、何かを思い出せそうなのに。

「うぅ、わからない……。赤ちゃん魔獣のこと、何かの本で読んだ気もするけど、思い出せない……」

 ボロボロ泣きながら謝る私に、フェンリルは力を振り絞るように体を起こすと、額にキスをしてくれた。
 触れられたところが温かくなり、じわりと何かが広がっていく。これは魔力なのかな……?

「あ……」

 頭の中に温かな魔力が流れ込んでいく。じゅわっと広がった魔力は記憶の片隅を固く封じ込めていた氷の塊を突き抜けた。四方に亀裂が走り、パリンと音を立て、分厚い氷が粉々に砕け散る。

 その瞬間、封じ込められていた記憶と忘れていた日々が急激に頭の中へ流れ込んだ。
 
 もふもふに囲まれたあの丘、少年と過ごした日々――。

『るぅ! りっぱな騎士になったら、結婚してくれる?』
『ク、クラリス! それは男の方から言う言葉なのに……』
『るぅ、怒った?』
『……怒ってないよ。……だけど、次は僕が……から、…………で』
『え~? るぅはいつもぼそぼそいうから聞こえな~い。きゃははっ』

 あぁ、私はどうして忘れてたんだろう?

「思い出した……。私は、赤ちゃん魔獣を助けたことがある」

 *

 あれは、私が六歳の時――。

「クラリス。今日からお客様がお泊りするけど、いたずらしちゃだめよ? 仲良くしてね」
「だれ? だれがとまるの?」
「第二魔獣騎士団の団長をつとめているレーンクヴィスト団長と奥様、それから息子さんだよ。クラリスより二つお兄ちゃんだね」
「こんなへんぴなところに、なにしに来るの?」
「クラリス……そんなこと言われたらパパ泣いちゃう……!」

 やってきたのは、辺境領へ向かう途中のレーンクヴィスト伯爵家だった。
 グリフォン連れの彼らにうちは都合がよく、片田舎のヴェルナール領が中継点のひとつに選ばれたらしい。

 護衛を含め、一団体でやってきた彼らは圧巻だった。男前の団長に美しい奥様。強そうな護衛たちがわらわら周囲を取り囲み、グリフォンたちがゆったりと歩く。
 目を瞠って彼らを眺める私の元へ、お互いの親たちが子どもたちを引き合わせようとやってきた。

「クラリス。ご挨拶してね。こちらはルートヴィヒ君。レーンクヴィスト伯爵のご子息だよ」
「るぅといっひくん、はじめまして! クラリスです!」
「……め……て」

 もじもじと恥ずかしそうにしていた美しい黒髪の男の子は人見知りで、私と目を合わせてくれなかった。

 しばらくの間滞在することになったレーンクヴィスト伯爵家。普段会うことのないグリフォンと仲良くしたかったのだけど、その多くは近くの山で体を休めることになり、なかなか会えず。
 だから私は、ルートヴィヒ様が頑なに離そうとしない、赤ちゃんグリフォンに会いたくて堪らず、何度も突撃を繰り返したのだ。

「るぅといっひくん! 赤ちゃん、見・せ・て!」
「……だめ」
「え~、なんで~?」

 しつこい私を見かねて、父と母が注意をしてきた。

「クラリス。あの赤ちゃんグリフォンは体が弱くて、辺境へは一縷の望みをかけて治療にいくらしいんだ。本来ならルートヴィヒ君のパートナーになるはずだったのに、とても残念で悲しんでいるそうだよ。だから、そっとしておいてあげなさい」
「……あのグリフォン、死んじゃうの?」
「死ぬと決まったわけじゃないけど……体の中で魔力の回路が詰まってしまっていて、衰弱しているらしい」
「魔力詰まり?」
「ああ。去年亡くなったばあさんが生きていたら何か手伝えたかもな。魔獣の研究をしていた変わり者だったから」

 ヴェルナール領よりもっと田舎で生まれた元ド田舎令嬢の祖母は、魔獣が生息する領の生まれ。父は幼い頃、瀕死の魔獣に手を貸す祖母の姿を見たことがあったそうだ。

「変わった人だったなぁ。魔獣の生態を観察するんだ、って山へ籠ることもあって。だけど、人が傷つけた魔獣を手当てするために研究をする素晴らしい人だった」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

婚約者から婚約破棄されたら、王弟殿下に捕まった件

みおな
恋愛
「ルチル、君との婚約を破棄させてもらう」  五年間、婚約者として交流して来た王太子であるランスロットから婚約破棄を告げられたクォーツ公爵家の令嬢であるルチル。 「ランスロットと婚約破棄したって?なら、俺と婚約しよう」  婚約破棄をきっかけに、領地に引きこもる予定だったルチルに、思いがけない婚約の打診が。  のんびり田舎生活をしたいルチルだが・・・

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

処理中です...