【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛

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67.許すことは簡単じゃない

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 ドラちゃんのお世話係としてすっかり有名になった私。今まで全く接点がなかった第三魔獣騎士団長もご存じのようで……。

「いや~、ヒッポグリフの赤ちゃんが今期は三頭いるんだが、親そっくりで気難しくてねぇ。週に一回でもいいし、交流させてもらえないだろうか」

 天真爛漫なドラちゃんを見て、幼少期は伸び伸び過ごさせるのもいいなと思ったらしい。まあ、ドラちゃんは元々の性格が大きい気もするけど、ヒッポグリフたちも将来は厳しい訓練が待っているそうだし、そう言われると今のうちに遊ばせてあげたくなっちゃうわね。
 
 ……だけど、私には先に話し合わないといけないことがある。
 
 そんな私の様子を察したのか、ルートヴィヒ様がすっと挙手をした。

「……前向きに検討させていただきますが、一度持ち帰って妻と相談してもよろしいでしょうか」
「ああ、もちろんだ。二人でよ~く話し合えよ」

 アロルド団長はそう言うと、とても満足そうに笑っていた。

 *

 その日の夜――。

 レーンクヴィスト家の夫婦の部屋で、私たちは向き合った。
 九か月後に離縁を、と言った期限は、すでに残り七か月。ヴェルナール領に帰るなら、魔獣騎士団のお世話係は断らなければいけないし、私たちは今後のことをきちんと話し合う必要がある。
 
 ルートヴィヒ様はおもむろに口を開いた。

「クラリス。その……今も俺とソフィア殿下との仲を疑っているのか?」
「いいえ。それはもう……」

 さすがに周りからのフォローもあったし、王女様から直接謝罪の言葉もいただいた。二人の間には何もなかったこと、わかっている。だけど、……誤解だったとはいえ、周囲から悪意を向けられたことや冷遇されていると感じた時間は確かに存在するし、なかったことにはできない。

 歯切れの悪い私を、ルートヴィヒ様がじっと見つめた。

「クラリスを傷つけてしまったことは、誤解だったでは済まされない。俺が至らなかったから起きたことだ。本当にすまなかった」

 淑女ならこんな時、背筋を伸ばして「謝罪を受け入れます」なんて言うんでしょうね。だけど、そんな簡単に口にできるほど器が大きい人間じゃないし、つらかった日々がその一言で報われるわけもない。

「口ではいくらでも言えるけど、許すことは簡単じゃないわ」

 ……これからどうしたいのか、私なりに一生懸命考えてみた。

 貴族社会において婚姻は家同士のつながりを深めるもの。私たちはそれに当てはまらないとしても、お互いに愛人がいたり愛が冷め切ったりしている夫婦でも、体面を守るために表面上は仲良くするのが貴族というものだ。
 まあ……、底抜けにお人好しで貴族らしくないヴェルナール家は、クラリスの出戻りを歓迎してくれるだろうし、私に関して離縁は決してネガティブなものにはならないことはわかっている。
 
 初恋だったルートヴィヒ様を想い続けた日々、つらく惨めだった二年間……。

 五年後、十年後を想像して、私が出した結論――。



「私は……私はもう一度だけ、あなたの隣にいてみようと思う」

 このまま離れてしまったら、後悔するような気がした。
 
「クラリス……!」

 ルートヴィヒ様はソファから立ち上がると私の前で跪き、そっと私の手を持ち上げると、その甲へ優しく口づけをした。

「ありがとう、クラリス。……今度こそ、必ず君を幸せにする」
「……大切にしてくれなかったら、次こそ本当に即時離縁しますからね」
「ああ、もちろんだ。……クラリス」

 私の名を呼ぶ彼の真剣なまなざしにドキッとする。

「目を、閉じてくれないか」
「……え?」

 心臓が、大きく跳ねる。完全に不意を突かれ、一瞬で頬が熱を帯びていくのを感じた。
 
 キス……、される?

 胸の奥で鼓動が焦れたように高鳴る。
 ドクン、ドクン、ドクン――――――ッ!
 口から心臓が飛び出してしまいそうだ。

「こ、こう……?」

 私はキスの気配に気づかないふりをして、素直に瞳を閉じる。期待と緊張が絡み合い、どこで息をしていいのかわからない。
 鼻? 鼻呼吸をしながら待っていたらいいの?
 指先がそわそわして落ち着かず、ぎゅっと両手を握り締めた。

 

 ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ……!



 
 …………待てども待てども触れられない唇。
 えっと、いつまで待たされるのかな。

 薄目を開けてみる? だけど目が合っちゃったらどうしよう……。
 困ったな、と思っていたら、ドサッと何かがテーブルの上に置かれた音がした。

「目を開けて」

 開けていいんだ、と拍子抜けしながら目を開けると、目の前には箱。覗き込むと大量の手紙が入っている。……ずいぶん古い手紙みたいね。

 サプライズがこれ?と首を傾げた私に、ルートヴィヒ様は照れたように笑った。

「いつか、見せようと思って捨てずに残しておいたんだ。君と出会ってから婚約するまでの十年間、記憶をなくした君に書き続けていた手紙なんだけど……」
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