【完結】【R18】幼妻は寡黙な最強軍人夫に初夜されたい

魯恒凛

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23.カルディア山の攻防

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「あの女、とうとうやりやがった」
「アラン、お口が悪いよ」

 ナタリアたちがやってきてから数日後のことだった。朝食を終えた後から屋敷の中がにわかに騒がしくなる。そのうちに、軍人たちがアランを呼びにやってきた。

(何かあったのかしら……)

 アランの執務室に軍人たちがせわしなく出入りする。領地内で何かあったことは明らかだ。シャルロッテも状況を確認しようと、邪魔にならないようにおそるおそる足を踏み入れた。アランは装備を手に、支度をしながら報告を聞いている様子。
 パウロも忙しそうに指示を出しながら荷物をまとめているのを見て、シャルロッテは眉を寄せた。

(まるで……今から何かと戦いに行くみたい)

「アラン様、どこかに行くんですか?」

 シャルロッテに気づいたアランが振り返った。

「……シャルロッテ。隣国のやつらが不法に国境を越えてきた」
「え?」
「ナタリアが手引きしたみたいでさぁ。あ、もう大奥様なんて呼ばなくていいよね? あの女、カルディア山を欲しがってたらしいじゃん? あの山って炭鉱があったから抜け道が多いんだよ」

 もはやパウロが呼び捨てでナタリアを呼んでいる。それよりも、だ。

「隣国って……戦争に勝って協定を結んで、今は平和になったんじゃなかったんですか?」
「奥様、正解。だけど、どの国にも不穏分子ってやつはいるじゃん? 今回攻め込んできたやつらは、これを理由に大きな戦争をおっぱじめ、武器の売買で利益を得たいのか、誰かを役職から引きずり下ろしたいのか……。とにかく、目的がよくわからなくてさぁ」

 ほんと、やんなっちゃう、とパウロがため息をつく。

「じゃあ、あの山を欲しがってたのって……」
「おおかた、唆そそのかされたんだろう」

 すぐに別館を確認したが、すでにナタリアとギルバートの姿はなく、昨日の夜中には抜け出していたらしい。

「それじゃあ、ラーゲルレーヴの地で戦が……?」
「いや、なんとしても食い止める」
「……アラン様、私は何をすれば?」

 瑠璃色の瞳がシャルロッテに向けられる。じっとヘーゼルの瞳を見つめ、アランが口を開いた。

「国境も一時的に閉鎖したが、すでに不穏分子が入り込んでいる可能性もある。カルディア山から敵兵を一歩も出すつもりはないが、身の回りに注意を。……シャルロッテ、安全を最優先に」
「はい。アラン様、どうかご武運を」
「……ああ。すぐに戻る」

 アランは十分な人数の護衛をラーゲルレーヴ邸に配置すると、慌ただしくカルディア山へと出発した。
 王国でも屈指の軍人が揃う東の辺境ラーゲルレーヴ。その砦は堅牢で、領民たちも絶対的な安心感の中で暮らしている。その安全を脅かす隣国からの不穏分子を決して見過ごすわけにはいかない。
 だが、カルディア山の攻防は予想外に苦戦することとなる。
 よく訓練されたラーゲルレーヴの兵士たちは、敵軍の兵とは比べ物にならない高い練度で段違いに強い。有利なはずの戦いで苦戦を強いられているのは、思いがけない人員が投入されていることだった。

「くそっ! 弱いのに多すぎる」

 1人で10人を相手にするような戦況の中、疲れが蓄積されていくと隙が生まれ、怪我をする者も出てくる。アランは辺りを見渡すと、違和感に気づいた。

「待て、パウロ。前線に投入されてるのは農民じゃないか?」

 よくよく手にしているものを見ると、鍬や鋤といった農具を手にしている者もいる。

「……死の物狂いで戦う農民で戦力をそぎ、疲れたところに傭兵の寄せ集めを投入してくるのか。敵陣も考えたな」
「前線に立つ彼らには事情があるんだろう。捕まえてここへ連れてこい」

 農具を持つ男たちはいとも簡単に捕まえられた。強面の軍人たちに囲まれる中、ぶるぶる震えたまま額を地面にこすりつけ、農民たちがうずくまる。中でも、ひときわ黒い甲冑に身を包むアランは悪の化身のような風貌で威圧感を漂わせる。

「……アラン。デカいのに黒い甲冑なんて着るから悪者感が出ちゃってるじゃん」
「そうですよ。なんだかこっちがいじめてるみたいで心苦しいです」
「……おまえたちは黙れ。そこの者に聞く。なぜラーゲルレーヴ領へ不法へ侵入し前線へ立っている?」

 男たちは涙ながらに訴えた。

「うっ、ううっ、ラーゲルレーヴの当主は悪魔のような風貌で、わしらの嫁や若い娘をさらって犯すのだと! だからわしらは教えてくれた彼らに同調して、なんとか自分たちの大切な家族を守ろうと……」
「辺境伯はこの世の者とは思えない醜男で、女にモテない腹いせに悪の所業をしつくしていると。血を好む上に絶倫で、毎夜女を抱きつぶしてはその顔を見た女を翌朝になると殺すのだと……! そう、商人が教えてくれたんです……っ」

 ここのところ、シャルロッテとアランの仲が良いことを知る軍人たちが、眉間にしわを寄せる。

「絶倫……は間違ってないかもしれないが、まだシテないっぽいけどな」
「抱きつぶすのは……そのうちすると思うが」
「……やめろ」

 へえ、とパウロは面白そうだ。

「それじゃあ、家族が人質に取られているとかじゃなくて、君たちは自ら志願して家族を守ろうとしたってこと?」

 男たちは力なく頷く。

「じゃあ、その噂が嘘なら君たちはこのまま家に帰ってくれる? 俺たちも一般の人に怪我をさせたくないんだよね」
「え? え、ええ……嫁や娘たちが安全で、わしらも平穏に暮らせるのなら帰ります」
「なんだ。話せばわかるじゃん。それじゃあこれを見て」

 パウロがアランの背中側に回り、兜をスポッと取る。農民たちははっと息をのんだ。

「今代の辺境伯は悪魔のような風貌どころか、女神のような風貌です。そして幼妻に執着していて他の女に興味はありません。……これで安心した?」
「「「は、はい……!」」」
「あの……、むしろ、娘を献上したいのですが……」
「いらん。早く山を下りてくれ」 

 農民たちが大移動を始めると、異変に気付いた傭兵たちが仕掛けてきた。だが、アラン率いるラーゲルレーヴ軍の敵ではない。

「傭兵の寄せ集めでよく勝とうとしたな」
「結局のところ、何が目的だったんだ?」

 あっという間に制圧し、傭兵たちを縛り上げる。拷問をするまでもなく、男たちはいとも簡単にその目的を口にした。

「も、もしアラン・ラーゲルレーヴを殺したら、この廃山に眠っている金をもらえると言われて……」
「戦争? い、いえ、そんなつもりはありません。国なんてどうでもいいし」

 どちらにせよ、不法越境に不法侵入、不法掘削は違法である。
 そのうち、金切り声をあげる女が連れてこられた。薄汚れてはいるが、ナタリアだ。

「大奥様。辺境を守るラーゲルレーヴの一員としての誇りも失われたようですね」
「ふ、ふふっ……。こうなったら仕方がないわね。アラン、今からでも許しを請いなさい」
「……状況が理解できないのか?」

 この期に及んで余裕のあるナタリアに胸騒ぎがする。

「ふふふっ! アラン、私の勝ちよ! ラーゲルレーヴの当主の座を降りてもらう。私が推す者をその座に就かせることにしたわ!」
「何を馬鹿なことを……」

 ラーゲルレーヴの直系はアランしか生き残っていない。アランが亡くなれば、確かに義母の裁量で推薦できる可能性もある。だが、元老院や王族の承認も必要で、そんなに簡単な話ではない。

「……アラン。ここに来てそろそろ一週間かしら。思ったより時間がかかったんじゃないの? 今頃、ラーゲルレーヴの屋敷はどうなっているかしらねぇ」
「っ! おまえっ……」

 ナタリアに今にも殴り掛かりそうなアランを皆が止める。怒りをにじませるアランを見て、ナタリアは楽しそうに笑い出した。

「あははっ! あんた、あの幼妻にハマってるんだってね? あの子の命と引き換えに辺境伯の座は降りてちょうだい」
「なっ! まさか奥様に手を出したのか!?」
「卑怯な手を! 義理とはいえ息子の嫁を人質に脅すなんて、大奥様がやることか?」

 軍人たちがかつての当主の妻をなじる。怒りに震えるアランを前に、ナタリアはうれしそうにけしかけた。

「条件は2つ。辺境伯の座を降り、私の推薦する者を後釜に添えること。それから、私を今すぐ解放し、後追いしないこと。簡単でしょう? そうしたら、あなたの妻を返してあげるわ」
「……」
「ああ、それからアラン。言うことを聞いてくれないと、あなたの大事な人が傷つくかもって言ったこと、覚えてる? それなのにぐずぐずしてるから……」

 剣呑な空気が流れる中、ナタリアが口角をあげた。

「大事な大事な幼妻は、男たちに蹂躙されながら、あんたに助けを求めていたかもしれないわね」
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