聖女の義妹に媚薬を盛られ獣人国に捨てられた結果、愛が重めの夫たちに愛されてます

魯恒凛

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番外編

書籍化御礼SS③ フランシスと回復薬

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 王宮の一隅、薬草の香りと静謐なざわめきが満ちる研究所。かつては手いっぱいだったヘシュキアの問題も今やほぼ過去のものとなった。
 増え続ける資料の重みに棚は軋み、人員があふれる廊下には夢と笑い声が絶えない。研究所の規模は日ごとに膨らみ、予算の桁も一つ増えた。

 所長であるフランシスは研究所の運営を舵取りしながらも、リディアーヌと共に新しい薬の研究に励んでいる。

(リディアーヌちゃんのおかげで不可能はない気すらしてくるな)

 フランシスは何年もの間、ヘシュキアの研究に情熱を捧げてきた。国家を巻き込む苦悩と執念の果てに一区切りついた今、新しい挑戦で満たされる日々を過ごしている。
 つい先日も、後回しにされていた『耳の血行促進クリーム』の開発に成功し、冬場耳が冷えすぎて感覚が鈍るうさぎ獣人を大いに喜ばせたところである。
 フランシスはさっそく次の新薬に取りかかろうと、愛しい妻へと振り返った。

「リディアーヌちゃん、次は鳥獣人向けの羽根ローションにしない? 羽根の抜け替わり期のかゆみ止めが欲しいって鳥族から――って、何考えてるの?」

 そこには机に頬杖をつき、どこか遠い場所を眺め、ぼうっと考え事に耽るリディアーヌの姿。いつも忙しなく動いているのに珍しい。声を掛けると、リディアーヌはふわりとはにかみ、曖昧な微笑みを返してきた。

「あっ……その、皆さんの困っていることを解決できたらいいなあって」

 そんな様子に、フランシスは小さく苦笑いをした。何でも一人で背負おうとする、リディアーヌの悪い癖だ。
 フランシスは部屋の片隅に詰まれていた丸椅子を引っ張り出すと、リディアーヌの隣へ置いて腰掛けた。
 リディアーヌが何か悩んでいる、もしくはやりたいことがあるのなら、夫として全力で叶えるつもりでいる。王族としての権力を惜しみなく使うつもりだし、自分では役不足なのなら、トバイアやオーウェンを巻き込むこともいとわない。

「で、本当は何考えてたの? 隠さないで聞かせて」
「えっと……次は何を作ったらいいかなって」
「本当のところは?」

 ひとつ息を吐き、距離を詰めてそっと覗き込めば、ヘーゼル色の瞳が揺れる。「恥ずかしいです」とフランシスを両手で押したリディアーヌは、小さく折れたように口を開いた。

「わかりました、言いますね。……その、他の獣人の女性たちは毎朝きちんと起きられているのかしら、って。なかなか聞く相手がいなくて……」

 顔を赤らめるリディアーヌに、フランシスはぴんときた。

「あ~、一晩中むつみ合って、獣人の女性は朝から元気かってこと? リディアーヌちゃんは毎回翌日ダウンしてるもんね」

 トバイア、オーウェン、フランシス。三者三様の蜜夜を過ごしても、翌日のリディアーヌが起き上がれないことは共通点でもある。

「あの、私は夫が三人だけですけど、法律的に最低三人なんですよね? ってことは、もっとたくさん夫がいる人もいるんですよね?」
「うん、そうだね」
「そんなにたくさん夫がいたら、獣人の女性だって疲れるんじゃないのかなと思うんです。だから、疲れがとれる栄養ドリンクとか作れないかなあって」

 その言葉にフランシスは目を丸くした。今までになかった発想だったからだ。

 三大欲求だけあって、性欲が強い獣人は多い。種族の繁栄の目的であることに加え、一妻多夫という独特な制度のため、エクランド王国は性に関しては比較的オープンだ。
 媚薬は山ほど作ってきた。けれど、事後に疲れを回復する薬だなんて、ひ弱なリディアーヌならではの発想ではないだろうか。それこそ、女性の研究員がいなかったから気がつかなかったことでもある。そのうえ、リディアーヌの言葉も一理あるような気がした。

(たしかに、リディアーヌちゃんは俺たちが交代制で夜の生活を回しているけど、もっと大勢の夫を一晩で相手にする女性だっている……夜が明けても休む間もなく)

 そのとき、フランシスはふと思いついたことがあった。
 リディアーヌに視線を返せば、どこか嫌な予感といったように、顔を引きつらせる。

「うん、リディアーヌちゃん。需要がありそうだから、とりあえず作ってみようか」



 こうして、二人で調べて話し合いを重ね、試作を繰り返して完成したのが、回復薬だ。水分補給をかねて爽やかなマスカット味にしてみた。口に含むと、みずみずしい甘さの中に、じわりと体温がほどけていく。

「味はおいしいですね。これなら薬って感じがしないし、飲みやすくていいと思います」
「うん。これは効果も期待できそうだね。ドリンクタイプだから即効性もある」
「でも、これだと日持ちはしないかもしれないですね」

 懸念を抱きつつも嬉しそうなリディアーヌの隣へ、フランシスがすっと身を寄せる。

「じゃあ、さっそく確かめてみようか」
「……はい?」
「結果、知りたいでしょう?」

 じりじりと近づき、リディアーヌを壁際に追い詰めるフランシス。ぐいっとその体を引き寄せると、右手がリディアーヌの背中から腰の曲線を確かめるように、なまめかしく動く。空気が一気に甘くなった。

「んっ……ちょっと待ってください。フランシス、ここは研究所です。研究員のみんなが――って、あれ?」

 ふと周囲を見回し、部屋に二人きりなことに気づいたリディアーヌが、目を丸くする。フランシスはそっと耳元へと唇を寄せた。

「さあ。最短で君を抱き潰すにはどうしたらいいかな。ぐちゃぐちゃにして潮を何度も吹かせたらいい? それとも、長い舌で奥の奥まで舐めあげたら……どうなるかな?」

 言いながらゆるやかに唇を塞ぎ、口腔内を優しく舌でかき回す。そっと歯の裏をくすぐると、リディアーヌの瞳が涙でにじみ、頬が林檎のように染まっていく。深く舌を差し込みながら服をこっそり脱がせていくと、彼女は小さく抵抗を示した。

「んっ……あふっ……、お願い、フランシス……ここじゃ嫌……んっ」

 深い口づけを交わしながらリディアーヌを下着姿にすると、その両手を自分の首に絡ませ、フランシスはリディアーヌを抱き上げた。数歩歩いてテーブルの上にそっと座らせる。舌を離し、小さくささやいた。

「ちょっとだけ待ってて」

 そう言ったフランシスは棚の引き戸から大きな箱を取り出す。何をされるのかと涙目のリディアーヌに、フランシスはくすりと笑う。

 箱から取り出したのは、美しいドレスだった。
 フランシスはリディアーヌを立たせると、ドレスを着せていく。ぎこちなくも真剣な仕草に、リディアーヌは目を瞬かせる。

「……え?」
「俺、人に着せてもらうことはあっても、着させるの初めてだからよくわかんないんだけど。これで合ってる?」
「うん……ねえ、フランシス。このドレス、用意してたの?」
「まあね。いつか使うだろうと思って」

 髪を指先で編み込み、最後に鏡の前へ。見慣れないドレス姿に戸惑うリディアーヌを、フランシスは背後から抱きしめて、そっと耳元でささやいた。

「今ここでリディアーヌちゃんを抱くと歯止めがきかなくなるから、やめておくよ。その代わり、今晩は覚悟していてね」
「お、お手柔らかにお願いします……」
「じゃあ、さっさと謁見して家に帰ろう?」
「謁見?」
「うん。姉が新しく第五王配を迎えて大変らしいんだ」
「王配ってことは……」

 にっこり笑ったフランシスは、リディアーヌの頭にティアラを載せた。

「忘れてない? 譲位で同腹の姉が女王になった今、リディアーヌちゃんは王弟妃だよ」
「そ、そうでしたね。王弟妃……」
「俺たちはずっと研究ばかりしてきたけど……ようやく一段落ついたじゃん? これからは、王弟と王弟妃としての務めも増えると思う。研究所だけじゃなくて……国のためにも、一緒に頑張ってくれる?」

 リディアーヌに重荷を背負わせるつもりはない。もし、研究だけしていたいというのならもちろんその通りにするつもりだ。ただ、もし隣にいてくれるのなら――

 リディアーヌは一瞬だけ驚いたような顔をすると、ふわりと微笑んだ。

「もちろんです。私はフランシスの妻ですから」

 その返事に、フランシスは安堵と誇らしさを滲ませながら、そっと彼女の手を引いた。

 
 研究者としての顔も持つ王弟夫妻は、薬の開発だけでなく、エクランド王国の発展にも大きく寄与したとして後世に名を残すことになる。

 ――けれど、それはまた別の話。


 完

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:゚・:,。*:..。o○☆゚・:,。*:..。

改めまして、たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございました。

書籍は1月13日(火)出荷予定、店頭には15日頃に並ぶ予定です。

電子書籍は各サイトで配信されますので、ぜひWeb版との違いをお楽しみいただければと思います。
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