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ただひたすら剣を振る、入学試験を受けに行く。(3)
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「あっ。助けてください学院長~! ギルバート君がひどいんですよ~!」
「ど、どうしたノーラ女史」
女の子がジェシカさんに泣きつく。
……ん? 今ジェシカさん、ノーラ"女史"って言ったか?
「あのー、ジェシカさん」
「ギルバート君、ここでは学院長と呼んでくれたまえ」
芝居がかった声で言うジェシカさん。
そういえばさっきそんな約束したなぁと思い出し、俺は言葉を改める。
「あの、学院長……もしかしてそちらの方は先生ですか?」
言いながら俺は、女の子に視線を向ける。
ふんわりとした桃髪に幼さの残る顔立ち。小柄な身長。
どう見ても俺より年下の少女だが、冷静になってよく見てみると、服装は不自然なほど大人びていた。
紺色のズボンに白いシャツ、そして黒いジャケットに身を包んでいる。
軍服のようなデザインの衣服は動きやすそうで、それでいて上品さも併せ持っていた。
「ああ、ノーラ・ヴァートン女史だ。彼女は若くして我が騎士学院とマーリン魔法学校を卒業している秀才でな。今はこの学院で教壇に立ってもらっている」
女の子もといノーラ先生が、俺に向かってぺこりとお辞儀した。
やっぱりどうみても年下に見えるが、騎士学院を卒業しているということは……そういうことなのだろう。
――ん? 待てよ。
「学院長は今、両方卒業したって言ったか? あ」
疑問に思ったことがつい声に出てしまった。
「ふっふっふ。そうなのです。騎士学院と魔法学校を二つとも卒業したのですよ。先生は凄いのです。なんちゃってコールブランド王国初なのですよ」
ノーラ先生は誇らしげに胸を張る。どこがとは言わないがぺったんこだった。
「おや、もうこんな時間か」
腕時計を見て、ジェシカさんが顔を上げる。
「ノーラ女史、それではギルバート君の案内を頼む」
「はいです」
ノーラ先生は任せろと言わんばかりに笑みを返した。
「よろしく。……私はこれを片付けねばならんのでな」
執務机の上に鎮座する書類の山を見て、ジェシカさんの目から光が消える。
「「…………」」
無言で顔を見合わせた俺とノーラ先生。
俺たちは気の毒そうな表情で頷き合い、そっと学院長室を後にしたのだった。
………………
…………
……
「おはようございます」
聞き取りやすい澄んだ女性の声で意識が現実に引き戻される。
辺りを見回すと、俺は校舎入り口前にある受付にいた。
記憶を遡っているうちに受験生の列が進み、俺の順番が回ってきたようだ。
「あの、どうされました?」
「ああいえ、大丈夫です」
俺はどうやら緊張していると思われたらしい。
受付の女性職員は両手をギュッと握り、「頑張ってくださいね」と励ましてくれた。
それから受験票の提示を滞りなく済ませ、
「どうぞ、このままお進みください」
「どうも」
指示された通りに校舎の中へ入っていく。
しばらく歩くと廊下の突き当りにノーラ先生と同じ服装をした人たちが立っていた。学院の教師陣か。
受験票を見せたら[第二大教室]へ行くよう言われたので、突き当りを右に曲がってさらに歩いていく。
「第二大教室はこちらになりまーす」
受験生の流れに身を任せていると、ある教室の前で一人の少女が手をブンブン振り回していた。
見たところ俺より一つ二つ年上だろうか。あまり歳が離れているようには感じない。
「在校生っぽいな」
彼女の服装は学院教師たちとは少し違い、紺色のスカートに黒いシャツ、その上に白いジャケットを着込んでいる。
ただ、軍服がモチーフになっているのは同じようだった。
俺は歩く足は止めず、彼女に軽く会釈して第二大教室へ入っていく。
「いや広すぎるだろ」
見たことない大きさの黒板と教壇を中心として、半円を描くように長机と座席が並んでいた。
「えーと、席は……決まっていない感じか」
特に受験番号で席が指定されているわけではないらしい。受験生たちは好きなところに早い順で座っていた。
俺は迷わず後ろの方の席に向かう。最前列に座る勇気はない。
「ふぅ」
着席した俺はまず腰に帯びた剣を外し、目の前の長机に置く。
周りの受験生たちがそうしていたので真似してみた。
そのうち第二大教室は受験生で埋まっていき、ほぼ満席状態になった。
筆記試験……清々しいほど勉強していないが大丈夫だろうか。
父さんが言うには落ちることはないらしいけど、さすがに0点を取るわけにはいかない。
「ん?」
不安で腹が痛くなってきたタイミングで、重々しい学院のチャイムが鳴った。
途端、教室内の空気が張り詰める。受験生たちの緊張感がビリビリと伝わってくる。
「受験生のみなさんご機嫌よう。調子はどうかしら?」
チャイムが鳴り終わると同時に、青髪の貴婦人が第二大教室に入ってきた。
彼女からやや遅れて、学院の職員らしき人たちも続々と入ってくる。
「あたくしはこの学院で教師をしているクローディア・デュミナンドと申します。筆記試験の試験官を務めますのでどうぞよろしく」
青髪の貴婦人、クローディア先生は受験生たちを見回して優雅に微笑む。その腰には細剣を帯びていた。
「あの人、強いな」
絞り切った無駄のない肉体、抑えていても溢れ出る覇気。
背筋を伸ばし、ただそこに立っているだけなのに、まるで隙がない。
「五分後にもう一度チャイムがなりますので、そのチャイムが鳴ったら配っている問題用紙を裏返して試験を始めてください」
クローディア先生のよく通る声が教室に響き渡る。
ほどなくして、俺の手元にも試験問題と答案用紙が届いた。職員さんたちが手分けして受験生たちに配っている。
「こら、そこの貴方。問題をまだ見てはいけません。はやる気持ちはわかりますけどね」
これほど洗練されたウィンクを見たのは初めてだった。思わず見惚れてしまう――と、その時だ。
学院のチャイムが鳴り響き、受験生たちは一斉に試験問題に取りかかる。
よし、俺もベストは尽くそう。そう自分に言い聞かせて問題用紙を裏返した。
「ど、どうしたノーラ女史」
女の子がジェシカさんに泣きつく。
……ん? 今ジェシカさん、ノーラ"女史"って言ったか?
「あのー、ジェシカさん」
「ギルバート君、ここでは学院長と呼んでくれたまえ」
芝居がかった声で言うジェシカさん。
そういえばさっきそんな約束したなぁと思い出し、俺は言葉を改める。
「あの、学院長……もしかしてそちらの方は先生ですか?」
言いながら俺は、女の子に視線を向ける。
ふんわりとした桃髪に幼さの残る顔立ち。小柄な身長。
どう見ても俺より年下の少女だが、冷静になってよく見てみると、服装は不自然なほど大人びていた。
紺色のズボンに白いシャツ、そして黒いジャケットに身を包んでいる。
軍服のようなデザインの衣服は動きやすそうで、それでいて上品さも併せ持っていた。
「ああ、ノーラ・ヴァートン女史だ。彼女は若くして我が騎士学院とマーリン魔法学校を卒業している秀才でな。今はこの学院で教壇に立ってもらっている」
女の子もといノーラ先生が、俺に向かってぺこりとお辞儀した。
やっぱりどうみても年下に見えるが、騎士学院を卒業しているということは……そういうことなのだろう。
――ん? 待てよ。
「学院長は今、両方卒業したって言ったか? あ」
疑問に思ったことがつい声に出てしまった。
「ふっふっふ。そうなのです。騎士学院と魔法学校を二つとも卒業したのですよ。先生は凄いのです。なんちゃってコールブランド王国初なのですよ」
ノーラ先生は誇らしげに胸を張る。どこがとは言わないがぺったんこだった。
「おや、もうこんな時間か」
腕時計を見て、ジェシカさんが顔を上げる。
「ノーラ女史、それではギルバート君の案内を頼む」
「はいです」
ノーラ先生は任せろと言わんばかりに笑みを返した。
「よろしく。……私はこれを片付けねばならんのでな」
執務机の上に鎮座する書類の山を見て、ジェシカさんの目から光が消える。
「「…………」」
無言で顔を見合わせた俺とノーラ先生。
俺たちは気の毒そうな表情で頷き合い、そっと学院長室を後にしたのだった。
………………
…………
……
「おはようございます」
聞き取りやすい澄んだ女性の声で意識が現実に引き戻される。
辺りを見回すと、俺は校舎入り口前にある受付にいた。
記憶を遡っているうちに受験生の列が進み、俺の順番が回ってきたようだ。
「あの、どうされました?」
「ああいえ、大丈夫です」
俺はどうやら緊張していると思われたらしい。
受付の女性職員は両手をギュッと握り、「頑張ってくださいね」と励ましてくれた。
それから受験票の提示を滞りなく済ませ、
「どうぞ、このままお進みください」
「どうも」
指示された通りに校舎の中へ入っていく。
しばらく歩くと廊下の突き当りにノーラ先生と同じ服装をした人たちが立っていた。学院の教師陣か。
受験票を見せたら[第二大教室]へ行くよう言われたので、突き当りを右に曲がってさらに歩いていく。
「第二大教室はこちらになりまーす」
受験生の流れに身を任せていると、ある教室の前で一人の少女が手をブンブン振り回していた。
見たところ俺より一つ二つ年上だろうか。あまり歳が離れているようには感じない。
「在校生っぽいな」
彼女の服装は学院教師たちとは少し違い、紺色のスカートに黒いシャツ、その上に白いジャケットを着込んでいる。
ただ、軍服がモチーフになっているのは同じようだった。
俺は歩く足は止めず、彼女に軽く会釈して第二大教室へ入っていく。
「いや広すぎるだろ」
見たことない大きさの黒板と教壇を中心として、半円を描くように長机と座席が並んでいた。
「えーと、席は……決まっていない感じか」
特に受験番号で席が指定されているわけではないらしい。受験生たちは好きなところに早い順で座っていた。
俺は迷わず後ろの方の席に向かう。最前列に座る勇気はない。
「ふぅ」
着席した俺はまず腰に帯びた剣を外し、目の前の長机に置く。
周りの受験生たちがそうしていたので真似してみた。
そのうち第二大教室は受験生で埋まっていき、ほぼ満席状態になった。
筆記試験……清々しいほど勉強していないが大丈夫だろうか。
父さんが言うには落ちることはないらしいけど、さすがに0点を取るわけにはいかない。
「ん?」
不安で腹が痛くなってきたタイミングで、重々しい学院のチャイムが鳴った。
途端、教室内の空気が張り詰める。受験生たちの緊張感がビリビリと伝わってくる。
「受験生のみなさんご機嫌よう。調子はどうかしら?」
チャイムが鳴り終わると同時に、青髪の貴婦人が第二大教室に入ってきた。
彼女からやや遅れて、学院の職員らしき人たちも続々と入ってくる。
「あたくしはこの学院で教師をしているクローディア・デュミナンドと申します。筆記試験の試験官を務めますのでどうぞよろしく」
青髪の貴婦人、クローディア先生は受験生たちを見回して優雅に微笑む。その腰には細剣を帯びていた。
「あの人、強いな」
絞り切った無駄のない肉体、抑えていても溢れ出る覇気。
背筋を伸ばし、ただそこに立っているだけなのに、まるで隙がない。
「五分後にもう一度チャイムがなりますので、そのチャイムが鳴ったら配っている問題用紙を裏返して試験を始めてください」
クローディア先生のよく通る声が教室に響き渡る。
ほどなくして、俺の手元にも試験問題と答案用紙が届いた。職員さんたちが手分けして受験生たちに配っている。
「こら、そこの貴方。問題をまだ見てはいけません。はやる気持ちはわかりますけどね」
これほど洗練されたウィンクを見たのは初めてだった。思わず見惚れてしまう――と、その時だ。
学院のチャイムが鳴り響き、受験生たちは一斉に試験問題に取りかかる。
よし、俺もベストは尽くそう。そう自分に言い聞かせて問題用紙を裏返した。
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