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第10話 三人シフト
しおりを挟む日曜日。
オレ、灰谷、明日美ちゃんの三人シフトの日が来てしまった。
はあ~。
いつものように灰谷が自転車で家まで迎えに来てくれて二人で店へ。
バックルームで明日美ちゃんと顔を合わせる。
「おはよう、真島くん灰谷くん」
明日美ちゃんの明るい笑顔。
カワイイ。
つうか、気のせいかいつもよりカワイイ。
これも灰谷とのお付き合い効果なのかもしれない。
まさにキラキラだ。
オレは「おはよう~」と返す。
「はよ」っとボソッとつぶやく灰谷。
どんな顔してんのかな?とそっと盗み見れば灰谷はいつものポーカーフェイス。
このカワイさ見てその顔って、オマエ。
ある意味すげえな。
いや、ムッツリだろムッツリ。
二人がレジに入ってオレは入荷商品の補充をする。
しながらも、気になってやっぱりチラチラ見てしまう。
「いらっしゃいませ。お預かりします」
いつも通り、いや、いつもよりキラキラニコニコしながらテキパキレジをこなす明日美ちゃん。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
その隣りでこっちはいつも通りたんたんとレジをさばく灰谷。
二人にはこれといって大きな変化はなかった。
先週までと同じ。
拍子抜けするくらい。
デート一回したくらいでそんなに変わるわけもないのかも。
灰谷と明日美ちゃん。
--お似合いだった。美男美女。
そう灰谷にはこんな小さくてカワイイ子がよく似合う。
あ、でも……。
上目遣いで(まあ身長差があるから当然といえば当然だけど)灰谷を見上げる明日美ちゃんの嬉しそうな顔。
はあ~。
帰りたい。帰りたい。
でも、帰れない。
こんな時は仕事だ!声出しだ!
積極的に声出していこう。
「いらっしゃいませ~」
って体育会系かっての。
でも、商品補充だ前出しだ。
オレは余計なこと考えないように普段の1.5倍くらいのスピードで働いた。
で……ムダに疲れる。
辞めるってのも手だよな。
でもな、なんで辞めるんだって言われて灰谷が彼女といっしょにいるところを見たくないから、とは言えないし。いや言わねえけど。
つうかここ働きやすいし。新しい所に行ってまたイチからやるってのもめんどくさいしな~。
休憩時間。バックルームでイチゴオーレを飲みながらオレはそんなことを考えていた。
見るとも無く店内を映したモニターに目をやる。
あ!明日美ちゃんのレジにいる客、『この間近くに越してきました~また来ま~す』とか言ってたヤツじゃね?
オレの事をにらみつけたヤツ。
音声は聞こえないから何を言ってるのかはわからないけど、またなんかしきりに話しかけている。
明日美ちゃんはイヤな顔一つせずに相づち打ちながらレジをしている。
商品を袋に詰め終わってもその客は、まだ話していて、この間みたいお金を出そうとしない。
さすがの明日美ちゃんの笑顔も少し引きつっているように見える。
あのヤロー。
「店長……」
:--って、さっきまでウロウロしてたのにいねえわ。
あっ。
灰谷が明日美ちゃんをカラダで隠し、客の前に立った。
灰谷、なんか言ってんな。
「お客様、○○円頂戴します」をくり返し言ってるっぽい……。
男が灰谷に向かってなんか言い返しているようだけど灰谷は動じた様子もなく、客を見つめている。
そのうち客は灰谷の背中に隠れて見えなくなった明日美ちゃんをのぞこうとし始めた。
灰谷はカラダを入れて男の視線を遮る。
そしてまた「お客様、○○円頂戴します」をくり返している……ようだ。
背の高い灰谷から見下ろされ、ただただ無表情に同じセリフをくり返される事に耐えられなくなったんだろう。
男はやっとお金を出した。
灰谷はレジを打ち、お釣りの小銭を渡しながら客の手をギュッと握り、目を合わせて『ありがとうございました』と言ったようにオレには見えた。
『オマエ今度来たら殺す!』とは言ってないと思うけど。
客はそそくさと立ち去った。
我が友ながら怖っ!
オレがキャンキャン吠えるチンピラなら、まるでヤクザの兄貴分みたいだ。
目で殺す!なんつって。
客がいなくなると灰谷は首を後ろにひねって明日美ちゃんに何か話しかけている。
その時、明日美ちゃんの姿が見えた。
明日美ちゃんは灰谷の制服の裾をギュッと握りしめていた。
カワイイ…な。
さすがの灰谷でもカワイイって思うんだろうな。
『大丈夫?』
『うん。大丈夫。灰谷くんありがとう』
『うん……あのさ』
『ん?』
『いや、いいんだけど……』
『ん?』
『裾、離してくれない?』
『え?ああ、ごめんなさい。あたしったらつい……』
気がつけば店長が横にいて画面に合わせてアテレコしていた。
「なんすか。どこ行ってたんですか店長」
「ごめんごめん。トイレ。なんかあった?イチャイチャしてんね、あの二人」
「今、明日美ちゃんがヘンな客に絡まれてたんですよ」
「え?大丈夫だった?」
「灰谷が何とかしたみたいだけど。あの客、オレの時と今日で二回目だから気をつけたほうがいいですよ」
「そっか。今度来たら、僕が対応するよ。あとで録画見とくし明日美ちゃんにも言っとくね」
「っすね」
「で、それはそうと、灰谷くんと明日美ちゃんって付き合ってる?」
「!なんでわかるんすか」
オレはビックリした。
三十五歳独身、年中彼女募集中のサエない店長にもわかるんだ。
「わかるよう~。出てるじゃんラブラブオーラが。明日美ちゃんキラキラしてるし」
ラブラブオーラって……言い方……。
でもそう、言葉にするならキラキラ。
「真島くんフラれちゃったね」
「はあ~?」
「いや、僕は真島くんと明日美ちゃんかなって思ってたからさ」
「いやいや、狙ってないし」
「またまた~って。そんなことより真島くん、ちょっとここ座って」
「え?はい」
いつもヘラヘラしてるのにめずらしく真剣な顔。
何何?オレなんかした?
店長はPCをカチカチやって画面を立ち上げた。
「ものは相談。シフトなんだけど、曜日替わってもらう事ってできないかな」
「はい?」
「いやあ、山下君が辞めるって言ってきて。遅番のシフトがガタガタになっちゃったんだよ」
「はあ」
「で、ほら、真島くんも、二人がイチャイチャしてるとこ見るの辛いだろ」
「なんすかそれ」
「いや、ジョークだよジョーク。真面目な話、三人のうち一人、山下くんの所に移動してくれると、次が決まるまでオレがヘルプに入ればなんとか回るんだよね。すぐ募集かけるから……」
「いいっすよ」
オレはすぐに承諾する。
「ほんとに?」
「はい」
「二人とシフト別々になっちゃうけどいい?」
「いいっすよ別に」
「そっかあ。助かるわ~。ありがとう。真島くん、失恋は男の勲章だからね。元気出して」
「だから違うって!」
「さっそく明日から変更でもいいかなあ」
「いいっすよ」
明日美ちゃんに失恋したって思われてるのはどうかと思うけど。
でも。
やった!ラッキー!
これでバイト中、あの二人と顔を合わせずに済む。
あるんだな、こんなラッキー。
ハハハ。ハハハハハ。
……っていつまで逃げられるのか。
案の定、その日のバイト帰りに三人でメシを食って帰ろうと誘われた。
一回ぐらいは付き合わなきゃな、ってことでOKした。
しかし、オレには奥の手があった。
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