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第9話 知ること・想像すること
しおりを挟む明日美と別れてすぐに灰谷は真島に電話をかけた。
今度はすぐに真島が出た。
『なんだよ』
「オマエこそなんだよ。なんで帰っちゃうの。電話も出ねえし」
『言ったろ、三人で遊ばねえって』
少し不機嫌そうな真島の声。
「メシぐらい、いいだろ」
『よくねえよ。明日美ちゃんの気持ち考えろよ』
「はあ?」
『せっかく付き合い始めたんだぞ、二人で会いたいに決まってんじゃん。つうか二人でいたいから告ったんじゃねえのか』
灰谷は思った。
もしかして真島は高梨さんどうこうよりも、自分だけ外されたと思ってスネているのかもしれない。
「スネんなよ」
『スネてねえよ!なんだよそれ。三人でお付き合いとかできねえだろうが。それじゃ今までと変わんねえだろ』
「そりゃそうだけど……それにしたって逃げることないだろ」
『逃げてねえよ。遠慮したっつうんだよ』
真島から遠慮という初めて聞く言葉が飛び出した。
『わかってやれよ女心を。まああれだ……マンネリになって、新しい風でも必要にでもなってから誘えよ』
灰谷は中田の言葉を思い出した。
『まあオマエらべったりすぎるから、ちょっとここらで世俗の風でも入れてみろ』
「ったく……どいつもこいつも風風うるせえな」
『あ?よく聞こえない。カゼカゼどうしたって?』
「なんでもねえよ」
『おい灰谷……』
「んじゃな」
真島の返事も待たずに灰谷は電話を切った。
言われてみれば真島の言うことにも一理あった。
告白されてそれにOKを出すとはそういうことだった。
三人が二人に……。
灰谷自身あまり深く考えていなかったことに気がついた。
それにしても……オレ、なんでちょっとイラッとしてんだ?
「ん~。なんかもう、めんどくせえな~」
つぶやいて灰谷は一つため息をついた。
*
話してんのに電話切るってなんだよ灰谷のやつ。
なんだ?何イラっとしてんだ。
意味わかんねえ。
イライラしてんのはこっちだっつうの。
はあ~。
灰谷が連絡していたせいで家に帰っても夕食は用意されていなかった。
『買い物行ってないのよ~。お父さんも遅くなるって言ってたし、あんたいらないって聞いてたから~。しょうがないわね~これでも食べなさい』
母ちゃんに渡されたのはカップ麺だった。
足んねえっつうの。
ズルズル~。
あ、麺がのびてる。
なんだよこれもう~。
はあ~。
ズルズルズルズル。
マズイ…。
でも、まあいいや。
なんだかスネてると思われてる方がまだマシだ。
今日はなんとか乗り切った。
でもな。こんなこと続かねえだろうしな。
あんまり避けてるのもマズイだろ。
とりあえず、どうすっかな日曜日の三人シフト。
見たくねえなあ~。
灰谷と明日美ちゃんがいっしょにいるの。
はあ~。
女といる灰谷。
中学の時以来か。
オレと灰谷には中学時代、それぞれ彼女と呼べる女の子のいる時期があるにはあった。
大騒ぎするだろうから佐藤には話していないが。
今頃どうしてっかな。沙保里ちゃん。
まあでも中学生なんで待ち合わせて一緒に帰ったり、メールのやりとりをしたり、日曜日に何回かデートしたくらいで大したこともなかった。
それより何よりオレは女の子と付き合うって事自体がなんかテレくさくて、しょうがなかった。
せいぜい軽いキスどまりで自然消滅。
灰谷は……一個上の先輩だった。
なんかやたら積極的な子で。
さすがの灰谷も断りきれずって感じで。
で、すんげえ振り回されてたな。
灰谷、あいつあれで強く来られると断れないとこがある。
気が弱いんだか優しいんだか。
オレと似たようなもんだと思うんだけど、どうかな。
確か、灰谷くん何考えてるかわからないって、フラレたって言ってなかったっけ。
あの頃は、まだオレも灰谷への自分の気持ちにハッキリ気がついてなかった。
灰谷とコンビニでバイトしなきゃ、二人が付き合うとかもなかったのかもしれないな、と思う。
灰谷誘ったのオレだし。
遅かれ早かれいつかは来ることが来ただけのことだった。
灰谷に彼女ができる。
それが高梨明日美なら、たぶん悪くはない。
でも……でもさ。
断る理由がないから付き合ってる、のほうが良かったのか。
灰谷が好きで好きでたまらない女と付き合い始めた、のほうがよかったのか。
……それも地獄か。
いや、でも明日美ちゃんのことをどんどん好きになって行ったら。
いやいやどちらにしろ、オレには何もできないんだから。
ああもう……。
灰谷と明日美ちゃんのこと、知らなければなんともない。
たぶん怖いのは知ることだ。
そして想像することだ。
知らなければ、想像できなければ、それは存在しない。
たぶん……。
とにかく、オレ自身を守るためになんとかしねえと。
汁を吸って膨らんだカップ麺の中の揚げのようにオレの心もブヨブヨブヨブヨと醜い心で不格好に膨らんでいく。
チクショー食ってやる。
オレは揚げを一気に口に頬張った。
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