ナツノヒカリ ~親友への片思いをこじらせるDK真島くんのひと夏の物語~

カノカヤオ

文字の大きさ
87 / 154

第87話 バカなガキ

しおりを挟む
翌日の事だった。
バイトを終えて家に帰ると母ちゃんが玄関先でちょうど電話を切ったところだった。

「 まこと、あんた、結衣さんって子と付き合ってたってホント?」

オレの顔を見て静かな声で聞いた。

「え?うん」
「今、その子の親御さんから電話があって、あんたに妊娠させられて捨てられたって言ってる」

妊娠?
一瞬頭がパニックになった。
母ちゃんはオレの答えをじっと待っている。

「……付き合ってた。最近別れた。妊娠…は……ない……と、思う」
「どうしてそう思うの」
「ちゃんと避……避妊、してたから」
「とにかく、その子とそういう事があったのは事実なのね」
「うん」

母ちゃんは黙ったまま、しばらく何か考えていた。
そして言った。

「今から行くわよ、その子の家」
「え?」
「事実を確認して、謝るべきところがあれば謝るよ。こういうことは早いほうがいい。お父さんには後であたしから話す。あんたは制服に着替えなさい。髪もキチッとして」



――その日の母の姿をオレは一生忘れないだろう。

母ちゃんは結衣ちゃんの両親の前で畳に額をこすりつけた。
次々と浴びせられる結衣ちゃんの両親の言葉に、ただただ頭を下げ続けた。
オレのせいで。
オレも隣りで頭を下げた。
それしかできなかった。


結局、オレたちが最後にしてから一週間しかたっていなかったので、妊娠が確認できる時期まで待ってから、改めて話し合いをすることになった。
母ちゃんは娘さんともきちんとお話させて下さいと頼んだがそれは聞き届けられず、結衣ちゃんがその場に姿を現すことはなかった。


そのまま黙って二人、家まで帰った。
帰り道、母ちゃんは一言も口をきかなかった。

家の玄関を入ったところで、オレはこらえきれずに言った。

「母ちゃん、ごめん」

振り向いたと思ったら母ちゃんはオレの頬をビシリと叩いた。

「これは結衣さん分。これは結衣さんのご両親の分。これはお父さんとあたしの分」

三発、オレの頬を叩いた。

母ちゃんに叩かれたのはガキの頃以来だった。
頬が熱を持ってヒリヒリしてキーンと耳鳴りがした。
それだけ本気で叩かれた。

「痛っ。叩いたこの手も痛いわ」
「……ごめんなさい」
「男の子生んだ時から、もしかしたらこういうこともあるかもしれないって想像しなかったわけじゃないわ。
実際に体験するとは思っても見なかったけど」
「……」

何も言えなかった。
母ちゃんはオレの顔を見つめて言った。

「 まこと、人と関わるってね、こういうことなのよ。
人を深く傷つける事もあるの。
だからね、人とは誠実に向き合わなくちゃ。
もちろんあんたがそうしてなかったって言ってるわけじゃないのよ。
でもね、こんな風にするしかなかった結衣さんのことを思えば、おのずとあんたがどんな付き合い方をしていたかがわかる」

その通りだった。
そして始末の悪いことにオレには自覚もあった。

「起きてしまったことは変えられない。
これを機会にあんたは考えなさい。
人とどう向き合えばいいのかを」
「……うん」
「そして……もし結衣さんが本当に妊娠していたら。
私たちは結衣さんの望む、私たちに出来る限りのことをしなければいけないわ。
そこは、覚悟しなさい」
「はい」
「それとね、 まこと、あたしはあんたの親だからあんたが可愛い。
結衣さんのご両親だって結衣さんが可愛い。
だから今日のことで結衣さんのご両親を悪く思っちゃダメよ」
「うん」

母ちゃんにここまで言わせたことに、オレは泣けてきた。

「男は泣かない!」

そう言った母ちゃんも泣いていた。

「あたしも泣かない!」
「母ちゃん」
「何よ」
「母ちゃんの息子で良かったよ」
「でしょっ!だったらもうババアって言わないでよね」
「うん」
「さあ、今日は肉食べるわよ肉。力つけて頑張らないと」



その夜、母ちゃんから話を聞いた親父はオレの頬を一発殴ってからこう言った。

「男なら女を泣かせるな。母さんを泣かせるな。オレも謝りに行く」

似たもの夫婦。

でも、オレは愛されていた。

その夜、オレの頬はジンジンしてずっと耳鳴りがしていた。


翌日、結衣ちゃんの家から電話があった。
妊娠はなかったとの事だった。
きっと生理が来たんだろう。
わかっていたこととは言え、万に一つってこともあるし、正直オレは胸を撫で下ろした。

その話を聞いても母ちゃんは電話口で誠心誠意、謝っていた。 

(娘さんを不安にさせてしまって本当に申し訳ありませんでした)
(親であれば聞きたくないであろう話をお聞かせてしまったこと、本当に本当に申し訳ありませんでした)


情けなかった。
自分がしでかした事の重大さを改めて思い知った。

オレはガキだ。
バカなガキだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

処理中です...