〈はじめて〉の話。~片思いしていた同級生が深夜に訪ねてきた、からはじまる初体験の話~

カノカヤオ

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第20話

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テーブルの上に買ってきたペプシのペットボトルを並べ、オマケの袋を破って中身を確認する。

一つ目。ええと、なんかオッサンキャラのやつ。
次は…おっ、ミルクちゃん!でも、Tバックは白。普通のやつか。
次は…。

次々と開けてみたが、シークレットは出ない。
出ねえな。まあ出ねえか。
たんたんとくり返す。

なんでオレ、二つも出ちゃったんだろうなあ。
それで運を使い果たしたのかもしれないな。
だから…灰谷が…。

暗い考えに流れそうになった。
いかんいかん。
つうか、この格ゲー面白いのかよ。

「これ面白いのか?灰谷」

声に出して呟いていた。


『面白えよ』

耳元で灰谷の声が聞こえた。
そして背中からふわりと包みこまれる感覚がした。
後ろから抱き抱えられている、そんな。

灰谷だ!来てくれた。

『“野郎ども、天国の門にキッスしな。ミル~ク。ハニィ~。ヘブンズキ~ッス!”つって、ミルハニが二人同時にドロップキックすんだよ。で、パンチラ』


でも…姿は見えないんだな。

『つうかオマエ、こんなに買う前に触れよ』

オレは一瞬泣きそうになったが必死でこらえる。

「…何を」
『袋の上から触ればカタチで中に大体なんのキャラ入ってるかわかんだろ』
「ああ…なるほど」

オレは次のやつを袋の上から触ってみる。

「あ、これはミルハニのどっちかだ」

封を切ってみる。

「ハニーだ。シークレットじゃないけど」
『な?』
「だな」
『オマエそんなんでシークレット二つも持ってたの?どんなラッキー野郎だよ』
「うるさいなあ。つうか店で袋全部触ってみるわけにいかねえじゃん」
『そこはほら、カゴに入れるフリして、ささっとやるんだよ』
「ダセェ」
『そこまでやっても出ねえもんなんだぞシークレットって。オレなんかいくらつぎこんだか』
「オレ、持ってんだな」
『ああ。オマエは持ってんだよ』


言葉が途切れた。
沈黙はヤバイ。

「なあ灰谷」
『ん~?』
「ぶっちゃけオレのどこが好きなわけ?」

オレは一番聞いてみたかったことを灰谷にぶつけてみた。

『は?何そのドストレートな質問』
「いやあさ、オマエもオレのこと見てたとか言われても全然実感わかねえし。オマエ、ムッツリだよな」
『はあ~それがなんでムッツリになんだよ』
「だって普通わかるだろ、こいつオレに気があるな、とかって。それを気づかせないのって相当…」
『いやあ、だってさ、オレは普通に女の子好きだしさ』
「あ、オマエ~七瀬と付き合ってただろ」
『…バレた?』
「バレるわ。泣いてたぞ」
『あれなー』
「つうかオマエ、オッパイ好きだよな。好みにブレがない」
『それが、ブレちゃったんだよな』
「ん?」

『言っとくけどオマエのせいだからな。七瀬と付き合ったのも別れたのも』
「え?別れたの」
『夏休み前に告られて付き合い始めて、夏休み終わる前に別れた』
「は?何それ」
『別れたいつったら納得できないって言われて、顔見て話したいって。あの日深夜に呼び出されて、その帰りに…事故った』
「で、なんでそれがオレのせい?」

灰谷が押し黙る気配がした。

「だまんなよ。怖いから」

返事がない。

「灰谷!」
『オマエ…仲良すぎんだろ』
「は?」
『中田と佐藤と』
「ん?それが何?」
『…夏休み中、顔見れねえし。オマエはあいつらと楽しくやりそうだし。女とでも付き合うかってなるだろ』
「ならねえよ」
『あーあー泣かせちゃったよ七瀬。オレ、あいつん中で一生ワル者じゃん』

つうか、一生忘れられないんじゃねえの。チクショウ。

「ざまあみろ。つうかオマエだって、仲いいじゃん」
『あ?』
「竹中と斎藤。今日、号泣してたぞ竹中」
『あいつは涙もろいんだよ』
「オレは…泣かねえ」
『そうか』
「泣いてほしい?」
『いや』
「だよな。で?」
『何?』
「オレのどこが好きだよ」

灰谷はまた黙りこんだ。

「だんまりやめろ。姿見えねんだから」


…長い。

『おい灰谷。ホント、怖いからやめろ」

沈黙は長く続いた。

もしかして、もう行っちゃったのか?と思ったら声が聞こえた。


『秘密』
「え?」
『秘密だ』
「秘密って」
『今度、ここではない場所で、オマエがオレを忘れずにいて、また会えたら話してやるよ』
「忘れずにって忘れられるわけないだろ。また会えたらって…」

灰谷が笑ってオレの髪を撫でる気配がした。

「…会うよ。会えるよ。会いに行くよ。だから…ちょっとだけ待っててよ」
『おう!』

オレは唇を噛み締める。
泣かねえ。泣かねえ。


『…あれ?真島、オマエ泣いてる?〈オレは泣かねえ〉んじゃなかったの』
「泣いてねえわ」
『そうかあ~。泣いてるオマエもカワイくていいんだけどなオレ』
「つうか、オマエの前で泣いたことないだろ、オレ」
『あれ?覚えてないの。灰谷…灰谷…灰谷…って涙ポロポロ流しながら、しがみついてきたじゃん』


あ!あれは…幸せすぎたからだ。
幸せすぎて怖かったから。

「……知らねえ」
『オマエの涙、しょっぱかったわ』
「汗だろ」


『真島』
「ん?」
『真島』
「何?灰谷」
『オレ、オマエが灰谷ってオレの名前呼ぶ声、好きだ』


声って…なんだよ。
声じゃなくてさ。声じゃなくて…。
灰谷、オマエ、オレに大事な言葉まだ一度も言ってない…。


『つうかオマエ、服脱げ』
「なんで」
『いいから。見てえのオマエのカラダ』
「さんざん見ただろ」
『見た。でも見たりねえ』

そんなこと言ったらオレもなのに……。

『真島……頼むよ』

そんな切羽詰まった声出されたら断れない。
オレは立ち上がってTシャツを脱いだ。

『下も脱げよ』
「…いいけど」


オレは全裸になって一人部屋に立つ。

まとう物が何もなくなったカラダは少し心細く、落ち着かなさもあり。
でも妙な開放感もある。
灰谷の姿は見えないけれど熱い視線は感じる。
全身にひしひしと。


灰谷と抱き合った時に感じたこと。

裸になってカラダの一番敏感な部分を合わせるのってなんて幸せなことだろうってこと。
それこそ灰谷が言ったように、何もかも全部さらけ出して、奪われて、奪って。
そして受け取った。
灰谷の心を気持ちをカラダを。

それは幸せな時間だった。



『うん。……キレイだ真島』

灰谷の言葉を聞いた途端、オレは恥ずかしくなる。

「……キレイって…女じゃねえんだから」

『キレイだ。生きてる。生きて呼吸するオレの真島だ』
「灰谷…」

『オレのつけた〈しるし〉薄くなってんな』

淋しそうな灰谷の声。

そうだ薄くなっていつか消えてしまう。
イヤだ。

「つけ直す」

オレは、自分の腕の内側に残っていた痕にチューっと吸いつく。

『バカ。やめろ真島』
「イヤだ」
『…ムダだ。いつか消える』
「イヤだ…」

オレは灰谷に愛された自分のカラダを抱きしめる。

灰谷の姿が見えない。
灰谷の顔が見たい。
灰谷のカラダを見たい。

灰谷。灰谷。灰谷。
涙があふれてきた。

『泣かねえつったろ。泣くな。笑ってろ』
「笑えるか!」

涙が次から次へとあふれて止められない。

『真島ぁ』
「…灰谷ぃ…」
『真島』
「灰谷ぃ~」
『真島……キスしたい』
「うん……されたい」

オレの顔のそばでふわりと空気が動いたような気がした。

『オマエの目を見て…頬に触れて…』

オレは目には見えない灰谷を感じようとする。
灰谷の目を手を吐息を。

ふわり熱く空気が動いて、オレはキスされた。
そう感じた。



『真島、首、絞めてごめん』
「いいよ」

『オレも忘れない』
「うん」

『忘れられない』
「うん」

『オレの真島だ』
「うん」


その日、灰谷の姿は見えなかった。
でもオレが話しかければ灰谷は答えてくれた。
姿は見えなかったけど、そこには灰谷の濃密な気配があった。
灰谷がオレを見つめている。寄り添っている。そう感じた。
姿の見えない灰谷に包まれて、その日もオレは眠った。

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