姫君は幾度も死ぬ

雨咲まどか

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1.緑色と蜂蜜色

姫君は城を出る

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「どこで手に入れたんですか、ロープなんて」

 バルコニーの隅にロープを結びつけながらサンザシが声を潜める。
 デイジーは暗闇の中でこそこそと行動するのが面白くなり、内緒話をするようにサンザシの耳朶に唇を寄せた。

「使用人を脅したの」

「ほんとですか?」

「うそうそ、ちゃんとお願いしたよ。厩舎にいたロナルドさんに」

「そうですか」

「何に使うんですか? って聞かれたから、悪戯に使うって答えたら納得してくれた」

「……日頃の行いってそんな所で役立つんですね」

「えへへ」

「褒めてませんよ」

 照れくさそうに頬を緩めるデイジーに、サンザシは肩を竦めた。
 冷たい風が髪を翻す。デイジーはふとあたりを見回した。

「バルコニーに立つの、久しぶり」

「危ないですからね」

「うん」

 ゆっくり頷いて、デイジーは景色を目に焼き付けた。
 バルコニーだけでなく、高所に立つことはサンザシから禁止されていた。落ちそうになった時に助けて貰ったり、落ちてしまった時に受け止めて貰ったりを繰り返している内に、もう高いところに行くなと言われてしまったのだ。

 夜の帳の中で月が輝いている。家の明かりがあちこちに見えて、沢山の国民が日々を送っているのだとなんだか胸が熱くなった。
 クローチアのために、自分は何を出来たのだろうか。王女として、一人の国民として。
 きっと帰ってこようと思った。呪いを解いて、国の希望となれるように。
 デイジーはきゅっと拳を握りしめ、大きく呼吸をした。肺が空っぽになるまで、長く熱い息を吐く。

「ところでサンザシは、どんな魔術が使えるんだっけ?」

 ロープを下に垂らし終えたサンザシに向かって問いかける。

「簡単な三大魔術くらいですかね。……姫様は準備万端なのか万端で無いのかわかりませんね」

 三大魔術とは、最も使える人が多いと言われる、炎、水、風の魔術の事だ。デイジーはどれも使うことが出来ないが。

「そう?」

「城内の見張りには詳しいのに、私の魔術は知らないではありませんか」

「だって、サンザシが手伝ってくれるとは限らなかったから。――あ、急がなきゃ」

 ロープの方へ近づくデイジーの腕をサンザシが掴んだ。

「私が先に下ります。姫様は私が合図をしたら荷物を落として、ゆっくり下りてきて下さい。私が魔術でサポートしますから、くれぐれもご慎重に」

 サンザシの蜂蜜色の瞳があまりに真剣で、デイジーは反射的に首肯した。

「二階だし、ちょっと落ちたくらいじゃ死にはしないと思うけどなあ」

 デイジーが小さく独りごちると、サンザシはどこか寂しそうに少しだけ笑った。

「打ち所が悪ければ、死んでしまいますよ」

「うん、ごめん」

 反論を飲み込んで、デイジーはロープを伝って下りてゆくサンザシを見守った。魔術を使っているのか、彼はするすると静かに地面に降り立ち、周囲を確認するとデイジーに向かって手を上げた。
 二袋分の荷物を放り投げてから、デイジーもサンザシに続く。おてんば姫の名は伊達ではない。呪いを受けるまでは木登りも得意だった。ロープで二階から下りるくらい、なんてことはない筈だ。

 気合いを入れてロープにぶら下がると、急にふわりと身体が軽くなった。サンザシの魔術だ、とすぐに合点がゆく。
 その瞬間、強風が駆け抜けロープが大きく揺れた。しがみつくと、ロープがぎりぎりと音を立てる。と思うと、視界が真っ白に染まった。
 どこからか飛ばされてきた大きなシーツがデイジーの頭に覆い被さっていた。強い衝撃に思わずロープから手を離す。真っ逆さまに落ちていったデイジーの身体とシーツは、サンザシによって受け止められた。

「びっくりし……」

 言いかけて、デイジーは自分の口を両手で覆った。もぞもぞとシーツから這い出して、下敷きにしてしまっているサンザシの上から下りる。

「ごめんなさい、ありがとう」

「お怪我はありませんか」

「サンザシのお陰で」

 声を潜めて眉をハの字にするデイジーにサンザシは目を細めた。立ち上がり、シーツを持ち上げる。

「昼間、東塔で纏めて洗濯をしていましたから、それが飛んできたんでしょうね。――誰か来たかもしれません」

 サンザシはデイジーの手を取り、荷物を抱えて植え木の影に身を隠した。デイジーも背を丸めて息を潜める。
 しばらくすると規則正しい足音が聞こえてきた。几帳面な兵士のトムだ。城の警備を担当している兵士の名前はほとんど覚えている。
 デイジー達のいる植え木の近くまで来たトムが足を止めた。心臓がばくばくと五月蠅くて、デイジーはサンザシに身を寄せる。

「なんだ?」

 トムが声を上げると同時に、ずるりと何かを引きずる音がした。シーツを拾ったようだ。トムは一度広げてから綺麗に折り畳み、また歩き出す。シーツに気を取られてロープには目が行かなかったようだった。
 ほっと息をついてデイジーはサンザシの肩にもたれ掛かった。

「はーよかった。サンザシもどきどきした?」

 月明かりに照らされている横顔を見上げたのち、彼の左胸に耳を押し当てる。速い鼓動が伝わってきてちょっとだけ笑えた。こんなに涼しい顔をして、不安だったんだなあ。

「姫様」

「なに?」

「くっつきすぎです」

「――わあ!」

 言われて、デイジーは自分の体勢にようやく気が付いた。慌てて離れると「静かに」と注意が降ってくる。
 サンザシはロープの結び目の辺りに向かって右手を掲げた。小さく炎が上がって、燃えて千切れたロープが落ちてくる。それを受け止めて植木の影に隠すサンザシの背中に、デイジーは腕を組んだ。

「魔術が使えるなら、風の魔術で下まで運んでくれればよかったのに」

「そんな高等魔術使えませんよ。ちょっと支えるくらいが精一杯です」

「……私が重たいとでも」

「姫様、私と体重同じくらいでしょう」

「サンザシが細すぎるの!」

 淡々と言いのける従者の華奢な腕を叩いてデイジーは口を膨らました。
 サンザシは荷物を持って周囲を見渡した。

「それで、これからどうするんです?」

「……とりあえず裏庭に回る?」

「わかりました」

 小首を傾げて言うと、サンザシは何か言いたげだったが頷いてくれたのでデイジーは胸をなで下ろした。危ない危ない、大した計画を練っていなかったことがばれる所だった。

 壁に張り付くようにしながら裏庭へ向かう。前を歩くサンザシのくすんだ金髪を追いかけながら、デイジーは顎に手を当てた。

「サンザシ、空とか飛べないの?」

「……さっきも言いましたが、私はあまり魔術の才能がないのですよ」

「うーん」

 デイジーの考えた家出計画において、一番の問題点はいかに城壁を越えるのか、ということだった。城門付近は突破困難だ。裏門も厳重に警備されているから、城壁を乗り越えるのが一番可能性がある。

 もっと警備が手薄な時だったとはいえ、二年前にサンザシは何らかの方法でこのクローチア城に侵入したのだ。侵入出来たということは、出る方法も持っているのではないかと考えたのだが、少し安直だったかもしれない。初めから城から逃げ出す気は無かった可能性も十分ある。なぜならこの二年間、サンザシが城を抜け出そうとしているところを一度も目撃したことどころか、噂も聞いたことがないのだ。

 よく考えればサンザシがクローチア城に侵入した目的もデイジーは聞いたことが無い。国王の寝室で捕らえられた事から、暗殺目的か国家機密の盗取が目的なのではないかと家臣達は推測していたが、訊ねようとは思わなかった。暗殺など子どもが任されるとは思えなかったし、王族はもちろん誰の事も絶対に傷つけたりしないと約束したから、それでよかったのだ。スパイ行為への疑惑も、サンザシがデイジー以外の王族や貴族に近付かない事や立ち入れる場所を制限することで納得して貰った。

 はた、とデイジーは自分で自分の過去の行動に疑問を抱いた。思えばどうしてこんなにも、必死になってサンザシを従者にしたのだろう。

 裏庭に近づくと話し声が聞こえてきた。影に潜んで様子を伺うと、兵士の後ろ姿が二つ並んでいた。細長い体格がピーターで、太り気味なのがロックだ。二人とも若い兵士で、デイジーとも気さくに話をしてくれる。気さくすぎてよく怒られていたが。

「聞いたか? カトレア様がダムバリーに嫁に行くかもしれないんだと」

「はあ?」

 ロックが切り出した話題にピーターは頓狂な声を上げた。デイジーも喉まで出てきた言葉を寸前の所で嚥下する。
 カトレア姉様がダムバリーに? そのような事はデイジーだって初耳だ。

 ダムバリーは近年強い力を持ち始めた都市国家だった。水路に囲まれたあまり大きくもない城郭都市だが、国民のほとんどが魔術師であり、その魔術を利用して見る間に力を付けていった。クローチアにも魔術師はいるがほんの一握りであり、国の今後を考えるとダムバリーを味方に付けておくのは確かに良い考えだと思われた。
 しかし、姉であるカトレアが政略結婚に使われてしまうなどとは。
 ピーターが大きなため息を吐く。

「カトレア様が……そんなあ。クローチアの華なのに……」

 そういえば姉は城内の男性達から非常に人気があったのをデイジーは思い出した。見目麗しく、淑やかで気品のある姫君であると羨望の的だった。
 デイジーははっとして、胸を押さえた。
 本来、第二王女である自分が受けるべき縁談だったのではないか。
 世継ぎの弟はまだ幼い。しっかりと教育を受けてきたカトレアが城に残り、自分が嫁に行けば。

 カトレアは、呪いを掛けられたデイジーのことを酷く心配してくれていた。縁談がデイジーの耳に届かなかったのは、カトレアが気を遣ったからなのではないのか。呪われた姫など、政略結婚の駒にすらならないのだ。
 デイジーは、黙って城を空けようとしている自分が恥ずかしくなった。エプロンドレスを見下ろして、唇を噛む。
 落ち込んでいられない。どちらにせよ、城に残っても迷惑を掛けるのだ。

 ピーター達がお喋りに夢中になっている内に背後を通り抜けようと、サンザシに目で合図を送る。
 慎重に裏庭を抜け、デイジーは額の汗を拭った。辿り着いたのはデイジーの庭だった。ラズベリー畑にサンザシを引っ張り身を隠す。這うように奥へ進み、一本だけある広葉樹の下で止まる。

「この木、いつの間にかこんなに成長したの」

 庭いじりを始めたばかりの頃、作業中だった庭師から木の苗を一つ盗んで勝手に埋めた。中々育たずにいたのだが、異常気象を受けてか気が付くと信じられない早さで成長し、今では城壁にも届きそうな程背が高くなった。城壁付近に木を生やすのはよくない事ではあったが、せめて花が咲くまで、とデイジーが懇願して許して貰ったのだ。

「これを登って、城壁に飛び移って、そっちの大きい方の荷物は中身が毛布だから広げて、そこに向かって落ちるという計画」

 上目遣いになってサンザシの顔を伺うと、彼は何度か瞬きしてそれから口の端で笑った。

「……無謀だって思いませんでした?」

「すっごく思った。だからサンザシが付いてきてくれてほんとによかった」

 神妙な顔で言うデイジーに、サンザシは髪をくしゃりとかき混ぜた。

「また私が先に行きます。姫様は付いてきて下さい」

 そう告げると、サンザシは荷物を背負い木の幹にしがみついて軽々と登っていった。木の上から辺りを見回して、デイジーに手を伸ばす。デイジーはスカートの裾を縛り、急いで木を登って彼の手を取った。引っ張り上げられたと思うと、膝の裏に腕を回され横抱きにされる。

「ちょ、ちょっとサンザシ」

「大丈夫です、魔術で軽くしていますから」

 そういう問題じゃない、のだけど。デイジーは口内でもごもごと言って、サンザシの首に腕を回した。

「このまま飛び降ります。目を閉じていて下さい」

 何故目を閉じる必要があるのかと思ったが、そのような事をいっている場合ではないとデイジーは素直に瞼を下ろして彼の首筋に鼻先を埋めた。汗とサンザシの匂いがする。

「――はい、もういいですよ」

「え?」

 ほんの一呼吸ほどの時間だった。なんの衝撃もなく、デイジーが目を開けるとそこは城壁の向こう側だった。
 サンザシはそっとデイジーを下ろすと、そのまま手を取って走り出した。

「すぐに城から離れなければ。行きますよ」

 デイジーは理解の追いつかないまま、彼に引かれるままに地面を蹴った。分厚い雲が月に掛かって、闇が深まる。繋がれた手に力を込めた。放したら、彼がどこか遠くに行ってしまうような気がした。
 どれくらい走ったのだろう。
 息が上がり、右手の感覚がおかしくなって、どうしようもなく長いものであったような、それでいてほんの短い間であったような時間が、終わりを告げる。振り返ると城はもうほとんど見えなくなっていた。
 道の隅に腰を下ろして、どちらともなく手を放した。
 デイジーは呼吸を整えながら空を見上げた。降り注ぎそうな星空に息を飲む。本当に、城を抜け出してしまった。

「どこへ向かいますか」

 額の汗を袖で拭い、サンザシがまるで独り言みたいに呟いた。

「ダムバリーに行こうと思う」

 なんと言っても、世界一の魔術都市だ。時の魔術師を探すのなら、最も手っ取り早いとデイジーは推測していた。――それに。
 デイジーはサンザシの感情の読めない横顔を一瞥した。
 ダムバリーは彼の故郷なのではないかと以前からデイジーは考えていた。サンザシこそあまり魔術は得意で無いようだが、彼の仲間だと思われた魔女は自身の命と引き替えであったとはいえ死の魔術を使ったのだ。人を呪う強力な魔術。使える者がいるとすれば、ダムバリーくらいしか思い浮かばない。

 サンザシはデイジーの思惑を知ってか知らずか、抑揚の乏しい声を響かせる。

「ではこの先の農村を通って、北西に進みましょう。馬でも調達出来ればよいのですが」

 言いながらサンザシは立ち上がってデイジーに手を差し出した。首を傾げると強引に引っ張られる。

「どうしたの?」

「いつまでもこんなに人目に付くところにいられませんよ。森の奥に入って朝を待ちましょう」

 確かに、このような夜更けに子どもが二人で座り込んでいれば不審に思われてしまうだろう。デイジーは納得して、重たい足を動かした。呼吸も思考も、ようやく落ち着きを取り戻してきていた。

 少し歩いた先でサンザシは荷物を広げた。小さな毛布をデイジーに手渡して自身は木の幹に座り込む。

「明日も歩きますから、少し眠って下さい」

「サンザシは」

「私は一度仮眠を取っていますから」

「……少し寝たら交代する」

「はいはい」

 横になるよう促され、デイジーは毛布にくるまった。彼に背を向けてごつごつした地面に寝転がる。

「ごめんなさい」

 謝罪の言葉は、冷えた夜の空気にぷかりと浮かんだ。何も答えないサンザシにデイジーは続ける。

「もし呪いが解けたら、今度は私がサンザシのこと、守ってあげるから」

 やっぱり返事は返ってこずに、デイジーはそっと目を閉じた。

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