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第三章 灰色の対極
3-7 輸血関係
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「それなら、どうして魔法教室こなかったのさ」
不貞腐れた表情をしながら、僕の顔を見つめる葵の視線を痛く感じる。きちんと訳を説明すれば、納得してくれるだろうという想像はつくだろうけれども、先ほど誤魔化したのは、葵に心配させたくないという気持ちからだ。それを話してしまえば、また彼女は以前のように困ったような表情になるかもしれない。それがどこか不安で仕方がない。
「ええと、その……」
ここまで来て、誤魔化そうとする自分に嫌気がさす。ここで話をして、そうして自分の気持ちにケリをつけると、そう考えていたのに、そもそも話すことができていない。それなら、ここに来なければよかったのに。
「……また、難しそうな顔してる」
「……そんなに顔に出やすいのかな」
最近、いろんな人に表情を見つめられて、その心中を悟られているような気がする。葵はもちろん、立花先生や、そこまで関わりもない明楽にまで。雪冬も不審な顔で僕の表情を見つめるのだから、僕の表情はそこまで悟りやすいものなのだろうか。
「うん、すごく表情に出る。困っているのに、困っていません、ってそんな顔をするから、尚更心配になる」
「……はは」
笑うしかない。悟られないために表情を作っているというのに、作っているからそう悟られるなら、取り繕う意味ももうないのかもしれない。
「環はさ、困っているときは困っている、ってなかなか言えないもんね。ずっと昔から一緒にいるから、私はよくわかるもん」
「……そう、だね」
僕だって、葵が困っているときとか、苦しんでいるときは表情で悟ることができる。葵だって、僕と同じように苦しい顔を隠すように過ごしているから、尚更だ。
そんな彼女がいるのに、自分だけが困っている、苦しい、だなんて、そんなこと他人に言えるはずもない。
「──私だけなんだよ?」
「──え?」
葵は、言葉を続けた。
「私だけが、環のことを理解できるんだ。私以外には環のことは理解できないんだ。環が困っていても、ほかの人は知らんぷりするよ。それが普通だと私も思うし。
でも、私だけは別だよ。幼馴染だから、ずっと環と一緒にいるから、いつだって助けたいって思ってるし、私も環に助けられたいなって思ってる」
「……うん」
「私、環を生き返らせた責任があると思う。環を魔法使いにした責任があると思う。だから、環が抱える苦悩も、煩悩も、私が受け止めなきゃいけないって、そう思うんだ」
「……煩悩は余計だと思うけどね」
「その割には環さん、私の胸を触りましたけどね」
「……いや、本当すいませんでした」
ふふ、と葵は笑う。僕もそれにつられて笑いそうになるけれど、そうすることを自制する。
ここまで葵に言わせているのに、それを飲み込むことの違和感が強い。それを飲み込んでしまっていいのか、どこか自分の気持ちに疑心が宿る。
そこまで、都合のいいように生きていいのか、未だに迷い続けている。
僕は在原 環だ。そう思っている。でも、在原 環ではない疑心を持ったまま、在原 環として彼女にかかわっていいのか、それがよくわからない。
彼女と過ごしてきた記憶は、きっと本物だと思う。でも、彼女が過ごしてきた在原 環が、今の自分自身であると、本当にそういうことができるだろうか。
そもそも、僕は本当に在原 環なのだろうか。一度死んだ身に、そのまま魂は同一に宿るものなのだろうか。
葵に助けてもらってから、どうしようもなくそんなことが頭の中にさまよい続けている。反芻し続けている。お前は本当にお前なのかと、劣等感が問いかけるようだ。
母にいろいろなことを聞いた。その上で自分自身が自分自身なのか判別がつかないから、どうしようもなく怖いのだ。
もう、魔法なんて使えなくてもいい。でも、自分自身の正体を知る安心感をくれないか。それだけで自分自身が救われる感覚がする。でも、それを知ってしまえば、もう二度と後戻りはできないような気がする。
葵が、そのすべてに責任を持つといった。本来なら僕が彼女に生かしてもらった責任を負うべきなのに、彼女はそれをさらに抱擁するように言葉を紡いでいる。
それで、いいのだろうか。
本当に、それでいいのだろうか。
「──いいんだよ」
葵は、言葉を発する。
すべての僕の迷いの気持ちを飲み込むように、僕を堕落させるように、そう一言をつぶやく。
「すべて駄目でも、私は全部受け入れてあげる。環が嫌でも、私、全部受け入れる。本当はそんなことしたら駄目なのかもしれないけれど、それでも私は環と生きていくんだ」
「──それが、どうしようもない末路をたどるとしても?」
「どうしようもない末路なんて、もう環が生きてくれている時点で存在なんかしないよ」
笑い声が聞こえる。その笑い声に安心感を覚える。少しばかり依存しそうな気持ちが芽生える。
「だからこその輸血関係じゃん。私たち」
「輸血関係……」
すべてはそこから始まった。だからこその、彼女と僕の今の関係だ。
それならば……。
「ありがとう、整理はついた」
彼女に、言葉を紡がなければいけない。自分の気持ちを、きちんと紡がなければいけない。
そうすることが、彼女の優しさに対して報いることなのだから。
不貞腐れた表情をしながら、僕の顔を見つめる葵の視線を痛く感じる。きちんと訳を説明すれば、納得してくれるだろうという想像はつくだろうけれども、先ほど誤魔化したのは、葵に心配させたくないという気持ちからだ。それを話してしまえば、また彼女は以前のように困ったような表情になるかもしれない。それがどこか不安で仕方がない。
「ええと、その……」
ここまで来て、誤魔化そうとする自分に嫌気がさす。ここで話をして、そうして自分の気持ちにケリをつけると、そう考えていたのに、そもそも話すことができていない。それなら、ここに来なければよかったのに。
「……また、難しそうな顔してる」
「……そんなに顔に出やすいのかな」
最近、いろんな人に表情を見つめられて、その心中を悟られているような気がする。葵はもちろん、立花先生や、そこまで関わりもない明楽にまで。雪冬も不審な顔で僕の表情を見つめるのだから、僕の表情はそこまで悟りやすいものなのだろうか。
「うん、すごく表情に出る。困っているのに、困っていません、ってそんな顔をするから、尚更心配になる」
「……はは」
笑うしかない。悟られないために表情を作っているというのに、作っているからそう悟られるなら、取り繕う意味ももうないのかもしれない。
「環はさ、困っているときは困っている、ってなかなか言えないもんね。ずっと昔から一緒にいるから、私はよくわかるもん」
「……そう、だね」
僕だって、葵が困っているときとか、苦しんでいるときは表情で悟ることができる。葵だって、僕と同じように苦しい顔を隠すように過ごしているから、尚更だ。
そんな彼女がいるのに、自分だけが困っている、苦しい、だなんて、そんなこと他人に言えるはずもない。
「──私だけなんだよ?」
「──え?」
葵は、言葉を続けた。
「私だけが、環のことを理解できるんだ。私以外には環のことは理解できないんだ。環が困っていても、ほかの人は知らんぷりするよ。それが普通だと私も思うし。
でも、私だけは別だよ。幼馴染だから、ずっと環と一緒にいるから、いつだって助けたいって思ってるし、私も環に助けられたいなって思ってる」
「……うん」
「私、環を生き返らせた責任があると思う。環を魔法使いにした責任があると思う。だから、環が抱える苦悩も、煩悩も、私が受け止めなきゃいけないって、そう思うんだ」
「……煩悩は余計だと思うけどね」
「その割には環さん、私の胸を触りましたけどね」
「……いや、本当すいませんでした」
ふふ、と葵は笑う。僕もそれにつられて笑いそうになるけれど、そうすることを自制する。
ここまで葵に言わせているのに、それを飲み込むことの違和感が強い。それを飲み込んでしまっていいのか、どこか自分の気持ちに疑心が宿る。
そこまで、都合のいいように生きていいのか、未だに迷い続けている。
僕は在原 環だ。そう思っている。でも、在原 環ではない疑心を持ったまま、在原 環として彼女にかかわっていいのか、それがよくわからない。
彼女と過ごしてきた記憶は、きっと本物だと思う。でも、彼女が過ごしてきた在原 環が、今の自分自身であると、本当にそういうことができるだろうか。
そもそも、僕は本当に在原 環なのだろうか。一度死んだ身に、そのまま魂は同一に宿るものなのだろうか。
葵に助けてもらってから、どうしようもなくそんなことが頭の中にさまよい続けている。反芻し続けている。お前は本当にお前なのかと、劣等感が問いかけるようだ。
母にいろいろなことを聞いた。その上で自分自身が自分自身なのか判別がつかないから、どうしようもなく怖いのだ。
もう、魔法なんて使えなくてもいい。でも、自分自身の正体を知る安心感をくれないか。それだけで自分自身が救われる感覚がする。でも、それを知ってしまえば、もう二度と後戻りはできないような気がする。
葵が、そのすべてに責任を持つといった。本来なら僕が彼女に生かしてもらった責任を負うべきなのに、彼女はそれをさらに抱擁するように言葉を紡いでいる。
それで、いいのだろうか。
本当に、それでいいのだろうか。
「──いいんだよ」
葵は、言葉を発する。
すべての僕の迷いの気持ちを飲み込むように、僕を堕落させるように、そう一言をつぶやく。
「すべて駄目でも、私は全部受け入れてあげる。環が嫌でも、私、全部受け入れる。本当はそんなことしたら駄目なのかもしれないけれど、それでも私は環と生きていくんだ」
「──それが、どうしようもない末路をたどるとしても?」
「どうしようもない末路なんて、もう環が生きてくれている時点で存在なんかしないよ」
笑い声が聞こえる。その笑い声に安心感を覚える。少しばかり依存しそうな気持ちが芽生える。
「だからこその輸血関係じゃん。私たち」
「輸血関係……」
すべてはそこから始まった。だからこその、彼女と僕の今の関係だ。
それならば……。
「ありがとう、整理はついた」
彼女に、言葉を紡がなければいけない。自分の気持ちを、きちんと紡がなければいけない。
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