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第四章 異質殺し
4-10 そうして彼は
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◇
観覧車は軋んだ音をあげていた。時折、風が吹けば、その流れに身を任せて揺らされる感覚があった。
高いところが苦手だったことを思い出す。けれど、いつからかそんな恐怖に対して向き合うことにも、だんだんと慣れが出てきたことに、勝手に笑ってしまいそうになる。
町は夕焼けに彩られている。遊園地近隣の街並みも、この観覧車から全体を眺めることができている。
もしかしたら、自分の家だった場所、自分の学校だった場所、自分の場所になろうとしていた教室、自分の場所になってしまった教会も、この観覧車から覗くことができるのかもしれない。だが、それを覗いたところで、何かが解決するわけでもない。
俺は、本当にこのままでいいのだろうか。
対極が、俺の中にかすかに残っている対極の意識が、──いや、俺自身が迷い続けている。
対極はそこにはいない。俺が勝手に演出しているだけだ。孤独に迷い続けている自分を補うために、ただそんな自分を想像しているだけにすぎない。
自分自身に問いかけるさまは、まさに滑稽としか言えないものだ。でも、そうすることでしか俺は生きていけないのだ。
どこまでも孤独を感じるのだ。疎外感を覚えるのだ。人とはいつまでも孤独でしかない、という言葉が心の中を埋め尽くしていく。
劣等感が心の中へとわだかまる。
魔法使いという存在に未練があったのだろうか。そうではないだろう。でも、魔法を使うことができれば、魔法使いではなくとも、悪魔祓いという存在でなければ、俺は葵と一緒に過ごすことができたはずなのだ。
俺が魔法を使うことができたのならば、……そんな非現実的なことを可能性を頭の中で考えても仕方がない。
仕方がないということを頭の中で理解していても、何度も何度も繰り返して、思考してしまうのは止められない。いつまでも、いつまでも止められない。
くだらない思考だ、くだらない思考でしかない。醜い現実逃避であり、手に入らないことをわかっているからこそ、よりそれを強く求めて仕方がない。
魔法に恋い焦がれているわけじゃない。使うことができれば、それだけで俺は報われて──。
俺はため息をつきそうになった。その衝動を抑え込んで、高い景色の中に包まれようとしている天音の姿を視界に入れた。
天音は外の景色をぼんやりと眺めながら、落ち着いた姿勢を探しているようで、ちょこまかと座席の上で動き続けている。彼女が姿勢を変えるたびに観覧車は少し揺れてしまう。それにドギマギしてしまう自分を恥じながら、俺はただ外の景色を眺めることにした。
目の前にいる彼女は、そんな孤独を振り払うように、ずっと俺に寄り添い続けている。俺を孤独にしないために、ずっと一緒にいてくれる。
この半年の間、彼女と毎日を過ごしてきた。
孤児院で働いていた毎日、毎回訪れる休日の時、そうじゃない時でさえも、彼女は俺を一人にしようとはしなかった。俺には天音がいる、ということを何度も俺に教えてくれていた。
本来、彼女は俺と一緒にいるべきような人間ではない。というか、役職ではない。
朱音は、別に俺だけをイギリスに勧誘していたわけじゃない。悪魔祓いの立場にいる魔法使いである天音にだって、もちろん声をかけていた。
けれど、天音はそれを断っていた。俺と同じように、朱音のお願いを断っていた。『お姉ちゃん』と呼び慕っている朱音のお願いを、彼女は断り続けていたのだ。
彼女が断っていた理由はなぜか。そんなのは考えなくともわかる。俺がこの世界に取り残されないようにという、それだけの思惑で彼女は俺と一緒に過ごしてくれているのだ。
──このままでは、いけない。
対極を受容したときに決意したはずだ。
葵との別れを受け入れたときに、決意していたはずだ。
すべての別れを受け入れたはずだ。
ここにいても、何かが成し遂げられるわけじゃない。
ここにいても、何か意味が生まれるわけじゃない。
俺は悪魔祓いだ。悪魔祓いなのだ。
悪魔祓いとしてしか、生きていくことはできないのだ。
それを変えることはできない。運命のようなものなのだ。受け入れることでしか生きていけないのだ。
だから、すべてを受け入れろ、受け容れろ。
俺はここに残るべきではない。
──けど。
「……はは」
乾いた笑いがため息に紛れて漏れてしまう。天音は俺の声に反応して、目線をこちらへと動かしてくる。
ここで格好をつけても、どうしようもないだろう。
俺は、天音の目を見つめた。
観覧車は軋んだ音をあげていた。時折、風が吹けば、その流れに身を任せて揺らされる感覚があった。
高いところが苦手だったことを思い出す。けれど、いつからかそんな恐怖に対して向き合うことにも、だんだんと慣れが出てきたことに、勝手に笑ってしまいそうになる。
町は夕焼けに彩られている。遊園地近隣の街並みも、この観覧車から全体を眺めることができている。
もしかしたら、自分の家だった場所、自分の学校だった場所、自分の場所になろうとしていた教室、自分の場所になってしまった教会も、この観覧車から覗くことができるのかもしれない。だが、それを覗いたところで、何かが解決するわけでもない。
俺は、本当にこのままでいいのだろうか。
対極が、俺の中にかすかに残っている対極の意識が、──いや、俺自身が迷い続けている。
対極はそこにはいない。俺が勝手に演出しているだけだ。孤独に迷い続けている自分を補うために、ただそんな自分を想像しているだけにすぎない。
自分自身に問いかけるさまは、まさに滑稽としか言えないものだ。でも、そうすることでしか俺は生きていけないのだ。
どこまでも孤独を感じるのだ。疎外感を覚えるのだ。人とはいつまでも孤独でしかない、という言葉が心の中を埋め尽くしていく。
劣等感が心の中へとわだかまる。
魔法使いという存在に未練があったのだろうか。そうではないだろう。でも、魔法を使うことができれば、魔法使いではなくとも、悪魔祓いという存在でなければ、俺は葵と一緒に過ごすことができたはずなのだ。
俺が魔法を使うことができたのならば、……そんな非現実的なことを可能性を頭の中で考えても仕方がない。
仕方がないということを頭の中で理解していても、何度も何度も繰り返して、思考してしまうのは止められない。いつまでも、いつまでも止められない。
くだらない思考だ、くだらない思考でしかない。醜い現実逃避であり、手に入らないことをわかっているからこそ、よりそれを強く求めて仕方がない。
魔法に恋い焦がれているわけじゃない。使うことができれば、それだけで俺は報われて──。
俺はため息をつきそうになった。その衝動を抑え込んで、高い景色の中に包まれようとしている天音の姿を視界に入れた。
天音は外の景色をぼんやりと眺めながら、落ち着いた姿勢を探しているようで、ちょこまかと座席の上で動き続けている。彼女が姿勢を変えるたびに観覧車は少し揺れてしまう。それにドギマギしてしまう自分を恥じながら、俺はただ外の景色を眺めることにした。
目の前にいる彼女は、そんな孤独を振り払うように、ずっと俺に寄り添い続けている。俺を孤独にしないために、ずっと一緒にいてくれる。
この半年の間、彼女と毎日を過ごしてきた。
孤児院で働いていた毎日、毎回訪れる休日の時、そうじゃない時でさえも、彼女は俺を一人にしようとはしなかった。俺には天音がいる、ということを何度も俺に教えてくれていた。
本来、彼女は俺と一緒にいるべきような人間ではない。というか、役職ではない。
朱音は、別に俺だけをイギリスに勧誘していたわけじゃない。悪魔祓いの立場にいる魔法使いである天音にだって、もちろん声をかけていた。
けれど、天音はそれを断っていた。俺と同じように、朱音のお願いを断っていた。『お姉ちゃん』と呼び慕っている朱音のお願いを、彼女は断り続けていたのだ。
彼女が断っていた理由はなぜか。そんなのは考えなくともわかる。俺がこの世界に取り残されないようにという、それだけの思惑で彼女は俺と一緒に過ごしてくれているのだ。
──このままでは、いけない。
対極を受容したときに決意したはずだ。
葵との別れを受け入れたときに、決意していたはずだ。
すべての別れを受け入れたはずだ。
ここにいても、何かが成し遂げられるわけじゃない。
ここにいても、何か意味が生まれるわけじゃない。
俺は悪魔祓いだ。悪魔祓いなのだ。
悪魔祓いとしてしか、生きていくことはできないのだ。
それを変えることはできない。運命のようなものなのだ。受け入れることでしか生きていけないのだ。
だから、すべてを受け入れろ、受け容れろ。
俺はここに残るべきではない。
──けど。
「……はは」
乾いた笑いがため息に紛れて漏れてしまう。天音は俺の声に反応して、目線をこちらへと動かしてくる。
ここで格好をつけても、どうしようもないだろう。
俺は、天音の目を見つめた。
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