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5/A Word to You.

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 重苦しい空気が介在しているような気がする。家の扉をくぐる直前、ドアからそんな雰囲気を感じてしまうのは、俺がそう演出しているからだろうか。

 鼓動が加速していく。ここから別になにかが始まるわけでもないのに。でも、ドアを開けたら俺は始めなければいけない。

 罪の感覚を深く味わった。正しいことも、正しくないことも今日の内に済ませておいた。

だから、もうやるべきことは済ませたはずだ。だから、俺はもう前に進むことしかできないはずだ。

 重苦しい空気の扉を開ける、普遍的なドアのきしむ音、蝶番が鳴る音を耳に入れながら、そうして中の空気を確かめるように、そっと開ける。

「お帰りなさい」

 重厚な雰囲気を味わわないように、何もかもを無視したようにドアを開けると、玄関先には皐がぽつんと座り込んでいる。

 皐の服装は学校帰りではなく、完全な私服のそれへと変わっており、今から出かけるような、そんな雰囲気がある。

 そんな彼女の視線。どこか不安そうな視線を感じてしまう。

 きっと、俺も彼女と同じような表情をしているだろう。

「早かったんだな」と、適当な口上を置いて彼女に話しかける。

「まあ、話したいことがあるって翔兄が言ってましたから」

 皐は飄々としたように答えた。でも、声が上ずっている感覚は否めない。もじもじと指を絡ませながら呟いている様子が、どこか子供らしい。そもそも子供だろうし、俺自身も大人になりきれない子供の一部なのだろうけれど。

「別に、外向きの格好をしなくても」

 家で話そうと思っていたから、彼女が玄関先で待っていることについては予想できなかった。だから、そんな言葉を吐く。

「行きたいところがあるんです」

 彼女は敬語の風を崩さないで、そんなことをいう。そうなんだ、という気持ちになった。それ以上も以下もない。

 でも、どこに行きたいというのだろう。俺にはそれを理解することはできない。思い当たるところはあるような気がする。でも、それが確証を得ているものかを自分で理解できていない。

 それなら俺も着替えた方がいいのかもしれない、そう思って一度部屋に上がろうと思ったけれど、皐が俺の手を引いてくる。無言で。

 仕方ないから、傍らに学生鞄を置くだけにする。別に、制服で出かけることでとがめるやつもいないだろう。

 肩にかけていた学生鞄を下ろしたことで、不自然に軽くなった肩に違和感を覚える。

 今日は、すべてに違和感を覚えてしまう。そういう日もあるかもしれない。

 鞄を下げるとき、一瞬皐は言葉を紡ごうとする。息遣いが近くで聞こえるような気がした。でも、わからない。勝手にそんな雰囲気だと思っただけだ。彼女は何も思っていないかもしれない。もしくは、二人の間にある気まずさを噛みしめているかもしれない。

 俺はそれを呑み込んだ。気まずさは、とうの昔にあったものだ。今さら気にしてもしようがない。そもそも、気まずさを解消するための、……俺の罪を清算するための、これからの行動である。呑み込まなければ、俺は彼女と会話をすることもままならない。

 皐の顔を覗いてみる。どこかわからない、というような顔をしている。何かを疑問に思っているような表情。

 俺は、それを無視した。

「それじゃあ、いこうか」

 俺はそう彼女に声をかける。

 服の内側にある財布の感触を確かめて、俺は玄関のドアをもう一度開けた。





 とりあえず、と言わんばかりに俺たちはコンビニに向かった。

 行きたい場所がある、と彼女が俺を先導しようとしたけれど、道中の暑さを噛みしめていたせいで、何か清涼的な要素をどこかで感じたいと思ってしまった。だから、とりあえずコンビニ。

 コンビニによると、俺は適当なサイダー類を買った。彼女は紅茶の類を買っていた。レモン系統のやつだった。そういえばそんなものを昔も飲んでいたな、とかそんなことを頭に過らせながら、二人でアイスのコーナーにやってくる。

 俺は適当なシャーベットを選んだ。サイダーにソーダ味は合わないかもしれなかったから、俺はコーラ味、彼女はワッフルコーンのバニラアイスを手に取った。

 店員がいるレジは混んでいたので、俺たちはセルフレジのほうに並んだ。すぐに順番が来た。

 傍らにあったレジ袋と、俺たちが手に持っていたものをスキャンに通す。相応の値段のものが出てくる。皐が金を出そうとする。俺はそれを制して、懐にあった財布を出して払う。

 その間、ずっと無言。

 でも、無言でも同じような雰囲気を思い出すことができたから、俺はそれを心地がいいと思えてしまった。

 どこか、背徳的だな、と思わずにはいられない。

 今のこの状況は偽物だ。この雰囲気は偽物だ。

 だからこそ俺は、これを本物にしなければいけない。

 会計が終わり、レシートが出てくる。

 レシートを適当にポケットにくしゃくしゃに詰め込んで、そうして俺は息を呑む。

 ケジメの時間はすぐそこに来ている。
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