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Fi/Laughable Days With You.
Fi-5
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◇
自己紹介については適当に行い、そのついでに愛莉だけではなく皐も呼んだことを重松に伝える。重松は、一人二人増えたところで変わらんからいいんじゃないか、という言葉だけを残して、今度はプロジェクターに接続しているパソコンをいじり始めた。
表示されている画面には、あからさまに動画サイトの名前が表示されており、検索欄には『ホラー やばい』とだけ入力されている。短絡的だな、と思った。
「へー、京子ちゃんって言うんだ」
愛莉は赤面をなんとか落ち着かせた後、なんか伊万里に絡んでいた。伊万里はドギマギとしている様子を崩さない。七月初めにあった新入部員大量発生事件を思わせるところがある。
皐はぼうっと物理室を眺めている。物理室の後方にあった、伊万里のお気に入りのニュートンのゆりかごに触れて遊んでいたり、更に移動して置いてあるさつまいもなんかに触れたりしている。
「このサツマイモ、なにするの?」
「ん? ああ、それは焚火で焼くんだよ」
俺はそう返す。皐はへえ、とだけ返す。
「今日、焚火やるの?」
「その予定だ。だからこそ、人手が足りないと言ったのだ」
俺は、そうしてサツマイモの本数を数えるように皐に促してみる。その本数を見て、彼女はどこかうなだれた。
「こ、こんなに食べられないよ?」
「まあ、別に無理をしろって言ってるわけじゃないんだ。というか、食べないなら俺が食べるし」
サツマイモは嫌いではない。だから、彼女らが食べないのなら、適当に俺が食べるだけ。
俺が問題としているところはそうじゃない。
「サツマイモを焼くときにはな、アルミホイルを巻いたり、濡れ新聞を巻いたりするらしいんだ」
「ほお」
「俺は、手先が不器用だ」
「……なんか関係ある?」
「俺は手先が不器用なんだ」
「……やれってことね」
皐は呆れるように溜息をついた。
手作業は苦手だから仕方がない。力仕事については、特に頭を働かせることもないし、苦労する点もないから別にいいのだが、手作業ということを意識するだけでもやる気が消失する。
もともとは大量に入部してきた新入部員に全部任せるつもりだったのだけれど、欠席しているのだから仕方がない。
「……ていうか、こんなに大量の芋を誰が……」
「ほら、プロジェクターとかパソコンいじってるあの先生だよ」
俺は静かに重松に指をさす。
『天体観測って言ったら、焚火もやるに決まってるよなぁ?!』
そんなことを言って、物理室に入ってきた重松が頭に過る。その時に新入部員は異様な怒号を浴びたわけだけれど、まあ、妥当かもしれない。
「もともとは一人二本くらいだったんだけど、部員がな……」
「複雑な事情がありそうだね……」
俺は皐の言葉に頷いた。
そんな会話をしていると、愛莉が何を話してるのー、と間延びした声を出しながらこちらにやってくる。
愛莉を皐に任せて、俺は伊万里の方へと向かう。
伊万里は、どこかぐったりしている様子だった。
「お疲れだな」
「だれのせいですか」
不貞腐れるように伊万里は言葉を吐く。
「ていうか、本当に高原くんの彼女なんですか? あの人が?」
「そうだけど?」
「……マジですか」
伊万里は信じられない、というような表情をする。俺自身、彼女に釣り合っているとは思っていないから、その気持ちはわかるような気がする。
「めちゃくちゃエネルギッシュって感じがしましたよ。いつの間にか、ライン交換とかしましたし」
「……あれ、お前携帯持ってたっけ?」
「あっ」
しまった、と言わんばかりの声を伊万里は吐く。
「おい」
「い、いや違うんですよ。聞いてください。一昨日辺りに契約したんですよ。なんか新しいプランがあるから安く契約できるって花ちゃんが」
「……でも、俺たち、今日会話したはずだよな」
「……ふい」
ふい、という言葉は、うい、と、はい、が入り混じったような感じだ。一瞬、笑いそうになる衝動がある。
「……忘れてただけなんですよぉ」
「まあ、別に理由なんてどうでもいいけど」
俺はそうして携帯の画面を開く。
「とりあえず、友達になろうぜ」
◇
伊万里との友達登録が終わった後、タイミングを合わせたように重松はホラー映画(……というか動画?)の準備を終えた。
声がかかると、科学部にいる女子全員肩を震わせて、そうっと物理室から抜け出そうとする。……が、俺は肩を抑えて、それぞれを画面に近いところへと座らせた。
「しょ、翔也? 画面に近いと目が悪くなっちゃうんだよ? ほら、良い子はテレビから離れて見てね、ってよく言うじゃない?」
「大丈夫だ、プロジェクターだから」
俺はにこやかに呟いた。きっとそういうことではないんだろうけれど。うわーん、と愛莉は情けない声をあげる。俺は笑みを絶やすことはなかった。
伊万里は物理室の後方に座り、皐は俺と愛莉の後ろの方に座り込む。皐に関しては近いからいいとして、伊万里がそう逃げ込むのは、なんとなく許せない。
「伊万里」
俺は伊万里の方まで歩いて、声をかける。
「い、い、いやですよ。私、ここにいますから。ほら、恋人なんでしょ? その邪魔をするわけには──」
「大丈夫だ、プロジェクターだから」
答えになってませんよ!! と大きな声で伊万里は抵抗するが、俺は彼女の座ってた椅子を押して、最前列まで移動させる。
「……お前、これ以上なく楽しそうだな」
重松は少しだけ引いた表情で俺を見る。俺はそれを知らないふりをして、重松が動画を流す時を待った。
自己紹介については適当に行い、そのついでに愛莉だけではなく皐も呼んだことを重松に伝える。重松は、一人二人増えたところで変わらんからいいんじゃないか、という言葉だけを残して、今度はプロジェクターに接続しているパソコンをいじり始めた。
表示されている画面には、あからさまに動画サイトの名前が表示されており、検索欄には『ホラー やばい』とだけ入力されている。短絡的だな、と思った。
「へー、京子ちゃんって言うんだ」
愛莉は赤面をなんとか落ち着かせた後、なんか伊万里に絡んでいた。伊万里はドギマギとしている様子を崩さない。七月初めにあった新入部員大量発生事件を思わせるところがある。
皐はぼうっと物理室を眺めている。物理室の後方にあった、伊万里のお気に入りのニュートンのゆりかごに触れて遊んでいたり、更に移動して置いてあるさつまいもなんかに触れたりしている。
「このサツマイモ、なにするの?」
「ん? ああ、それは焚火で焼くんだよ」
俺はそう返す。皐はへえ、とだけ返す。
「今日、焚火やるの?」
「その予定だ。だからこそ、人手が足りないと言ったのだ」
俺は、そうしてサツマイモの本数を数えるように皐に促してみる。その本数を見て、彼女はどこかうなだれた。
「こ、こんなに食べられないよ?」
「まあ、別に無理をしろって言ってるわけじゃないんだ。というか、食べないなら俺が食べるし」
サツマイモは嫌いではない。だから、彼女らが食べないのなら、適当に俺が食べるだけ。
俺が問題としているところはそうじゃない。
「サツマイモを焼くときにはな、アルミホイルを巻いたり、濡れ新聞を巻いたりするらしいんだ」
「ほお」
「俺は、手先が不器用だ」
「……なんか関係ある?」
「俺は手先が不器用なんだ」
「……やれってことね」
皐は呆れるように溜息をついた。
手作業は苦手だから仕方がない。力仕事については、特に頭を働かせることもないし、苦労する点もないから別にいいのだが、手作業ということを意識するだけでもやる気が消失する。
もともとは大量に入部してきた新入部員に全部任せるつもりだったのだけれど、欠席しているのだから仕方がない。
「……ていうか、こんなに大量の芋を誰が……」
「ほら、プロジェクターとかパソコンいじってるあの先生だよ」
俺は静かに重松に指をさす。
『天体観測って言ったら、焚火もやるに決まってるよなぁ?!』
そんなことを言って、物理室に入ってきた重松が頭に過る。その時に新入部員は異様な怒号を浴びたわけだけれど、まあ、妥当かもしれない。
「もともとは一人二本くらいだったんだけど、部員がな……」
「複雑な事情がありそうだね……」
俺は皐の言葉に頷いた。
そんな会話をしていると、愛莉が何を話してるのー、と間延びした声を出しながらこちらにやってくる。
愛莉を皐に任せて、俺は伊万里の方へと向かう。
伊万里は、どこかぐったりしている様子だった。
「お疲れだな」
「だれのせいですか」
不貞腐れるように伊万里は言葉を吐く。
「ていうか、本当に高原くんの彼女なんですか? あの人が?」
「そうだけど?」
「……マジですか」
伊万里は信じられない、というような表情をする。俺自身、彼女に釣り合っているとは思っていないから、その気持ちはわかるような気がする。
「めちゃくちゃエネルギッシュって感じがしましたよ。いつの間にか、ライン交換とかしましたし」
「……あれ、お前携帯持ってたっけ?」
「あっ」
しまった、と言わんばかりの声を伊万里は吐く。
「おい」
「い、いや違うんですよ。聞いてください。一昨日辺りに契約したんですよ。なんか新しいプランがあるから安く契約できるって花ちゃんが」
「……でも、俺たち、今日会話したはずだよな」
「……ふい」
ふい、という言葉は、うい、と、はい、が入り混じったような感じだ。一瞬、笑いそうになる衝動がある。
「……忘れてただけなんですよぉ」
「まあ、別に理由なんてどうでもいいけど」
俺はそうして携帯の画面を開く。
「とりあえず、友達になろうぜ」
◇
伊万里との友達登録が終わった後、タイミングを合わせたように重松はホラー映画(……というか動画?)の準備を終えた。
声がかかると、科学部にいる女子全員肩を震わせて、そうっと物理室から抜け出そうとする。……が、俺は肩を抑えて、それぞれを画面に近いところへと座らせた。
「しょ、翔也? 画面に近いと目が悪くなっちゃうんだよ? ほら、良い子はテレビから離れて見てね、ってよく言うじゃない?」
「大丈夫だ、プロジェクターだから」
俺はにこやかに呟いた。きっとそういうことではないんだろうけれど。うわーん、と愛莉は情けない声をあげる。俺は笑みを絶やすことはなかった。
伊万里は物理室の後方に座り、皐は俺と愛莉の後ろの方に座り込む。皐に関しては近いからいいとして、伊万里がそう逃げ込むのは、なんとなく許せない。
「伊万里」
俺は伊万里の方まで歩いて、声をかける。
「い、い、いやですよ。私、ここにいますから。ほら、恋人なんでしょ? その邪魔をするわけには──」
「大丈夫だ、プロジェクターだから」
答えになってませんよ!! と大きな声で伊万里は抵抗するが、俺は彼女の座ってた椅子を押して、最前列まで移動させる。
「……お前、これ以上なく楽しそうだな」
重松は少しだけ引いた表情で俺を見る。俺はそれを知らないふりをして、重松が動画を流す時を待った。
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