妹とゆるゆる二人で同棲生活しています 〜解け落ちた氷のその行方〜

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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序/優雅とは言えない高校生活

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 自己紹介については、特に何か問題が起こるわけでもなく、つつがなく行われていった。

 最初に指名された女子については、戸惑いを隠せない様子であるのが印象的である。

 人との関わりが苦手なんだろう、ということを察してしまうくらいの挙動不審ぶり、前髪で目元を隠している姿からも、人と関わる気はない、と言っているような雰囲気がある感覚だ。

 既定の制服を着ているし、皐と同年代なのは確かだろうから、できれば皐にはこういった子と友達になってほしいような気もするけれど、その考えは過保護すぎるかもしれない。俺はその考えを振り払った。

 そうして四番目に俺の自己紹介。といっても、何か言葉で飾るようなものではなく、端的な名前の紹介くらい。

「加登谷 翔也です、よろしくお願いします」

 俺の前に自己紹介した人間についても同じようなものであり、それ以上に言葉を飾るということについては行っていない。そもそも、自分という人間を表現したいような輩はここには来ないような気もしてくる。

「高原 皐です。よろしくお願いします」

 皐に関しても同じようなもので、どこか懐かしく感じる苗字の感覚に浸りながら、俺は周囲の顔を見ている。

 どこか疲れを覚えていそうな顔、最初に自己紹介をした女子ほどではないが、挙動不審にきょろきょろと周囲を観察しているような者、そこまで学校というものに対して真摯に向き合わずに頬杖をついて、適当な時間を過ごしているもの、そんな感じ。

 まあ、別にどうでもいい。俺は俺で、皐と一緒に高校生活を歩むだけなのだから。

 そんな思いを胸に、周囲の自己紹介が終わる時間を適当な思索で断ち切った。





「友達、作らないのか?」

 自己紹介のホームルームが終わり、高校について改めて説明する時間も終わり、休憩時間となる。

 そんなホームルームが終わった後、俺は皐に声をかけた。

 別に、俺と関わるだけで高校生活を終わらせてもいいだろうけれど、せめてなら、いろんな人たちと友好に過ごしていい気持ちがある。きっと、その気持ちでさえ一つの過保護なものなのだろうけれど、なんとなくそんな感情がわだかまるのだから仕方がない。

「うーん、どうだろうね」

 皐は倦む様子でそういった。

「人付き合いとか苦手だし、なんか、同じような匂いのする人しかいないというか」

 小声で、誰かに話を聞かれないように囁く彼女。

「類は友を呼ぶって言うじゃないか」

「……それなら」

 彼女は思い当たる節があるようで、教室の前方の方、窓側の、一番最初に自己紹介を行った女子に目配せする。

「翔也も一緒に行ってみようよ」

「……俺も?」

「言い出しっぺの法則」

 彼女は悪戯するような顔で俺に囁く。

 ……まあ、皐が言うのならばしようがない。俺は一つの決意を固めて、立ち上がることにした。





「え、ええと」

 俺は前方にいる女子に声をかけた。

 確か、名前については……。

「伊万里さん、だよね」

 確か彼女はそんな自己紹介をしていたはずだ。



『え、え、ええ、……ええ、と。その、あの、わ、私のな、名前は、伊万里……、です』
『うんうん、伊万里さんね。いい苗字じゃないかぁ。それで下の名前は……?』
『きょ、きょ、京子、で、す……、ぅ』



 ……うん、改めて思い出してみても、徹底的な挙動不審ぶりだ。まるで犯罪者が職質されたときのような、そんな雰囲気さえ感じてしまう。

 彼女は俺が声をかけると、一瞬、しらーっとした雰囲気を持つと思うと、ビクン、と身体を大きく弾ませて、机をガタリ、と大きく鳴らした。

 ……教室の視線が俺、というか彼女の方に向く。一瞬の視線の痛さ、彼女はうぅ、と悶えるような声をあげている。

「大丈夫?」

「え、いや、あの、あ、あ、はい。だい、じょぶです」

 片言のような言葉を発しながら、彼女は言葉を返す。本当に大丈夫なのか不安なところだけれど、正直、どうでもいい。

「そ、そ、そ、それで、なんでしょう、か?」

「いや、なんかいきなりでゴメンね。なんとなく、友達になれないかな、って」

 俺は目的の言葉を発する。

 きっと去年の今頃だったら恥ずかしさがわだかまって発することはなかったであろう言葉、なんとなく今でも恥ずかしさが伴っていく感覚については存在するけれど、彼女のきょどりっぷりを見ていると、その感覚はなんとなく緩和されるものがあれる。

 彼女は言葉を咀嚼して、呼吸を繰り返す。

 ひどく拙い呼吸だと思った、赤ん坊でもここまで下手くそな呼吸は繰り返さないだろう。そんなことを思うくらいに、薄く酸素を取り込んで、大きく息を吐き出す作業を小刻みに行っている。

「わ、わ、私なんかでいいんですか」

「……うん、君がいいなって」

 少し気障っぽい台詞を吐いてみる。

 ……皐の視線が刺さる感覚がする。俺は咳払いをして誤魔化した。

「わ、ワタシなんかでよければ、ぜんぜぇ……」

 全然、と言いたかったんだろう。でも呼吸が追い付かなかったのか、最後まで言い切ることができていない。

 でも、許可については取ることができた。

 俺は、後方にいる皐に目配せをして、合図のようなものを送る。

「それでさ、紹介したいやつがいるんだけどさ」

「ほぇ、は、はい」

 その言葉に戸惑うような声をあげて、彼女は俺が見ている皐の方へと視線を移す。皐はにじり寄るように移動してきて、どこか威圧感を感じずにはいられない。

「はじめまして」と皐は言った。

「ど、ど、ど、どうも……?」と伊万里は返す。

 そして──。



「高原 皐って言います。──翔也の彼女です」



 彼女はそう自分を紹介した。

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