妹とゆるゆる二人で同棲生活しています 〜解け落ちた氷のその行方〜

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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弐/偶然にも最悪な邂逅

2-6

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 数日しか空けていないのに、ノートパソコンを久しぶりに開く感覚がした。

 気だるさに紛れて無駄に働く思考をつらつらと書く。その内容は当たり障りのないものだったり、もしくはいつも考えていることだったり。

 どこまでも固まってしまう無駄な思考、頭の中で抱えているよりも、きちんと文章に起こして表現した方が気持ちは楽になる。

 記憶の整理、思考の整理。

 隣で寝ている皐の寝息を聞きながら、ここ最近のことを振り返ってみる。それを文章に起こして、事実の確認。たまに情景を思い出したりして、その景色をどう表現するべきかを思い出したりする。

 登下校の道、暗がりにある街灯の存在、月明かりの濃淡、違和感を覚える夜の学校、そこにいる誰かの存在と机と椅子。

 散歩した道、彩にあふれている街並みの姿、皐と一緒に過ごした公園。途中でよったコンビニの看板の色、アスファルトに潰れた桜の残骸。

 静かに、静かに、それでも世界を回っている。

 俺は、そんなことをただただ書き連ねた。





 思考整理のだいたいを終えて、俺は朝飯を作ることにした。いつも皐にしてもらっている行為を彼女に少しでも返すことで好意や感謝を伝えることができればいいと思った。

 といっても、簡易的なものでしかない。俺たちはいつも朝食は軽くでしか済ませないから、結局は単調な作業にしかならなかった。

 ふぁあ、と皐が欠伸をする声が聞こえた。その声に視線を向けて、彼女の姿を視界に入れる。

 腕を伸ばして、朝を仰ぐような動作。身体の伸びを繰り返して、そうしてゆっくりと彼女は起き上がる。

 おはよう、と声をかければ彼女は瞼をこすりながら、おはよう、と声を返してくる。どこか寝ぼけている印象は拭えない。

 彼女は慣れた仕草で傍らに置いてあった携帯を覗く。携帯を覗いて、しばらく呆然とすると、ふぇ、とよくわからない声を上げた。

 時間帯については七時ごろ。彼女にとってはいつもよりも遅い時間帯。

 皐は携帯の画面を見つめた後、俺の表情を見つめる。瞼をこする動作を続けたまま、どうにか現状を把握するような仕草。

「え?」と声を出した。大きな疑問符の声。

「休むことにしたんだ」と、その疑問符の意図に答えるようにする。そんな言葉を彼女は聞いても理解できないような表情で、ぽかんとしていた。

「月曜日まで休みをもらったんだ。ほら、俺、体調不良だからさ」

「……なるほど?」

 皐は理解を放棄した様な顔をした。

 そんな彼女の様子が、俺には面白くてたまらなかった。





「行きたいところがあるんだ」

 俺はそう呟いた。

 部屋の中心にちゃぶ台を置いて、昔の映画で見たような空気の中で、皐と一緒に食事を摂る。俺は適当に作った朝飯をほおばりながら、まとめた思考整理の結論を彼女に伝えた。

 皐は黙々と食事を進めている。

 俺が綺麗に焼くことのできなかった目玉焼きに城を振りかけて、それをパンと一緒に食んでいる。

「どこ?」

 パンを食みながら声を出したから、彼女の言葉は少しふにゃふにゃとしていた。でも、おそらく彼女はそう言った。

 どこ、と聞かれて頭に浮かぶ景色。

「昔遊んだ公園とか、一緒に過ごした場所をめぐりたいって、そう思うんだ」

 俺はパンを頬張りながら、彼女の言葉に返す。彼女と同様にもぐもぐとしたり、ふにゃふにゃとしたような音節だったけれど、彼女はそんな言葉を咀嚼して、ゆっくりと呑み込む。頬張っていたものを烏龍茶で流し込んで、一息ほどついてから「いいね」と返す。俺はそれに微笑みを返した。

 俺は、過去に対して縛られている感覚が拭えない。何に縛られているのか、具体的には表現することはできない。文章を連ねるときにも迷ってしまった。

 でも、もしかしたら過去の場所にその縛りはあるのかもしれない。現在の範疇で思考の縛りが拭えないのならば、過去にこそ所以がある可能性を考えてしまう。

 だからこそ、昔巡り。

 皐と昔遊んだ公園、皐と昔一緒に過ごした学校、──皐と一緒に過ごした家。

 そこを巡れば、ある程度気持ちは楽になるかもしれない。皐との過去をすべて巡れば、どこか俺は救われる感覚を覚えることができるかもしれない。

 ……俺は救いを求めているのだろうか。わからない。わからないからこその昔巡り。

「それじゃあ、お昼までに支度しなきゃね」

 皐はにっこりと笑って呟く。俺はそれに頷いた。

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