【完】婚約破棄&処刑されて転生しましたけれど、家族と再会し仲間もできて幸せです。[ ご令嬢はいつでもオムニバス1〜5 ]

丹斗大巴

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第1部 婚約破棄&処刑されて転生しましたけれど、家族と再会し仲間もできて今はとっても幸せです

我が主

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「会いたい。リサに、会いたい……!」



 あの日以来、リサのことだけがずっとわからなかった。

 リサが、メゾシニシスタ国を訪ねてくる。

 どうしても、会いたい……!



「そうよね、私も会いたいわ……!」



 お母様が私の腕に手を添え、大きくうなづく。

 いつもは明るいお兄様の顔が陰った。



「リサ妃には会いたいけど、ラルフ陛下には会いたくないね。

 名誉を回復したからなんだっていうんだ」



 向かってお父様が静かに語り掛けた。



「名誉回復は大切なことだ。これまでの我が一族の歴史や御先祖様のご威光を汚さずに済むのだから」

「それはそうですけど……。まさか、父上、セントライト王国に今更戻る気なんてありませんよね?」

「ラルフ陛下の話を聞いてみなければなんとも言えんが、荒れた祖国がそのままというのが、心苦しいのは確かだ」



 その瞬間、いつもの四人が鋭く息を吸った。



「そんな、新五大伯爵家であるプレモロジータ伯爵家が我が国から去ってしまうんですか……!?」

「絶対いやですわ! 私ミラと離れたくありません!」

「ど、どうか慎重に……」

「でも、お気持ちはわかりますわ……。サーフォネス伯爵家は建国以来、名実ともに国の基礎をなした名家ですもの。

 王家やご先祖の霊だけでなく、領民たちだってきっと伯爵のお帰りを待っているはず……」

 アルベルティーナがぐっと私の腕を掴んだ。



「お願い、ミラ! 行かないで! リサ王妃陛下に会わないで!」

「アルベルティーナ、そんなこと無理だとわかってるだろ」



 すかさずバルトロメーオが諫める。

 それでも、アルベルティーナの目にはすでに涙まで浮かんでいた。



「だって、ミラはリサ王妃陛下と国を守るという約束をしたんでしょ? リサ王妃陛下はその約束を盾に私たちの親友を奪いに来るのよ!

 そんなの嫌に決まっているじゃない!」

「ア、アルベルティーナ……!」



 いつもは穏健なカロージェロが遠慮がちに口を開いた。



「本当のことをいうと、僕も嫌だな……。今更だよ……。

 だって、ミラはもう僕たちメゾシニシスタ国の五つの美徳の仲間なんだから……! 

 リサ王妃陛下であっても、邪魔して欲しくないよ……」

「カロージェロ……」



 ジュスティーナが同情の眼差しを向けている。

 四人が一斉に私に目を向けた。

 みなさん……、みなさんの気持ち、本当にうれしい。

 けれど、リサとは会いますわ。どうしても、会いたいの。

 リサが今どうしているのか、どんな気持ちでいるのか。

 これまでの年月をどんな思いで過ごしてきたのか……。

 親友として私がそれを聞いておきたいの。

 私にもいろんなことがあった。

 これまであったこと、感じたことをリサには聞いて欲しい。

 今どんな風に過ごしているか、今なにを感じているか、それも全部聞いて欲しいから。

 四人が帰ったあと。日が落ちてからヴァレンティーノ様がやってきた。



「ミラ、書簡は読んだか?」



 まあ、御髪が乱れて……。

 急いで駆け付けてくださったのね。

 そ、そんなに顔を赤くして息巻いては……。



「まったく、セントライト王国はコバエのようにうるさいな!

 リサ妃から亡きアドルフ皇子の挙兵の知らせてを受けて、こちらも相応の準備をしてみれれば、お粗末な小隊が国境に来るには来たが、わが軍を前に一矢まみえるどころか、誰彼構わず尻をまくって逃げ出す無様な痴態。

 情けない。一体なにをしにきたんだか!

 その次は、ラルフ皇子によるクーデターと、今世紀最大の粛清に大騒ぎ。

 やれるのだったら、なぜさっさとアドルフ皇子を引きずり下ろさなかったんだ!

 商人上がりの元男爵風情にいいようにかき回された挙句が、絶対王の信頼の失墜だ。
 
 セントライト王国はもはや高波の前の砂で作った城同然。

 いっそ蹴とばして塵にしてやりたいくらいだ!

 代わるラルフ王の評判はいいそうだが、もはや力も尊厳もない国の王が誰になろうと、こちらにはどうでもいいことだ。

 しらじらしい書簡など送りつけてきおって!

 かつての親友の約束だと?

 先の挙兵とプレモロジータ伯爵家への詫びを兼ねて、我が父上に謁見したいだと? 

 勝手に吠えていろ!

 ミラがどれほどつらい思いをしたと思っている!

 我が国がこれを受ける道理など、ありはしない。

 そんな手紙破り捨てて、暖炉にくべてやればいいのだ!」

「ヴァレンティーノ様……」

「ミラ、相手にしなくていい。国境で蹴散らしたのと同じように、俺がすぐに追い返してやる」

「ヴァレンティーノ様」

「ミラ……! 手紙のことなんか忘れろ。忘れてくれ。俺を待っていてくれると、君はそういってくれたはずだ。そうだろう……?」

「リサには会いますわ」

「ミラ、ミラ、頼む……! 君を喜ばせるために、俺は国の掟を明確にさせ、教会の福祉も増強させた。水路も街道も年々広がっているし、畑の開墾も奨励させている。

 全部だとはいわない、でも少しはミラが理想とする絶対王に近づいているはずだ!

 頼むから、リサ妃との約束は忘れてくれ。

 リサ妃よりも、俺のほうがずっとミラを求めている。俺との約束をどうかなかったことにしないでくれ!」



 ヴァレンティーノ様……。

 なんてせつない目をするの……。

 まるで、視線だけで私を縛ってしまうみたいに。

 触れられてもいないのに、体が熱くなる。

 この思い……。

 他の誰にも感じたことがない。

 けれど、私の思いは変わらないの……。



「ヴァレンティーノ様、私は明日リサに会います。お話はどうかその後に」



 ***



 リサとの会見の日。

 用意された、王宮のこじんまりとした一室。

 ラルフ陛下の同席はない。

 私自身、正面切って顔を見る自信がまだ持てない。

 謁見の間では、今国王陛下やヴァレンティーノ様たちがラルフ陛下を迎えているはず。

 できるだけ穏便に話が済めばいいと思うけれど……。



「ミラなの……!?」



 懐かしい声に、勢いよく振り向いた。



「リサ……、リサ!」

「ああ、ああっ! その目、ああ、その微笑み! ミラ、本当に、ミラなのね!?」



 お互いにお互いを理解するのにかかった時間は、ほんの一瞬。

 ああ、リサ、すっかり大人の女性ね……!

 でも、面影は変わらない。

 懐かしい、リサのまま!

 私たちは互いに駆け寄り、抱き合いその場に崩れ、互いに互いの頬を撫でながら声を上げて泣いた。

 ああ、リサ……!

 互いに泣き崩れて、子どものように思い切り泣き続けると、いつの間にか心が凪いでお互い次第に泣きやんだ。

 それからどちらともなくこれまでのことを語りだす。

 私は生まれ変わり気づくまでのこと、そして気づいてからのこと。

 今は大切な家族と仲間に囲まれて幸せでいること。

 リサは私を失って失意のまま予定通りラルフ様と結婚し、描いていたような未来とは全然違ってしまったこと。

 アドルフ様の横暴に逆らえずに苦しむラルフ様や国民を見ながら悲嘆にくれ続けたこと。

 私たちはお茶を飲んだり休む間もなく、喉がカラカラになっても話し続けた。

 その場から立ち上がることさえ忘れて、互いに互いの感触を確かめ合うように手を握る。

 そして、ひたすらに話を続けた……。

 ああ、リサ、本当にまたあなたに会えるなんて。

 神様、私を生まれ変わらせてくださって、本当にありがとうございます……!



「挙兵のときは警告を送ってくれてありがとう。リサのおかげで兵も村人もどこにも被害は出なかったそうよ」

「あのとき、プレモロジータ伯爵家の養女が『誓い』の真心を持っているらしいと聞いて、絶対にアドルフ皇子の手にかけさせてはいけないと思ったの。

 だって、二度も親友を失ったような気になってしまうと思ったのよ!

 そのあと、ミラの生まれ変わりだと聞いて、私本当に驚いたの!」

「そうだったのね」

「私たち、時を経て離れてしまっていても、心は繋がっていたんだわ……!」

「本当ね……!」



 話しては泣き、話しては泣きを繰り返し、お互いがお互いを見てようやく微笑みを浮かべた。

 会えなかった時間が埋まったと、そう感じられた。



「ミラ、あなたを迎えに来たのよ。私と一緒に来てくれるわよね?」

「リサ……」

「断るわけないわね。わかってるの。私たちの絆は永遠だもの」

「あのね、リサ……」

「お願い、断らないで。私はもう子どもを産める歳じゃない。どうしてもあなたを奪ったラルフが許せなくて、私は一度もラルフに体を許さなかったわ。

 それが王宮で暮らす私にできる唯一の抵抗だったの。私にとってあなたがどれほど大切な親友だったか。ラルフが命を絶ってしまった相手が、国にとってどれほど重要な人物だったか。それを思い知らせるためだったの。

 これから努力しても私はきっと子どもは望めないわ。でもあなたならこれからいくらでもラルフの子を産める。ラルフとあなたの子なら、私、心の底から愛せるわ。自信があるの。

 お願い、一緒に来て。あのとき約束した私たちの夢を、一緒に叶えましょう……! 叶えたいの!」

「……わかったわ、リサ……」

「本当ね!? ああ、あなたならそういってくれると思っていたわ!」

「リサ……」

「これから謁見の間に行って『誓い』を捧げましょう。ね、それがいいわ!」



 私たちは涙で崩れた顔を調え直して、謁見の間に向かった。

 謁見の間には、国政を担う有力貴族たちがずらり。

 バルトロメーオ、アルベルティーナ、ジュスティーナ、カロージェロの四人も、五つの美徳の保持者としてそこにいた。

 王座に座る国王陛下の隣には、ヴァレンティーノ様……。

 その手前には、ラルフ陛下の背中がある。

 私たちの登場が高らかにうたわれると、視線が集う。

 そのとき、ぱっとリサが私の手を取った。

 ヴァレンティーノ様と四人の顔に大きな戸惑いが揺れて見えた。

 リサに促され、ふたりで前に向かい、ラルフ陛下の後ろで最敬礼をする。



「旧友を温められたようだな、リサ妃、ミラ」

「ベルナルディーノ・アッチェッターレ国王陛下、ご温情に感謝申し上げますわ。

 おかげで、私とミラはかつての約束を果たせることになりましてございます」



 ざわっと広間の空気が震えた。

 並んで立つお父様、お母様、お兄様、お姉様が素早く視線を走らせる。

 この状況とその言い方では、プレモロジータ伯爵家が王家から賜ったご温情を無にしてしまうことになる。

 まずは国王陛下のお許しを得てからでなければ、約束を果たすことなどできないのに。

 リサ、気持ちが舞い上がっていて、そのことに気づいていないのね……。

 ラルフ陛下が驚いたように肩越しに私を見つめた。

 一瞬、どきっとした。

 けれど、以前のように息ができないことも震えが止まらないこともない。

 私はもう、過去にとらわれていない。

 自分の中で区切りがついたのだわ。

 リサがラルフ陛下と私を取り持つように間に立った。



「さあ、ラルフ陛下! 私の親友を第二妃として我が国にお迎えして!」



 ラルフ陛下が慎重に私を見つめている。

 リサの勢いに押されて、その口が開く。



「リサ・ラーラ・プレモロジータ伯爵令嬢、どうか我が妃に……。

 セントライト王国に、再び思いやりの真心を灯したまえ……」



 ラルフ陛下が……。

 私の前に膝をつき、頭を垂れた。

 リサが私の手を導き、ラルフ陛下に繋ぐ。

 その手の甲にラルフ陛下がキスをした。

 すっかりとリサにお膳立てされてしまったわ。

 けれど、リサはまだ気付かないのかしら……。



「ベルナルディーノ・アッチェッターレ国王陛下、今ここで、私たちの『誓い』を我が主に捧げることをお許しいただけますか?

 ここにある我がセントライト王国の新たなる王はラルフ・アブソルート陛下は、シンセリティ家の誠実な心と、名誉を回復したサーフォネス家の思いやりの心を捧げるに足る新時代の王なのでございます。

 我国伝統であり秘された『誓い』儀を今ここにいる皆さんにも、お目に掛けたく存じますが、いかかでしょうか?」



 リサの揚々とした物言いが止まらない。

 今まで抑圧されていたものが、すべて噴出しているかのようだわ。

 まるで、急いで失われた時間を取り戻そうとしているかのよう。

 リサにとってもこの二十年余りという時は、あまりにも長すぎたのね……。

 確かに、この場で『誓い』の儀を披露することは、セントライト王国の威厳を復活させる大きな弾みになる。

 けれど『誓い』はそんなふうに表立って権威を奮うために利用するものではないことはわかっているはず。

 リサはただ、妃としての自分の役割を全うしているだけなのね……。

 本当に、離れている間に、長い時間が経ったのだわ……。

 そのとき、ヴァレンティーノ様が壇上から私の元へ駆け下りてきた。



「待ってくれ、ミラ! 俺達のことはどうなるんだ……!」

「ヴァレンティーノ様」

「頼む、考え直してくれ! もう一度時間をくれ!」



 必死なヴァレンティーノ様。

 その瞳、切なくて、胸が締め付けられる……。

 でも、どうか見守っていて。

 私はそっとヴァレンティーノ様に手を伸ばした。

 その手を下から優しく掬ってくれる。

 ぬくもりが愛おしい。



「ヴァレンティーノ様、どうかそこで見守っていて。私を信じて」

「ミラ……」



 リサと共にそこに並び、手を組んで膝をついた。

 私たちの手前には、ラルフ陛下。少し離れた場所にヴァレンティーノ様。

 段上には国王陛下。周りを取り囲む観衆。

 かつてそうしたように、私とリサは声を揃える。



「我ミラ・ラーラ・プレモロジータは」

「我リサ・シンセリティ・アブソルートは」

「「絶対王を生涯の主として忠誠を誓う」」



 息がぴったり。

 ふたりで何回練習したか、わからない。

 昔の空気をそのまま思い出すわ……。



「我が真心は、人を愛し思いやる心」

「我が真心は、人を誠実に思う心」

「「この心を持って身を捧ぐは、この国の平穏のため」」



 あのとき、私たちはなにひとつ迷わなかった。

 ただこの『誓い』のとおり、王家に生涯を捧げるものと信じていた。

 ふたりでその夢を叶えること、それが我が人生だと。



「絶対王は永久に人を愛し思いやる心を失わず」

「絶対王は永久に人を誠実に思う心を失わず」

「「この国の主としてあり続けるだろう」」


 親友としてずっとそばにいられると信じていた。

 一緒に同じ夢を追い続けられると……。

 私とリサの胸に温かな光が灯った。

 どよっと、周りが蠢く。



「ち、『誓い』は本当だったのか……」

「なんと尊い光……」

「さ、さすがはセントライト王国の五大伯爵家だ……!」

「あれが、美徳の光なのか……」

「神聖な輝きだ……、あれが孤児……、そんなことは関係ない……!」

「あの光を受けた者が、絶対王……!」

「まさか、伝説がこの目で見られようとは……」



 胸を温める優しくも深い、止めどないぬくもり。

 体中から溢れる光。

 初代サーフォネス伯がその胸に抱き、以来我が一族の血筋がずっと大切に守り継いできたこの真心。

 私は知っている。

 この真心を今、誰に捧げるべきなのか……。

 瞳を開くと、ふわふわと立ち上る光が、すうっと飛んでいくのが見えた。

 まるで流れ星のように尾を引いて、辺りに柔らかな光の粒子を散らしながら飛んでいく。

 その先にいるのは、紛れもない、私の主。

 ――ヴァレンティーノ様……!



「ひ、光が……、飛んだ!」

「なっ、なぜ……っ!?」

「ひとつはラルフ陛下に、ひとつは、ヴァレンティーノ殿下に……!」

「『誓い』は別々の王を選んだのか……!?」

「と、ということは……?」



 謁見の間が騒然となって、激しく空気が揺れる。

 光の先を見つめると、驚きながら光を身に受けるヴァレンティーノ様が、私とその光を交互に見ている。

 その意味を知ると、ぱあっと耳から顔までを赤く染めた。

 リサが勢いよく立ち上がると同時に叫ぶ。



「ミラ、どうしてなの! 私を、見捨てるというの……!?」

「違うわ、リサ」



 まるで裏切られたかのように燃えるリサの瞳。

 誰よりも信頼に熱い、誠実の心を持つシンセリティ家の娘リサ。

 リサの友情の篤さは、他でもない私が誰よりも知っている。



「どうして、どうして……!! ミラ、私たちは親友でしょう!?」

「その通りよ。私はあなたのことを愛している。今も一生の親友だと思っているのよ。

 けれど同時に、私はこの国で出会った人たちを、仲間のことを愛しているの。

 彼らもまた、二回目の私の人生にたくさんの希望や喜びを与えてくれた、大切な親友、そして、心から尊敬できる人たちなの。

 リサ、私はようやくわかったの……。

『誓い』の儀式は、捧げる方と戴く方と、ともに気持ちがなければ成立しないわ。

 あなたの真心はちゃんとラルフ陛下に届いた。それはあなたの気持ちとラルフ陛下の気持ちが同じだからよ。

 けれど、私の真心はラルフ陛下には届かない。

 なぜなら、ラルフ陛下は私の『誓い』を拒絶しているから」

「え……、そんな……、まさか……!?」



 私はラルフ陛下に向きなおった。



「さっき目があったときに、わかりました。

 陛下は私に対して贖罪の気持ちがまだ果たせていないせいで、私を恐れ怯えていましたね。

 そんな私から『誓い』を捧げられても、ラルフ陛下は素直に受けることができないのです」

「そんな、ラルフ……!」



 リサの視線を受けて、ラルフ陛下がややあって静かにうなづいた。

 大きく目を見開いたまま、リサが言葉を失った。



 アドルフ様とラルフ陛下にふたりで『誓い』を捧げたあの日。

 当時まだ幼くてわからなかった。

 アドルフ様に光が届かなかったのは、多分、アドルフ様はリサに惹かれていたから。

 私の光ではなく、リサの光を求めていたのだと思う。

 アドルフ様自身それに気づいていたかどうかはわからない。

 私たちの儀式は早すぎたのだわ。

 もっと時が経ってからだったなら、私たちはうまくやれたのか……。

 今となっては誰にもわからない……。



 うなだれて肩を落とすリサ。ラルフ陛下が寄り添った。

 セントライト王国に、私の光は戻らない。

 リサ、あなたが皇子妃として過ごしてきた時間と同じだけ、私も私の時間を生きてきたの。

 私たちの道はもう同じではない。同じ夢はもう見られない。

 それを『誓い』の光が証明してくれた。

 失った時は戻らない。

 私は私の人生を進みますわ。

 私にとって、これが祖国との本当の決別なのですわ……!



「ミラ!!」



 ヴァレンティーノ様が駆けてきて、強く私を抱きしめた。

 ああ! 今度こそ、きっと届くと思っていた。

 私の真心が……!

 ヴァレンティーノ様、……あなたに!



「ミラ、ミラ! ああ! ありがとう! 俺は最高にうれしい!」

「あ、あの、苦しいですわ……」

「っ、すまん!」



 腕を緩めたヴァレンティーノ様が、にこにこ顔で私を腕の中に閉じ込めている。

 ふふっ、なんて素敵な笑顔。

 このたくましい温もり、心地いいですわ。



「俺はなるぞ! ミラの『誓い』に恥じない立派な王に、俺はなってみせる!」

「信じていますわ」

「ミラ!!」



 んぅ……っ――!

 こ、ここで、キス……!?

 一瞬で、頭の中が真っ白に……。

 …………い、息が……!

 こ、呼吸の仕方がわかりません……っ!

 でも……。

 幸せで、胸がいっぱいですわ……!



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