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王の企み
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ロルフの伴侶となり、彼の国へ嫁いで一月経った頃だった。
エリオの元に思いがけない客がやってきたのだ。
「兄上!」
「ニルス!?」
「お久しぶりですエリオ様」
弟のニルスと、その世話役のクラートがエリオを訪ねてきたのである。
連絡もとれず一体どこで何をしていたのか、じっくり話を聞きたい気持ちはあるのだが、何故ここにエリオがいる事実を知り得たのかが気になった。
抱きついてきたニルスを複雑な気分で見つめる。
「ロルフ様が、僕たちを見つけてくれたんだ」
「ロルフ王、が?」
「ひとまず、エリオ様のお部屋でお話するように言われております」
「あ、ああ」
エリオは自室に二人を招き入れて、卓を囲む椅子に座らせた。
お茶を用意したダークエルフの使用人を下がらせて、部屋の中には三人だけになる。
二人はクラートの親戚が住んでいる、山奥の村に身を隠していたらしい。
そこに、ロルフの使者が突然やって来て、エリオの現状を伝えたという。
さらに、エリオが知らない事実を、クラートが険しい顔で語った。
「ロルフ様は、ヴァルド様を亡き者にするつもりです」
「え?」
「兄上の身が危なくなるから、弟の僕にも手が及ぶだろうって」
「……だから、ここに。でも、余計に危険なのでは」
「いいえ。実は、村にはヴァルド様の手によるものの監視役がおりました」
「なんだって?」
その話が本当なら、ヴァルドはいずれ二人を捕らえるつもりだったのか。
――ロルフ王には感謝だな。
「そういえば、ロルフ王の姿が見えないんだが、二人は城にたどり着いた時に挨拶はしたのか?」
「それが……」
「どうした?」
言いよどむニルスの代わりに、クラートが話を続ける。
「恐らく、会議かと」
「どういう意味だ?」
「なんでも、七日後に晩餐会を開かれるそうで」
「晩餐会?」
ロルフは同盟国の各国の王を招き、晩餐会を開く事を計画しているらしい。
「でも、俺には何も話がない」
「と、いうのは?」
「……ロルフ王は、俺を、ヴァルドとはあわせないつもりなんだろう」
「兄上」
しばしの話し合いの後、二人は別途与えられた部屋に案内されて、エリオはまた一人になった。
ニルスはまだ、クラートに妙な薬を飲まされてはいないようだ。
油断はできないので心配だったが……。
今は、どうしてもクラートからもたらされた話が気になってしまう。
『こちらに連れてこられる時、馬車の中で兵士達の話を聞いてしまいましいてな……ロルフ様はヴァルド様に毒を盛るつもりのようで』
――それが、本当なら止めなくては。
あの自信に満ちた王が、まさか毒を盛るなどという、卑劣な真似を考えるだなんて、想定外だった。
クラートの言うことなど普段ならば信じないが、奴はあくまでもニルスの身を案じてエリオに耳打ちしてきたのだろうと推測できる。
今、ヴァルドを――王を我が国が失えば、混乱に陥る。
それに、ロルフは我が国を支配するつもりなのだ。
晩餐会の前に、なんとしてでもヴァルドに会わなくては。
晩餐会が開かれるまでの間、ロルフにははぐらかされ、ニルス達にもあわせて貰えず困り果てたが、これで確信する。
ロルフは、ヴァルドに毒を盛るつもりなのだと。
どうする事もできず当日を迎えたエリオは、仕方なくあまり睡眠をとらないようにして、仮病を使って寝込むことにした。
神官に頼めばすぐに治癒できるのだが、自然治癒力を損なうという理由で、二日は様子をみたいとつっぱねた。
「では、安静になさっていてください。後ほどお食事をお持ちいたします」
使用人が出て行ったのを見計らい、エリオはそっと部屋を抜け出す。
耳に入れた話からすれば、昨日からヴァルドが最上階の部屋に泊まっているはずだ。
通路を見つからないように慎重に進んでいく。
思った通り、晩餐会の準備で人は少ない。
足早に階段を上り続けた。
「はあ、はあ……」
ほとんど駆け上がったので少し息が上がってしまった。
剣の稽古を怠っているせいか、身体がだいぶなまっている。
肩で息をしつつ、角から部屋の前を伺う。
ちょうど兵士が離れる所だったので、その隙をついて扉を叩いた。
少しの間の後、そっと開かれた扉から黒髪の男が顔を出した。
「ヴァルド!」
「……エリオ?」
エリオは早鐘をうつ心臓を無視して、ヴァルドの腕を掴むと強引に部屋の中に押し入り、目を見て言い放つ。
「晩餐会には出るな」
「何?」
「ロルフ王は、お前に毒を盛ろうとしている」
この男に嘘もごまかしも通用しない。
それを痛いほど理解しているので、事実を伝える。
ヴァルドは眉根をぴくりと動かすと、エリオの胸ぐらを引っつかみ睨んできた。
「それを、何故おまえが俺に知らせる必要があるんだ?」
「……え」
そう問われて、エリオは思いつく限りの理由を口にする。
「今、王を失えば我が国は混乱する、それにロルフ王は自国を支配するつもりだ。民が、どうなってしまうか心配で」
「国を捨てた元王子にはもう関係ないだろう? 民の事など」
「そ、そんな事はない! それに、俺は……」
「なんだ?」
胸ぐらを離されてよろけるが、倒れないように足に力を入れた。
まっすぐにヴァルドを見つめる。
強い視線に圧倒されそうになり、視線を落とす。
――俺は、そうだ……。
この男を、失いたくないんだ。
「俺は、お前に生きていて欲しいから」
俯いて身を寄せて懇願する。
「だから、晩餐会には出ないでくれ」
「……エリオ」
ヴァルドが何か言葉を続けようとしていた――その時。
「やはりここにいたか!」
「!?」
この声は……。
顔を上げてヴァルドから身を離し、その背後に立つ巨体を見上げた。
ロルフが腕を組み、双眸を細めて立っている。
その傍らには意外な人物が付き添っており、エリオは目を見開いてその名を口にした。
「ミハイル?」
「ご無沙汰しております、エリオ様」
名を呼ぶと、ミハイルは丁寧にお辞儀をしてみせた。
エリオの元に思いがけない客がやってきたのだ。
「兄上!」
「ニルス!?」
「お久しぶりですエリオ様」
弟のニルスと、その世話役のクラートがエリオを訪ねてきたのである。
連絡もとれず一体どこで何をしていたのか、じっくり話を聞きたい気持ちはあるのだが、何故ここにエリオがいる事実を知り得たのかが気になった。
抱きついてきたニルスを複雑な気分で見つめる。
「ロルフ様が、僕たちを見つけてくれたんだ」
「ロルフ王、が?」
「ひとまず、エリオ様のお部屋でお話するように言われております」
「あ、ああ」
エリオは自室に二人を招き入れて、卓を囲む椅子に座らせた。
お茶を用意したダークエルフの使用人を下がらせて、部屋の中には三人だけになる。
二人はクラートの親戚が住んでいる、山奥の村に身を隠していたらしい。
そこに、ロルフの使者が突然やって来て、エリオの現状を伝えたという。
さらに、エリオが知らない事実を、クラートが険しい顔で語った。
「ロルフ様は、ヴァルド様を亡き者にするつもりです」
「え?」
「兄上の身が危なくなるから、弟の僕にも手が及ぶだろうって」
「……だから、ここに。でも、余計に危険なのでは」
「いいえ。実は、村にはヴァルド様の手によるものの監視役がおりました」
「なんだって?」
その話が本当なら、ヴァルドはいずれ二人を捕らえるつもりだったのか。
――ロルフ王には感謝だな。
「そういえば、ロルフ王の姿が見えないんだが、二人は城にたどり着いた時に挨拶はしたのか?」
「それが……」
「どうした?」
言いよどむニルスの代わりに、クラートが話を続ける。
「恐らく、会議かと」
「どういう意味だ?」
「なんでも、七日後に晩餐会を開かれるそうで」
「晩餐会?」
ロルフは同盟国の各国の王を招き、晩餐会を開く事を計画しているらしい。
「でも、俺には何も話がない」
「と、いうのは?」
「……ロルフ王は、俺を、ヴァルドとはあわせないつもりなんだろう」
「兄上」
しばしの話し合いの後、二人は別途与えられた部屋に案内されて、エリオはまた一人になった。
ニルスはまだ、クラートに妙な薬を飲まされてはいないようだ。
油断はできないので心配だったが……。
今は、どうしてもクラートからもたらされた話が気になってしまう。
『こちらに連れてこられる時、馬車の中で兵士達の話を聞いてしまいましいてな……ロルフ様はヴァルド様に毒を盛るつもりのようで』
――それが、本当なら止めなくては。
あの自信に満ちた王が、まさか毒を盛るなどという、卑劣な真似を考えるだなんて、想定外だった。
クラートの言うことなど普段ならば信じないが、奴はあくまでもニルスの身を案じてエリオに耳打ちしてきたのだろうと推測できる。
今、ヴァルドを――王を我が国が失えば、混乱に陥る。
それに、ロルフは我が国を支配するつもりなのだ。
晩餐会の前に、なんとしてでもヴァルドに会わなくては。
晩餐会が開かれるまでの間、ロルフにははぐらかされ、ニルス達にもあわせて貰えず困り果てたが、これで確信する。
ロルフは、ヴァルドに毒を盛るつもりなのだと。
どうする事もできず当日を迎えたエリオは、仕方なくあまり睡眠をとらないようにして、仮病を使って寝込むことにした。
神官に頼めばすぐに治癒できるのだが、自然治癒力を損なうという理由で、二日は様子をみたいとつっぱねた。
「では、安静になさっていてください。後ほどお食事をお持ちいたします」
使用人が出て行ったのを見計らい、エリオはそっと部屋を抜け出す。
耳に入れた話からすれば、昨日からヴァルドが最上階の部屋に泊まっているはずだ。
通路を見つからないように慎重に進んでいく。
思った通り、晩餐会の準備で人は少ない。
足早に階段を上り続けた。
「はあ、はあ……」
ほとんど駆け上がったので少し息が上がってしまった。
剣の稽古を怠っているせいか、身体がだいぶなまっている。
肩で息をしつつ、角から部屋の前を伺う。
ちょうど兵士が離れる所だったので、その隙をついて扉を叩いた。
少しの間の後、そっと開かれた扉から黒髪の男が顔を出した。
「ヴァルド!」
「……エリオ?」
エリオは早鐘をうつ心臓を無視して、ヴァルドの腕を掴むと強引に部屋の中に押し入り、目を見て言い放つ。
「晩餐会には出るな」
「何?」
「ロルフ王は、お前に毒を盛ろうとしている」
この男に嘘もごまかしも通用しない。
それを痛いほど理解しているので、事実を伝える。
ヴァルドは眉根をぴくりと動かすと、エリオの胸ぐらを引っつかみ睨んできた。
「それを、何故おまえが俺に知らせる必要があるんだ?」
「……え」
そう問われて、エリオは思いつく限りの理由を口にする。
「今、王を失えば我が国は混乱する、それにロルフ王は自国を支配するつもりだ。民が、どうなってしまうか心配で」
「国を捨てた元王子にはもう関係ないだろう? 民の事など」
「そ、そんな事はない! それに、俺は……」
「なんだ?」
胸ぐらを離されてよろけるが、倒れないように足に力を入れた。
まっすぐにヴァルドを見つめる。
強い視線に圧倒されそうになり、視線を落とす。
――俺は、そうだ……。
この男を、失いたくないんだ。
「俺は、お前に生きていて欲しいから」
俯いて身を寄せて懇願する。
「だから、晩餐会には出ないでくれ」
「……エリオ」
ヴァルドが何か言葉を続けようとしていた――その時。
「やはりここにいたか!」
「!?」
この声は……。
顔を上げてヴァルドから身を離し、その背後に立つ巨体を見上げた。
ロルフが腕を組み、双眸を細めて立っている。
その傍らには意外な人物が付き添っており、エリオは目を見開いてその名を口にした。
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