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夫の意外な一面
しおりを挟むロイスは紋を撫でながら、陛下の意志を皆に説明する。
「では、陛下は彼を使って子供ができるのか確かめろと?」
「そうだ。俺は騎士の身であるが故、性交をする相手は伴侶とのみと決まっている。陛下が気を配って下さって、文斗と結婚する事となったのだ」
「なるほど、そういう事でしたか」
そんな話に疑問も持たずに納得する客人達の様子に、文斗は薄ら寒いものを感じて急に怖くなった。
――この人達は、基本的に何かが欠けている。
モラルだとか単純な言葉では表現できない、もっと根っこが深い場所に問題がある気がした。
ロイスがやっと解放してくれて、文斗の衣服を整えてくれると、今度は客人達に挨拶をして回らなければならないというので、大恥をかいた後だというのに、どこまで馬鹿にするのだろうかこの夫もどきは。
客人達は基本的に上位階級なのもあって、紳士淑女といった雰囲気の人達ばかりなのだが、男はだいたい小太りかやたら筋骨隆々としており、どちらも共通するのはその欲望に満ちた目だ。
文斗を見つめる目の色に欲情を滲ませて、隠そうともせず、唾を飲み込み舌なめずりをする輩までいる。
「フミト殿は可愛らしいですなあ……さっき見せてもらった肌の白さといったら、なんて美味しそうな……」
「え」
小太りのオヤジが手を伸ばしてきて、思わず身を引くと、そのふくよかな手を、長い手指がバシッと振り払う。
驚いたオヤジがロイスを見て怯えたように息を吐き出す。
「ひう」
「陛下が選んで下さった大事な伴侶だ。そのような目で見るのはやめて頂きたい」
「も、申し訳ありませんでした」
どうやら守ってくれたらしい。
あくまでも陛下の面子の為という意図ではあるが、始めてこの騎士が夫らしい面を見せてくれて、少しだけ見直す。
ふいに視線があって一応「ありがとうございます」と伝えると、無言で微笑まれてどきっとした。
頬が熱い。文斗は自分の単純さに苦笑する。
――この人は、あくまでも陛下を一番に考えているだけなのに。
それから挨拶は順調に進み、百人余りの人達と相対するなんて、初めての経験なので、ようやく一段落付いた頃には疲労感から眠くなってしまい、ソファで休ませてもらっていた。
「ふう……」
うとうとしていたら、人影に気付いて目を開けてみる。
目前に赤い髪に切れ長の翡翠の目の男が見えたので、背筋を伸ばした。
「へ、陛下!?」
「そのままでいい。大分疲れたみたいだな」
「あ、いえ、その」
「ロイスはどうした」
広間を見渡すと、客人達はまばらであり、すっかり閑散としている。帰るのは自由ということらしい。
ろくにルールも教えられず、ただロイスの言う事に従っていただけだが、それが余計に疲れた。
陛下が隣に腰掛けて頭を撫でてくれる。
皆が陛下に気付かないか焦ったが、どうやらすでに気付いているようで、わざと近寄ってこないらしい。
暗黙の了解という事か。
陛下は気遣うような言葉をかけてくれたので、文斗も何か会話を繋げようと思い、ロイスから持ちかけられた旅行について口にする。
「新婚旅行?」
「はい。お互いを知る必要があるっていう話をされて」
愛し合ってはいないが、長い期間を共にするパートナーなのだ。
お互いの理解を深める必要はあるだろうと、文斗は承諾した。
陛下が険しい顔つきになってしまったので、不安になる。
やはりロイスを独り占めされるのは気にくわないだろうか。
それとも、愛人が勝手な行動をするのかと憤りを感じているのだろうか。
陛下の感情を読み取れず困っていると、ロイスがやっと戻ってきてくれてほっとする。
「ロイス様」
「遅くなってすまない。陛下来て下さったのですね」
「ああ……お前達、新婚旅行にいくのか」
「そうか」
やっぱりまずかったのかな。
文斗は二人の様子を伺い、会話には入らない様にした。
やがて神妙な面持ちで陛下に言葉をかけられ、向き直ると両肩を掴まれて突然語られる。
「この世界の異世界人の認識について、話してやろう」
「異世界人の?」
今更、どうして。
ロイスに視線を向けると真剣な表情で頷かれて、緊張感で背筋に汗が流れるのを感じた。
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