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滑稽なお披露目会
しおりを挟むお披露目会当日がやってきた。
ロイスが選んだ衣装を身に纏い、客人達の前で挨拶をしなければならない。
色は真っ白で、見るからに高級そうななめらかな布地である。
さらに細やかな刺繍があしらわれており、身体のラインがはっきりとわかるものの、露出は控えめの清潔さが重視された衣装である。
客人の数はざっと見て、百人はいるようだ。
屋敷の大広間は朝から使用人達が奮闘してくれた結果、ご馳走の山が実に綺麗に各卓に並べられて、鮮やかな色彩を放っている。
たっぷりの酒と、美味しいご馳走を味わっていた客人達に、主人の声が注がれた。
「皆様、これより我が伴侶よりご挨拶がございます」
「おお!」
ロイスの声に、皆が一気に注視すると、当然隣にいる文斗もその視線に晒される為、緊張感に身が引きしまる。
静まり返った大広間で、十六歳の少年の声が響き渡った。
「初めまして皆様、私は異世界から参りました。カシギフミトと申します。本日はお集まり下さって誠にありがとうございます」
この世界の礼儀作法は、元の世界とさほど変わりはないようなので、努めて丁寧な態度を心がけてみる。
感心したような声が囁かれるのが聞こえて、ロイスに視線を向けると頷かれたので、まずまずと言った所らしい。
――次に、ロイス様をどれだけ愛してるのか、だったよな。
ロイスと話し合った上できちんと決めた内容があるので、その言葉をできる限り表情豊かに、想いを込めて伝えなければならない。
愛してもいない人をいかに愛しているのかを語るだなんて、なんて滑稽なのだろう。
それでも、今はこうするしかないのだ。
深呼吸を繰り返し、言葉を紡ぎ始めた。
「私はこの世界に来た時、湖で溺れており、ロイス様に助けられました。一目見た時、ロイス様に惹かれて、私から積極的に話しかけるようになりました」
祈るようなポーズを取って、身振り手振りで乙女のような仕草でロイスへの愛を語り尽くす。
聞いている方が恥ずかしくなる程だろう。
文斗はよくこれだけの台詞を覚えて、しかも上手い演技ができるものだと自分に感心さえしていた。
後はもうのろけ話にしかなっていなかったが、客人達はすっかり満足したように、笑ったり、酒をあおり料理を頬張って、和やかな雰囲気になっていたのだが――男の低い声が、その雰囲気を壊した。
「嘘をつくな!」
「!?」
その声の主はまだ若い茶髪の男で、どうやらロイスの仲間、つまりは騎士だった。
激高した彼は文斗を指さすと、さらに声を荒げた。
「こいつは陛下をたぶらかして妃の座を奪おうとしていたんだぞ!」
「な……」
思わず文斗は声を出しかけるが、その前をロイスの腕が遮った。
ロイスは真剣な眼差しで彼を見据え、客人達の様子を伺う。
やがてため息をつくと、文斗の腰を引き寄せて――あろうことか、衣装をまくりあげて、腹に刻まれている紋を皆に見せつけたのだ。
文斗は「ひ!?」っと悲鳴を上げるが、ロイスは気にもとめず、淡々と語り始める。
「確かに彼の言う通りだ、文斗は俺を愛していないし、俺も文斗を愛してなどいない」
ロイスの態度に、場は凍り付き、文斗はめまいさえ覚えた。
――ロイス様は、全てを話すつもりだ。
止めるべきか迷ったが、口を開こうとすると、睨めつけられたので黙るしかなかった。
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